第4話
寒空の下、アイーダ達は生の目撃証言も当たって数時間探し回った。
「お、アイツか?」
「そのようですね。映像と特徴がほとんど一致します」
日付が代わる間際、街の東部にある川沿いの低所得者向け中層アパートで、アイーダは2シーター車ほどの大きさがあるソリ型のドローンと、お馴染みの赤い衣服のサンタを発見した。
「よし、そんじゃま話しかけてみるか」
「ちょっと待ってください。武器は……無さそうですね。っていうかあれ、民生品の配達用アンドロイドですね」
「サンタも自動で配達かよ。味気もクソもねえな……」
早速バイクから降りてサンタに近づこうとしたアイーダを制したナビは、サーモスキャンと動作解析で相手が丸腰な事を確認して、オッケーです、指で丸を作った。
「よう。おあつらえ向きな格好じゃ――」
「おやおや、こいつはラッキーだね。そこのよい子のお嬢ちゃん、何か欲しいものはあるかな? 今ならまだ間に合うぞ」
アイーダが気安い態度で挨拶から入ろうとしたが、サンタからそれに被せられる格好でナビへの質問がされた。
「やったーっ! 私良い子判定ですよ! それはもちろんこのアイーダさんです!」
「お前なに言ってん――えっ、あっ、ちょっ!」
拳を突き上げて喜んだナビの答えを聞いたサンタは、呆れた顔をするアイーダに詰め寄ると、肩にひょいと担いでドローンに乗せてしまった。
「止めろはなせッ」
すぐさま逃げようとしたが、サンタに首根っこを掴まれて布袋の中に入れられてしまった。
「バカ野郎寒いだ――むぐっ」
邪魔なものと判定されて脱がされた上着がソリの上に放られ、抗議も虚しく袋の口も紐で縛られる。
「ちょっと何するんですかッ!」
「ごめんよ。さあ、今日はもうお家に帰ってお休みなさい」
バタバタと駆け寄って、喚き声を上げながら激しく暴れるアイーダを救出しようとしたナビだが、サンタアンドロイドに弾き飛ばされて尻餅をついた。
「またこんな役回りかよぉぉぉぉ……」
「わーッ!」
アイーダは藻掻いて顔だけは出したが、すでにドローンは落下したら危険な高さまで上がっていた。
上空でホバリングして東を向いたドローンは、ジワジワと速度を上げながら直進していった。
その際、風に煽られてアイーダの上着が宙に舞い、追いかけて裏路地から表のコミュニティ道路へ飛び出したナビの目の前に落下してきた。
「私のせいで大変なことに……。こんなときにはカメラドローン――は速さが足りないッ」
遠くなっていくソリをなんとか追いかけようとするナビだが、介護アンドロイドの機体ではバイクも動かせず、秘密機能のドローンも速力が圧倒的に足りないため、上着を手に呆然と見上げるしかなかった。
すると、サンタが向かう方とは逆方面から来た、シルバーのスポーツセダンがナビの前に停まった。
「あら、見に来て良かったみたいね」
「誰ですかっ。ってカガミさんの上司の……」
「シチシよ。それよりもカガミに言った方が良いんじゃない?」
「あっ」
運転席の窓が開いて、中から〝0課〟の現場指揮官であるシチシ・ツルギが、その涼しげな表情にピッタリの声で冷静にアドバイスした。
「カガミさん緊急事態ですーッ! アイーダさんが誘拐されましたーッ!」
「なにッ!?」
運河沿いの道を走っていたカガミは、その一報を聞いて動揺してふらつき、慌ててバイクを横にスライドさせながら停止した。
「ツルギ主任はっ!?」
「そばにいますッ」
「ごめんなさい。1歩遅かったわ」
「そうですか……。……ナビさんを乗せて追跡してください」
「了解」
悲鳴を上げそうになるのを深呼吸の挙動で堪え、カガミは冷静な声色でツルギへ頼んだ。
「カガミはとりあえず近くの支局で待機してなさい。――ナビさん乗って」
「あっ、はいっ」
ツルギはカガミとの電脳通信を切断すると、ナビに親指で助手席を指し、彼女が乗り込むと即座にアイーダが連れ去られた方へと進む。
「位置情報の追跡は?」
「どうもジャミングが働いてるみたいで通信できません……」
「分かったわ。――ギボシ、公安の監視ドローンでD98-200付近を飛行中の不審飛行体を追跡して。大至急」
「ええ……、こんな夜半に……。それに許可が無い……」
「後で課長にぶん投げてなんとかすればいいのよ。早くしなさい。可愛い妹分に一生嫌われてもいいの?」
追跡不可能、と聞くやいなや、ツルギは公安本部内の仮眠室で寝ていたギボシを電脳通信で操作して物理的に叩き起こし、カガミからの好感度を盾に顎で使った。
それから十数分後。
「あのなあ。〝プレゼントはア・タ・シ〟とかもう流行らねえわけよ」
アイーダは街の東の果てにある、廃業した巨大物流倉庫に運ばれ、
「ヘックション!」
暖房も効いてなければろくに掃除もされてないそこで、太いリボンによって縛り上げられた後にベルトコンベアによって運ばれ、アームで掴まれて連れてこられたソリの上に転がされていた。
広大な倉庫内には同じようなサンタ&ソリが百数セット、10列のベルトコンベアの脇にそれぞれ規則正しく並んで荷物を詰め込んでいた。
「せめてアルミ袋にでも入れてくれねえか? 流石に年の瀬に具合悪いのは仕事に響くんだよ」
「……」
先程まで饒舌に喋っていたサンタアンドロイドは、座席に腰掛けた状態のままウンともスンとも言わない。
軽口を叩いてもなにも起きないため、アイーダは代わりにため息を1つ吐いた。
この規模のもんを維持出来るのはもちろん巨大企業だろ。んで、汚れ具合から去年はまだ稼働してるはず。そんで廃業してるとなると……、キンセンのか……。
「――んあッ」
暇潰しに見える範囲内で場所を推理していたアイーダは、寒さに耐えるために丸くなろうとしたが、丁度リボンがヘンな風に擦れてやや湿った声を漏らした。
「あーもう、これじゃろくに動けもしねえじゃねえか……」
風邪引くの確定だなこりゃあ、と身震いしたアイーダが再びため息を吐いた。
その直後、アイーダの目の前にいかにもなプレゼント箱が配置され、小型冷蔵庫が入るぐらいのそれのせいで視界も塞がってしまった。
なになに? 送り先がニバリキ? ってこたヤクザもんじゃ――ん? なんかアーモンドみてえな……?
思い切り顔をしかめたアイーダの鼻腔に、独特なアーモンド臭が入ってきた。
マジのアーモンドがそんな直入れされてるわけねえし……。えっ、これもしかして中身C-4じゃね……?
「爆破オチとか洒落にならねえぞッ! ナビー! カガミー! 助けてくれーッ!」
最悪の可能性が脳裏をよぎったアイーダは、誰もいない倉庫に情けない声を響かせた。




