1-差し出した手
拝啓――私のお金を盗んで好き放題してたあげく、無様にも泥棒にぶち殺されたお父様お母さま。
このたび私は、とうとう綺麗な男の子を飼うことになってしまいました――。
お前達と違って天国に行くぞなんて思い上がっておりましたが、再び相まみえることになりそうです。
その時は、全力でぶん殴りますのでどうぞ苦しみ悶えながら、その時を待っていやがってくださいませ。
それはある日、ぶらぶらと旅先に寄った街の中でのこと――。
ちょっといつもと違う道先で、スラム街入り口当たりをおっかなびっくりで通っている時、ふと目があいました。
それはスラム住民らしいボロボロに薄汚れた姿の少年――いや美青年。
少年という程のあどけさはなく、男と呼ぶには若々しく。
熟れつつある果実かのような、今しか感じられない色気が彼から溢れていた。
アイドルや天使、もしくはインキュバスと思うような……そんなの子が何故スラムの入り口に。
色々と、私なんかじゃ想像出来ないようなやんごとなき事情があるんだろう。
ただ、それはそれとしてイケメンが不憫だと妙に心に来るものがある。
だからまあ、私は悪くない。
「行くとこないなら来る?」
考えるより先に、正直な私の口が動いていた。
「いく」
そう、彼は答えた。
外見通りの美しい、吟遊詩人のような甘い声だった。
そんな、とても高尚かつ、天使のように清らかな私の心に従って、私は彼をスラムから拾い上げた。
ちゃんと返事があって一緒に連れていくことになったから、合意の上。
つまり私は悪くない。
悪くな……いや、正直罪悪感はんぱない。
これは一種の人買いのような気もするし、ちょっとみだらな女性用のお店に行ったような気分にもなる。
別にそんなつもりはまったくないし、弱ってることにかこつけて身体の関係を結ぶ程私の品性は下劣でもない。
それでも、あまりにも彼が美しかったから、私の罪悪感は募る一方だった。
一応、自分でもちょっと信じきれないけれど、基本的には善意のつもりである。
欲望が全くなかったとは、正直言わない。
そりゃ、酷いことをするつもりはない。
それだけは間違いない。
どんな目に遭ったのか想像出来ないから、しばらくは腫物に触るくらいの感覚で彼とは接する予定だ。
だけど、ちょっと自分好みの服装に着飾って、はべらせるくらいはまあ、許される? んじゃないかなぁ。
いやたぶん良いはず。
きっと、メイビー。
「という訳で、まずはお風呂にしようか?」
私の言葉に、彼は小さく頷いた。
言葉は取り消せないから、言っておいて今更なのだが……もう少し言い方やに気を付けるべきだった。
この言い方だと、ものすごく邪なこと考えている上に、がっついているようにしか見えないような気がする。
心なしか彼の警戒心も高まったように思えて……私は、小動物の警戒を解くような笑みを彼に向けた。




