第4話
ケイは全身義肢になる前は身体が弱く、臆病で内向的だったせいもあり、同性とも馴染めず1人でいたため、男子児童にいじめの格好の標的にされていた。
そんな彼女に対して、分け隔て無く接していじめからも護ってくれていたのが、今回行方が知れなくなったケイの友人で同僚のトネ・レミだった。
彼女は当時から理系科目の成績が飛び抜けて良く、大学卒業と共にシロノ社の開発部門に就き、まずは家電製品で革命的な洗濯機を開発し、一躍注目を浴びる事になった。
その一方で、ケイは平凡な成績ではあったが、同じシロノ社の管理部門に就職し、身体の弱さ故に休みがちであることに悩まされ、ミスを時々起こして叱られつつもなんとか勤めていた。
社会人になって、天と地ほどの地位の差がありながらも、2人の交流は5年経った現在まで続いていた。
5年の間にレミはいくつも開発を成功させ、弱冠27歳で部長クラスにまで昇進し、花形部署である兵器開発の部署に移って、更にキャリアを積んでいくはずだった。
だが、ネオイーストシティ・メガコーポの例に漏れず、シロノ社も非人道的実験を行っていて、その闇に触れたレミは強く抵抗感を覚えはしたが、必要悪だ、と無理やり自身を納得させて実験を行っていた。
そんな中、ケイの持病である内部疾患が悪化し、命の危機すらあり得る状況に陥ってしまう。
丁度そのとき、参入したばかりの、全身義肢技術の実証実験の被験者を探していた、シロノ社上層部がそのことに目をつけ、実験である代わりに無料で義肢化行う事を提案した。
病弱であることがずっとコンプレックスだったケイは、渡りに船とばかりにそれを受け入れ、元キンセン社の技術者の手によって、大きな鋼の身体を手に入れた。
だが、元々やや思い込みが過ぎるきらいがあったレミが、それをシロノ社上層部が仕組んだことであると考えたようで、ケイから話も聞かずに研究室に籠もるようになる。
そこから社内ネットワークへのアクセスが、2週間に渡って頻繁に行われた後、プツンと途切れたかのように止まり、慌てて警備員が強行突入したが本人はそこにいなかった。
ケイはハードなリハビリが功を奏して身体を十全に扱える様になり、兵器の試射などを行っていたため、失踪が判明するこの日の前日までレミと話す機会は一切なかった。
それをレミと非常に仲の良い同僚から聞かされて知ったケイは、自身でも必死に捜索をしたが、1日では当然見付かるどころか手がかりすらあるはずもない。
警察に頼めばどれほどかかるか分からず、良心的な値段かつ実績のあるアイーダの噂を耳にしたケイは、勤務先である演習場に偶然来ていた彼女に、茂みの中を通ってまでして依頼していた。
「よし、だいたい分かった。お前の親友はなんとか見付けてやっからな。安心してアタシに任せろ」
「あ、ありがとうございますぅ……」
「その涙は見付かったときにとっときな」
泣きそうになりながら必死で話したケイへ、ニカッと笑ったアイーダは、自身の胸元を軽く叩いて力強く言い、本格的に泣きじゃくり始めたケイの肩に手を置いた。
「――というわけで、なんとか見付けられそうな材料を頼むぜナビ。言っちまったからには見付けねえとヤバいからな」
そんな格好を付けているアイーダは、電脳通信ではそう言ってナビに泣きついていた。
「はいはいはい! この極めて優秀な、あなたのスーパー可愛いアルティメットな助手・ナビちゃんにお任せ下さいさーい」
個人チャンネルまで使って頼みこんでくる主に、ナビは現実でまで若干ニヤケながら、士気ブチ上がりの倍速な喋りでそれを引き受けた。
「じゃ、まずシロノ社の周りから映像とか調べてくれ」
「はいはーい」
1番手っ取り早く、会社からどこへ行くのかを調べるために、鹿撃ち帽子のつばを触りつつ、アイーダは口に出してナビへ指示を出した。
「てなわけで、必要があったら呼ぶから、お前さんは仕事に戻んな。なんかてんやわんやになっちまったわけだし」
「はい、では……」
ナビが喜び勇んで作業を開始し、動きが止まったところで、アイーダは未だ混乱中でザワザワしている、表通りの方を親指で指して促すと、ぺこり、と深々お辞儀したケイは、わざわざ元来た茂みから戻っていった。
「たぬきに化かされたみたいな絵面だな……」
「ああ……」
「ですねぇ。あ、3週間前の金曜に入って、正面からも地下通用口からも出ていないのは確認できました」
遠ざかるガサガサ音を聞きながら、アイーダとカガミがケイを見送っていると、正面玄関を向いた道路カメラの画像をアイーダに共有してナビが報告した。
「お、早いじゃねえか」
「ふっふっふ。当たり前です! だってナビちゃんは――」
「で、社内とかはどうなんだ?」
「……今侵入して確認しています」
アイーダに褒められたナビは、得意満面な様子でいつもの様に喋りかけて、アイーダに無反応で遮られたので少し不満げに眉を寄せた。
「ちょっとぐらい付き合って下さいよー。無言で突っ立ってる私可愛くないじゃないですかー」
「作業中に可愛いもへったくれもあるかよ」
「ありますよー。ほら例え検品でも、ムスッとしてるのとにこやかにしてるのでは、可愛い加減に雲泥の差があると思いませんか?」
「いや検品作業は可愛さマイナス1万ぐらいだろ。昔バイトでやったことあんだけど、アタシを含めて全員死んだ目でやってたぞ」
「ぬぬ」
「その環境でにこやかは可愛いというより、ちょっと不気味じゃねえか」
「なるほど……」
余っている容量で想像したナビは、なんとも言えない苦笑いを浮かべてそういう。
「なんか作品でも作ってるとかの楽しい作業ってなら、まあお前の言う通りだけどな」
「あー、私の例えがあんまり良くなかったですね」
「私は納入物品の検品は楽しいのだが……。おかしいだろうか」
パーカーの裾を握りながら、辺りを警戒していたカガミが、1人と1体の話に不安げな声色で入ってきてアイーダに訊ねる。
「ま、まあ、どう思うかは人によるからそうは言わねえぞ。うん」
「そうか。なら良かった」
自分の発言のマズさに気づき、焦った様子で視線を彷徨わせたアイーダは何度も頷きつつ、やや俯き加減カガミの背中に腕を回してフォローした。




