第3話
「結局、誰も来ませんでしたね」
「そういう日もあらぁよ」
お礼の通信が数件かかってきたぐらいで、依頼人は1人も来なかったため、アイーダはいつものどこぞの探偵みたいな格好で、カガミとナビを引き連れて出かけた。
住居用出口から裏路地に出て、横道と事務所入り口がある〝裏通り〟との交差部分を横断し、反対側の横道から更に〝表通り〟へと移動した。
「おん? なんか観光客が多いな」
すると、夜間営業の飲み屋が大多数の中、数少ないランチ営業の店や前後の門周辺に並ぶ食料品店に、大概どこかくたびれている地元住民とは人種や雰囲気の違う人々が来店していた。
「……ああ。確かに衣服のデザインがこの国のものではないな」
「ですねえ。国外どころかウルトラユナイテッドとか、ハイパーユニオンズの方も居ますね」
ナビは妙に険しい顔で視界に入る人間を映像解析し、その結果をアイーダ達へ伝えた。
「こんな単なる通りなんか見て何が面白いかねえ」
「単なる通りだからこそですよ。見慣れないものって興味をそそりますでしょう?」
「つってもだぜ? 年若いのが来る様な場所じゃねえだろ」
「あー、まあ、否定はしませんねぇ……」
「どうもこういう無骨な場所へのブームが起きているらしい。……そのせいで軍事機密エリアの警備に負担がきているようだが」
「ほーん、そういうこ――」
酔狂なことで、と言おうとしたアイーダは、その視界に前髪が寸分の狂いもなく額の中央付近で切りそろえられた、ショートカットの若い女の集団を捉え、表情が固まって数秒足が止まる。
「どうされました?」
「敵、か?」
なにか危険を感じたのか、と早合点したカガミとナビが辺りへの警戒レベルを上げ、電脳通信でアイーダへ訊ねる。
「いや何でもねえ。オールドウェストランドの人間がいただけだ」
直後、何ごとも無かったかの様に歩き出し、アイーダは服装で若干女達の興味を引きつつも通過した。
「あっ、確かにそのようですね」
「正当な理由がないからかなりグレーなんだが……」
その一瞬の間に、ナビは女の電脳にちょっと手を突っこんで、オールドウェストランド政府発行の観光ビザを読み取って共有した。
「なんていうかこの方達アレですね。全員同じ服で量産品みたいといいますか……」
全員がとにかく飾り気のない、黒いパンツスーツを着用する彼女達の記録画像を出し、その没個性にも程がある姿にナビは首を捻る。
「それがあの国の決まりでな。あれ以外の格好はお偉方以外は禁止なんだよ。ちなみに野郎もいがぐり頭固定だし似たようなもんだ」
「アイーダさんは似合いそうですけど、好みじゃなかったり似合わない方は大変そうですね。あの髪型も」
「アタシもパッツンは嫌いだったけどな。アイロン必須でクソ面倒くさいし」
「アイーダさんのお髪って、ちょっとくせっ毛でふわふわですもんね」
「おう。朝クソ忙しいのに30分はロスしてなあ」
当時を思い出したアイーダは、渋い顔をして振り払う様にかぶりを振った。
「……」
「しっかし、この人工頭髪ってのは良いよな。少なくともくせ毛には悩まねえで済む。なあカガミ」
「……あっ、ああ。そうだ、な。ちょっと勉強したんだが、私とナビさんが使っているものは対熱タイプで、それに拘らなければもっと地毛に近いものがあるらしいっ」
髪型の話題についてこられず、あんまり面白くなさそうに周囲に目を光らせていたカガミは、アイーダに会話へ引っ張り込まれてやや早口で答えた。
「なるほど。ではフルアーマーナビちゃんへの発展性はあるわけですか」
「発展性だけはな。まあ何回も言うようだが使う予定はねえぞ」
「ええー……」
「大体にその本体は介護用の素体で戦闘には使えないが……」
「知ってますよそのくらい」
そこの入れ替えも含めてフルアーマーなのでーす、とナビはカガミの指摘にかなり棘のある視線を向けて言い返した。
「ところでその、アイーダさんの学生時代って――」
「ちょっとカガミさん! 自分から話されるのを待てないんですかアナタは! 私も前々から気になってはいましたけれども」
「別にこれといってトラウマなんか無えから、好きに訊いても良かったんだぜ?」
純粋に興味で訊こうとしたカガミを止めて彼女を睨むナビだが、本人が話しにくそうという様子の欠片も無さげにあっけらかんとしていて、
「私が余計な気を回していた様ですね……。うわー、そうと分かっていればもっと早く……」
うーんうーん、とナビは頭を抱えて唸り始め、通行の邪魔だから立て、とアイーダは容赦なく足で小突いて立たせた。
「んもー。アイーダさんはドSなんですからぁー」
「ま、道ばたでするような話じゃねえ。マスターんとこいくぞ」
予定変更になっちまうけどすまねえ、とアイーダはナビを無視しつつ手刀でカガミへ断りを入れると、彼女は一切気にしていない様子で了解した。
「買い物なんかより明らかに最優先するべきだから、な」
「いやお前、地べたで寝るのの回避の方が流石に上だから」
純度100%大真面目でそんな事を言うカガミへ、アイーダは彼女の両肩に手を置いて諭す様に言う。
「特に問題は無いが……」
「大ありだよ。警備アンドロイドじゃねえんだ、ちゃんと人みたいに振る舞え」
「ああ……。わかった」
首を傾げるカガミは何が問題なのかはいまいち把握していないが、アイーダがいうなら、と神妙な顔で頷きながら言う。
「人間社会に溶け込もうとする怪物じゃないんですから」
「君は人の事言えないが?」
「なにをー?」
「はいはい、喧嘩すんな」
呆れた様子で首を傾げ、棘のある例えをしたナビにカガミがメンチを切ったが、アイーダがその間に割って入って止め、両腕でそれぞれ肩を抱いて行きつけの喫茶店へと移動した。




