雇用①
「おー!」
「これはまた大きいわね~」
「これが王都ですか…」
私たちは今ヒストリアよりも大きな城壁、そして城門の前でそれらを見上げている。
「ようこそ、オルディネ王国の王都レヒトへ」
城門の前にいた兵士さんが、到着したばかりの私たちを案内してくれた。
到着したのが日が沈む前だったため、少し簡単なチェックをされたが誰も問題はなく王都の中に入れた。
ヒストリアも日が沈む前でもあまり灯りが落ちていなかったが、この王都はそれよりも更に灯りが眩しかった。
道もちゃんと整備されており、街灯による灯りで道は照らされている。
そして人々も多く賑わっており、本当に日が沈む前なのかと思わせられる。
現実世界ではこのようなことは日常茶飯事だったが、こちらの世界に来てからは夜は灯りはほとんど無く、一部の酒場などでしか灯りは付いていなかった。
そう考えると、この賑わいもどこか現実世界と同じように感じられた。
「さて、皆王都の風景に浸るのもいいが、まずはポータル登録が先だ。それが終わり次第自由行動とする」
団長さんが王都の風景に浸っていた私たちに声を掛け、本来の目的の一つであるポータル登録へと向かった。
やはり王都でもポータル地点は中心部にあり、この中心からそれぞれの方角へと向かえるようになっていた。
そして自由行動とは言え、さすがに日が落ちてからでは閉まってしまう施設も多い。
なので私はまた明日それらの施設に向かうこととする。
正確には夜ご飯食べてからだけどね。
「ではまた夜に会いましょう」
「集合時間は夜八時ってことで明日のGT12:00にポータル付近にしましょうか~」
「わかったー」
ということは、私は七時頃にログインして奴隷雇用の施設に行っておかないといけないのか。
ならさっさと支度を急がねばっ!
夜七時!
ということで再度ログイン完了っ!
やはり朝ということで人混みが凄いことになっている…。
それに日が沈む前では良く見えなかったけど、改めてみると北側に建っているお城…めっちゃ大きい…。
やっぱりお姫様とかが住んでるんだろうね。
そういえばこのゲームってギルドからの依頼はあるけど、クエストって今のところ見かけてないけどあるのかな?
でもNPCも生きているっていうことは、そういうクエストは早い者勝ちとかってなったりするのかな?
それはそれで問題だと思うから、ダンジョンとか再生成されるようなところでのみ発生って形が無難なのかな?
っと、そんなことを考えてないで早いところ奴隷雇用の施設を探して向かわないと!
街の人に聞いて奴隷雇用の施設を聞いて向かったのだが…。
「ここ…でいいんだよね…?」
私の見間違いでなければ今私がいる場所は教会っぽい建物の前だ。
うん、教会だよね?
だって建物に十字架付いてるもん。
もしかして場所間違えた?
でも街の人はここって言ってたし…。
つまりどういうことだってばよ!?
教会が奴隷となった人を扱ってるの!?
どういう事!?
私が混乱していると、その関係者っぽい強面で眼帯をしたスキンヘッドの男の人に声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、そんなところでどうしたんだい?」
「あわわわっ…」
「って、お嬢ちゃん異邦人か? もしかして奴隷雇用の件で来たのか?」
「はっはい…」
「なんだよそうならそうと言ってくれよ。付いてきな」
私は言われるままその男の人に付いて行った。
教会の中に入ると、そこは礼拝堂のようになっていて何人もの人が祈りを奉げている様子が見えた。
「こっちだ」
男の人はそのまま階段で私を二階へと案内し、個室へと案内した。
「今司祭様を呼んでくる。座って少し待ってな」
男の人は私が椅子に座ったのを確認してそのまま部屋から出て行った。
私はそわそわしながら部屋の中を見渡す。
特に血なまぐさい臭いやそういった跡は見られなかったので、そういう危ない部屋ではないのだろう。
それにあんな堂々と街の人もここが奴隷雇用の施設と言っていたし、真っ白な施設なんだろう。
まぁ正直そう信じたいところである。
しばらくすると司祭服を着た結構お歳のおじいさんが、先程案内してくれた男の人と一緒に部屋に入ってきた。
私は椅子から立ち軽くお辞儀をする。
「お掛けになってください」
「あっありがとうございます!」
「それで本日は奴隷雇用についてどのようなご用件で参られたのでしょうか」
「えっと…その…奴隷雇用について詳しく聞きたくて来ました…」
「そうでしたか、では説明させて頂きます」
司祭様は奴隷雇用についてわかりやすく説明してくれた。
基本的な事は掲示板に載っていた事と同じだったが、奴隷雇用側にも契約外の事や罪を犯すような事を防ぐような契約が行われているとのことだ。
奴隷雇用と言っても色々な人がいる。
中には悪事を働いてしまう者がどうしてもいる。
そのような者のために、例えば雇い主のアイテムを盗んだりしてしまう行為をした場合に拘束用の魔法が発動したりする契約が行われているということだ。
あとは奴隷雇用した者に食べさせる食料などの提供や、休憩時間の確保などはちゃんとするようにこちらが契約をする。
働かせるだけ働かせて捨てるといった行為は絶対にさせないためだそうだ。
あくまで彼らは契約して雇用されるのであって、自由に使える道具ではないということだ。
「寝床や食料に関してはどうやって用意すればいいですか?」
「寝床に関しては雇った者がちゃんと寝れるようにしていただきます。食料に関しては異邦人の方はある一定の期間この世界に来られない事もあると伺っていますので、日持ちする物を用意していただければ大丈夫と思います。彼らもアイテムボックスは持っていますのでその中に食料などを入れることは可能ですので」
「例えば食料を保存する家具を自由に使っていいということを許可といった事は可能ですか?」
「ええ、そこも含めて契約内容に記載していただければ可能です。
それに生活している中で細かい点を修正したいという方もいられると思いますので、その際は一度こちらに来ていただき、住んでいらっしゃる家で雇用者含めた全員の同意の元修正を行います」
確かに思っていた内容と違ったっていうことは絶対に起きてしまうだろう。
そういう場合はすぐに修正してもらいたいので、これは覚えておかないと。
「説明としてはこのような形となっていますが、もしご不明な点があればお聞きください」
「ありがとうございます」
「それであなたはどのような奴隷をお探しなのでしょうか?」
「そうですね…【採取】【栽培】【水魔法】を持っている奴隷の子っていますか?」
「えぇ、どうしても出稼ぎで奴隷となる子の中でも農家の子は多いのでそういったスキル持ちの子はいます。ご案内しましょうか?」
「お願いします」
雇うんだったら直に会っておきたいから嬉しい提案だった。
私はそのまま司祭様に付いて行く。
今度は一階に下りて大きめな部屋の前に来た。
「こちらが今雇用が出来る子たちがいる部屋となっています」
「他にもいるということですか?」
「はい。ですがこちらの部屋以外ではまだ小さく、そういった働きが出来ない子がほとんどです。また、村がモンスターに襲われて孤児になった子もいらっしゃいますので、そういった子は外しております」
出稼ぎ以外にも村が襲われたっていう子もいるんだね…。
司祭様が部屋の扉を開けると数十人の十歳超えたぐらいの子供たちや私と同じぐらいの二十歳ぐらいまでの人たちがいた。
「全体ではもっと多いのですが、先程案内していた者が奴隷雇用で来ると言っていたので、こっちの部屋に集めました」
「それでも結構多いですね…」
「どうしても孤児というのはできてしまいます。なのでそういった子たちを先程案内していた者たちに探してもらって保護しているのです」
「つまりこの教会で孤児院や奴隷雇用をしているということですか?」
「はい、ここで技術を学べば彼らは独り立ちする際に働くことができます。名目上は奴隷雇用となっていますが、自分自身を買い戻し出来る金額は他の施設よりも比較的に低くなっています」
少し話を聞いてみると、出稼ぎと言ってもそういった奴隷雇用の業者(?)に自分を売ることで家族にお金が出る。
そこから奴隷雇用されることで仕送りができるようになり、更にお金を溜めれば自分を買い戻す事が出来るようになるとのことだ。
彼らも自分が売られなければ家族が食べていけないといった場所もあるため、仕方なく奴隷となっている者もいるらしい。
「おねーちゃん私を雇ってくれる人ですか?」
「僕っ働けますっ!」
いつの間にか私の周りに集まってきた子たちが自分を雇ってくれるようアピールをしてくる。
全員雇ってやるっ! といった無責任な事はできないので少し困った事になった。
すると司祭様が助け舟を出してくれた。
「こらこら、いつも言っているでしょう。自分をアピールするのはいいですが、その方が困るような事はしてはいけませんと」
「司祭様ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「私ではなくこちらのお嬢さんに謝りなさい」
「「「「お姉さんごめんなさい」」」」
「だっ大丈夫だよっ!」
司祭様の言うことをちゃんと聞いてる…。
この事からでもわかるけど、ちゃんと教育されているんだね。
私は周りを見渡すと、隅っこの方に男女二人組の子供の男の子がこちらをじろっと睨んでいるのが見えた。
私は首を傾げるが、司祭様が話を続けたのでそちらを見る。
「このお嬢さんは【採取】【栽培】【水魔法】のスキルを持っている子を探しています。持っている子は私の前に並びなさい」
司祭様が言うと、何人かの奴隷の子たちは一列に並んだ。
んと、この十一人かな?
やっぱり特定のスキルにされると一気に人数が少なくなる感じなんだね。
「サイ、こちらに来なさい。あなたも先程のスキルを持っていたでしょう」
サイと呼ばれた先程私を睨んでいた男の子が司祭様に呼ばれた。
しかし、彼は頑として動こうとしない。
不思議に思って私は司祭様に聞いてみる。
「彼はどうしたのですか?」
「申し訳ありません、サイは妹のリアと一緒に雇われたいと言って今までも雇用の条件が来ても首を縦に振らないのですよ」
「つまり兄妹二人を雇えば彼は雇われるということですか?」
「ですがそうすると支払う金額も倍になってしまうので、そうなるとギルドでお手伝いの方を雇ったほうが安くなるので、そういった方がどうしても…」
つまり妹と一緒じゃないと嫌だってことだね。
私は彼らに近づく。
サイと呼ばれた子は妹を庇って抱きしめている。
私は二人の前に立ち止まりペットを召喚する。
「レヴィ、ネウラ、出てきて」
「キュゥ!」
「ぁぅ―!」
「「!?」」
兄妹二人はレヴィたちを見ると怯えたような姿を見せる。
となると、この二人は…。
「司祭様、この二人はもしかして…」
「…はい、お察しの通りです…」
レヴィとネウラに対するこの怯え具合…彼らはモンスターに村を襲われて孤児になった子たちだ。
意外に難しい問題なところです。




