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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
エンペラー・キーパー
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第2話

「ともかく、今日は執務以外の事は此奴こやつに任せるのだ。いいな、サクナよ」

「はい」


 では最初からやってみよ、と執務の予定以外を『女帝』がリセットし、


「なんでそんな思い切るんですかぁ!」


 急に色々な業務のコマンドがまとめてコノハに押し寄せた。


「仕事がしたいのでは無かったのか?」


 完全に油断していて慌てふためくコノハへ、『女帝』はやや人の悪い笑みを浮かべた。


 様々な用途に特化させたドラム缶型ロボット以外は、サクナを除いて誰1人存在しない、朝靄あさもやに包まれ静まりかえっている『御所』の居室にて、『女帝』は粥と味噌汁に白湯の入ったコップ器3つが乗ったおぜんで朝食を摂る。


「……。熱い……」


 だが、コノハが出来上がりの温度設定をミスしたかゆと味噌汁が乗っていて、『女帝』はレンゲを取り落としながら慌てて水を口に含んでちょっとむせた。


「……ご、50度ですよ? 標準設定にしましたけど……」

「おのれ……」

「ひぇ……。削除はやめて下さぃい……」

「落ち着いて下さい。帝様は猫舌でいらっしゃいますから。次回から40度に設定して下さいね」


 水を飲み込んでにらみ付ける『女帝』と、亀の姿勢になっておびえるコノハをなだめ、サクナは『女帝』の隣に正座する。


「冷ますぐらい出来るのだが……」

「そういってド派手にツバを垂らされたのはどなたでしたっけ?」

「うぐ……」


 ジト目で抗議した『女帝』だったが、目を細めたサクナに小さく首を傾げながら言い返され、ガックリとうなだれて『女帝』は大人しく食べさせられた。


「……」

「ええい、隠さずひと思いに言うのだっ。どうせ恥をさらすなら臥薪嘗胆がしんしようたんさせよっ」


 飼い主に遊ばれている猫の様に不本意げな顔をする『女帝』は、いたたまれなさそうに視線を逸らすコノハに気がついて、足下にあった扇子で彼女を指す。


「あっ、いえ。見た目もですけど、共通認識とまるっきり実態が違うな、と……」


 頭脳以外が大体赤ちゃんレベルですね、とは流石に言えず、コノハは羞恥で顔を赤らめてプルプルこらえる『女帝』へ大分マイルド目に言う。


「そうでなければ冗談抜きでこの国が霧散むさんするのでな。知っての通り、我へのおそれで『七貴族』のぼんくら共を押さえ付けることで、かろうじて形を保っている故……」


 うんざり、といった様子でため息交じりに言いつつ、サクナが息を吹きかけて冷ました粥を食べた。


「あっ、だからほぼ毎日胃が……」

「そういうことだ。揃いも揃って思い切りだけは悪い方に良いものでな。特に臣民の命などは塵芥ちりあくたを掃き飛ばすかの様であるよ」

「そんなに邪魔じやまなら、電脳をちゃちゃっとコッソリ焼いてしまえば良いんじゃ?」

「……貴殿も思い切りが良すぎる手合いであるな」


 ホコリを払うぐらいの軽さで暗殺を提案するコノハに、むしろ『女帝』の方がドン引きして、広げた扇子で口元を隠しつつ血の気が引いた顔をした。


「伝家の宝刀は常時振り回すものではないぞ。極論を出すということは、自分の能力に自信がない事の表れなのだ」


 どこぞの〝悪魔〟の様にドンと構えよ、と、説教されて一転おどおどし出したコノハへ『女帝』は要求する。


「息をする様に他人の電脳にバックドアを作って、自分の演算に使うあんな化け物と比べられても困りますぅ……」


 キックしてもキックしても即時リスポーンされた恐怖を思い出し、コノハは座標ズレを起こして壁にめり込みながら七転八倒して首を振る。


「誰が化け物ですか失礼ですねーッ!」


 ライダースーツの様な服装をした、全身真っ白でウルフカットな人工知能のアバターが突如ポップアップしてきて、コノハへ甲高い声でキレる。


「ひぃいいいい! 出たああああッ!? ――って、ダミーじゃないですか陛下ァ……」

「なるほど、聞いたとおりだ。これなら悪さもできまい」


 しかし、それは東の隣国に住まう探偵が、口では嫌がっていたものの、コノハへのカウンター機構として用意させたプログラムが見せた幻で、白い人工知能の顔の下にあった『女帝』の顔は、その効果に満足そうににやついていた。


「こんなのもう孫悟空の頭の輪っかじゃないですか……」

「なんならコピー体を召喚も出来るとかなんとか」

「面白半分で呼ばないで下さいね……?」

「当たり前だ。あの様な人知が及ばぬモノには、近寄らぬに越したことはない」


 まあ、幸いにしてアイーダ(あやつ)の言うことは聞くだけマシではあるが、と『女帝』は続けて困った笑みを浮かべる。


「……」


 その友達の事の様に話す『女帝』へ、そこまで大きな変化ではなかったが、サクナは口をへの字に曲げてちょっとだけ面白くなさそうな顔をする。


「愛いやつめ」


 それを視界の端でしっかり見ていた『女帝』は、上半身を目一杯伸してサクナの頭を撫でた。


「彼奴の方が先に我と関わりがあったといっても、サクナの方が優先順位は上ぞ?」

「帝様……」


 語尾にハートマークを付けて喋る『女帝』とサクナが2人だけの世界を作り、視線を泳がせているコノハは完全に蚊帳の外になっていた。


「あのー……。あの探偵さんとかサクナ様と陛下の関係とか、私にも説明してもらえませんか?」


 おずおずと手を挙げて訊いたコノハは、もちろん支障があるなら結構ですけど、とすごく早口で言いながら土下座した。


「まあ良かろう。もしばら撒いたら、鼻から手を生やした姿で固定するが」


 めちゃめちゃ言いたそうに目を見開いたが、口を真一文字にして堪えたサクナを見て、『女帝』はしっかり釘を刺しつつも快諾した。


「とはいえ、申し訳ないが彼奴あやつの話は我からは出来ないぞ。精々、我とサクナが出会ったきっかけとなった、程度の事までしか言えない」

「あっ、はい」

「……」

「先に言っておくが、サクナを見つけたのは我の意思だ。彼奴の意思は断じて一切介入していない」


 ビシッとコノハを閉じた扇子の先で指しつつ、『女帝』はサクナの目を真正面から見て少し声を張って言う。


 それはコノハへの前置きでもあり、ちょっとご機嫌斜めになっていたサクナへの宣言でもあった。

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