第1話
「よーし、異状なしなのでーす」
深夜遅く。アイーダがベッドに潜り込んで眠った事を確認したナビは、事務所や居住スペースの窓や扉の施錠を確認し、要らないのに声出し確認をしてセキュリティをかけた。
「あのドデカ狸さんがどこから侵入してくるか、分かったものじゃないですからねー。たとえ1秒であっても、私とアイーダさんとのスイートタイムを妨害させるわけには行きません!」
ファイティングポーズをとるナビは、ツッコミ不在の中でそう力強く独りごちた。
「さーてさてー、愛しのアイーダさんと同衾しなくては!」
うえっへっへ、と険しかったそれをだらしのない表情に変え、ナビは抜け足差し足でアイーダの寝室へと再度赴く。
「……おは、じゃなくてこ――」
カメラがそこにある様に後ろを振り返りながら、早朝ドッキリめいてドアノブを回したナビに、
「ううーッ」
開けた瞬間、アイーダの苦しそうな声が聞こえた。
「アイーダさんッ!? どうされましたッ、どこが具合でもお悪いのですかーッ!」
もうドッキリの体を投げ捨てて、ベッドの上で脂汗を滲ませてモゾモゾと苦しむアイーダへ、ナビは素早く駆け寄って電脳から彼女のバイタルを読み取る。
「あれ、特に異常がない、という事は悪夢ですねーッ! アイーダさーん! 起きてください!」
「ンガッ」
その結果、特に何か病的なものは一切無く、悪夢を見ている、と判断したナビはアイーダの右肩を掴んで揺さぶった。
「このウルトラスーパーアルティメット美少女AI・ナビちゃんが! あなたを苦しめる悪夢からお助けにあがりましたよーッ!」
「な、ナビか……」
「悪夢を食べるといえばバクですが、バクっていうとちょっと可愛くないかもしれませんが、まあ擬人化すれば可愛いはずです! だいたいまあ動物の方では無く妖怪の類いのようですしねーッ! いくらでも姿形を――」
「――ええい、うるせえ! 目覚まし時計かお前は!」
寝起きでボケッとしていたアイーダだったが、ナビのやかましいマシンガントークにブチ切れて跳ね起きた。
「ヌウーッ! それにしたってアイーダさんに悪夢を見せてしまうなんて! なんという失態でしょうか! ナビちゃんがいる限りアイーダさんの心と身体の全てを守るはずがッ! こうなったら落ち着くまで優しく朝まで抱擁するしかありませーん!」
「いででッ! お前がまず落ち着け!」
それにひるまずにベッドに乗り、勢い余ってフルネルソンに固めてくるナビへ、心配してくれてんのはわかったから、と続けてそれをやめさせた。
「はー、全く。無駄に疲れちまったじゃねえか……」
「すいません……」
状態を確かめるように顔をしかめて腕を回すアイーダへ、ナビはその足元に正座して頭を下げつつ平謝りした。
「どうせお前アタシのバイタル見たんだろ? 特に異常がねえんだから落ち着いて行動しろっつの。つかなんで本人じゃない上にAIのお前が慌ててんだ」
「それはですね! ナビちゃんは高性能なので、そういう人間くさいのも学習して再現しちゃうからなんですねぇ!」
「高性能なら無駄だって考えつけよ」
「おっしゃる通りです……」
殊勝な態度をとっていたナビは、素早く顔を上げていつもの様に得意げに語ったが、アイーダにジト目で指摘されて再びうなだれた。
「まあでも……、助かった」
「はいー」
アイーダが穏やかに目を細め、そんなナビの白い髪をそっと撫でると、彼女はその感触を堪能する様に目を閉じた。
「ふう」
「あっ、撫でるだけでよろしいんですか? 同衾して一晩中抱き枕もサービスしちゃいますよ! 機械熱で冷たくはないですし、なにより癒やしの音楽とかも流せるので、快眠できること間違い無しですよ! いかがでしょう」
「腕痺れるからいらねえわ。つかテレビショッピングか」
手を離そうとしたアイーダのそれを頭上で掴み、ナビがにこやかに圧をかけてセールスするが、彼女はにべもなくそう言って手をやや強引に引いた。
「ぬあー、アイーダさんに安眠をお届けするのに重量という問題があるとは……」
「抱き枕を別に用意してお前がその辺にいればいいだろ」
「えー、それだと私がアイーダさんに密着出来ないじゃないですかー」
「主目的それだろ」
「バレたからには仕方ありませんねぇ。かくなる上は――」
「おっ?」
「添い寝したいのでお願いします!」
すっくと立ち上がったナビは、上半身を90度倒す礼をしてストレートに頼み込んだ。
「え、やだ」
「何でですかーっ!」
「だって夢の中でもお前マシンガントークしそうだろ。かえって気が休まらねえよ」
「へ、偏見ですーッ!」
ベッド上で少し距離をとったアイーダにそう言われ、ナビはその場でこてっとずっこける。
「そんな邪悪な妖怪扱いされて、ナビちゃんは悲しいです……」
「すまんすまん」
そのまま丸くなって拗ねるナビへ、アイーダは軽い調子で手刀を作って謝った。
「添い寝は諦めるとしますが、どんな夢だったんです? あ、ほら、ややオカルト的ではありますが、誰かに話すと正夢になるのは回避出来ると言いますし」
「そうだな。じゃあ――」
「ぬあっ、こんな夜更けにカガミさんがっ」
ナビの言う通り話そうとした瞬間に、アイーダへカガミから電脳通信がかかってきた。
「アイーダさん、虫の知らせがしたんだが、なにか困っていない、か?」
「うわ、何ですかその超能力みたいなのはっ!? 引きますねぇ」
「息をするように個人チャンネルに割り込まないで欲しいんだが?」
「まあ悪夢見てただけだから心配するな。つかすげえな」
「それはよかった。まあこれが愛の力だ、な」
「うわー……」
純粋に驚いているアイーダに対して、カガミはこれ以上にない程のドヤ顔でそう言い、ナビを更に引かせていた。
「まあこの際だ。カガミにも聞かせていいだろうよ」
「ええー……」
「わ、私で良ければ拝聴しようっ」
「あ、良くないのでご退出願いまーす」
「い、や、だ」
「嫌なのはこっちなのですがー?」
「君の電脳ではないから君に決定権はないはずだが?」
「だーもう、夜中にギャーギャーやるんじゃねえよ」
電脳内の映像同士でも、ガンの飛ばし合いを始める1人と1体をアイーダは制止し、
「悪夢つってもまあ、昔のトラウマというかそういうのだな」
全く不愉快そうに腕を組んで深いため息を漏らす。
「まあオールドウェストランドにいた頃の話でな」
「あ、め――」
「……」
「アッハイ」
またつい口に出しそうになったナビは、アイーダに無言でひとにらみされてすぐやめた。
「そこの支配者の女帝サマに逆らって、って話は知ってると思うが、多少はお目こぼし貰ってたんだが、いよいよ機嫌を損ねて捕まっちまってな――」




