情報の価値
「そういえば一つアルトさんに聞きたかったんですけどいいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「アルトさんってお金稼ぎってどうやってますか?」
「そうですね…。私の場合ですと採取系のスキルがないので本当に戦闘だけで稼いでいます」
んーやっぱり基本はそのスタイルなんだね。
私が戦闘で稼げないのは狩ってる数が少ないからかな?
「アルトさんは大体一日でどれぐらい狩っているんですか?」
「日によって変わりますが、ダンジョンも含めると少なくとも百は狩っていますね」
「おぅ…」
仮にだけど、単純に百個はドロップを得ているはずだから一つ300Gとしても30000Gってところかな?
それに物によっては価格が増減するから大体50000Gってところだね。
ってことは大体一ヶ月ちょいあれば家の資金に到達すると…。
「うぅ…」
「あっあの…私何か余計な事を言ってしまったんじゃ…」
アルトさんはオロオロするが、特に悪い事はしていない。
たんに私が甘えていただけということがわかっただけだ。
でも私がアルトさんの真似をしても【狩人】スキルの関係上難しいんだよね。
素材一つ一つは丸ごと取れるけど、その分解体作業もしなきゃいけない。
ということは、必然的に狩りの総量が違ってくるわけだ。
それにその数を狩れるのはアルトさんの実力あってのことで、私ではきっと無理だ。
「でもアリスポーション売ってたけど、あれじゃダメなの~?」
「んー…まだ数が足りないし、作るのに時間が掛かっちゃうから…」
私がいない間にお手伝いさんが作ってくれているとかなら話は別なんだけど、今の状況だとそれができないためどうしても時間を使うしかなくなってしまう。
そうなると狩りや採取といった他の事で稼げなくなってしまうので、今回王都へ行き奴隷雇用についての細かい話を聞かなきゃいけない。
そしていい子がいたら雇用しようと考えている。
「生産職も大変なのね~…。ポーションなんてすぐ作れるもんだと思ってたわ~」
「私も一つ作るのにそんなに時間が掛かるものとは思っていませんでした…」
実際まだ生産者の数が少ないんだよね。
だからある程度の量は販売されてるけど、性能が良いのは多くは売られていない。
その手間を掛ける分、売れる数が少なくなるんだからね。
とは言っても、急激に増えても今度は素材不足と供給過多にもなっちゃうから難しいんだけどね。
そう考えると前回のキャンプイベントで、サブスキルや生産スキルも大事ということがわかってもらえたようだし、ある意味あのイベントは意識改革のためのイベントだったのではないだろうか。
運営さんがどこまで見越してやっているかが謎だけど。
「ところでさっきアリスはアルトさんに何を教えてたの~?」
「えっ? 【操術】スキルだけど…」
私はリンに何をしていたかを説明する。
説明の最中、一瞬リンのこめかみがピクンと動いた気がしたけどなんだろう?
「掲示板でそういうのがあるのは知ってたけど、アリスも使えたのね~」
「うん」
「それでレイド戦で使ってたのはそれの派生ってことなのね~」
「そうだよー」
「それをアルトさんにも教えたっていうことね~…」
「なんかだめだった?」
リンは少し困ったように微笑み、私の頭を撫でる。
「アリスがいいっていう人にならいいんだけど、あんまりそういう技は教えない方がいいのよ~?」
「私もあの時は興奮しててつい聞いてしまいましたので…。それとさっきもアリスさんとご一緒出来ると聞いてまた…」
「そんな聞かれても知り合いじゃないと答えないから大丈夫だよー。あとアルトさんもそこまで気にしないでください」
「ですが、貴重な技を教えて頂いた講義料は払わないといけないと思います」
アルトさんはそう言うと、私にトレード画面を寄越した。
そのトレード画面の金額に私は驚く。
「一…十…百……五十万!?」
「これぐらいが妥当かと思ったのですが…足りませんでしたか…?」
「いっいえいえ! てかこんなに貰えませんよっ!?」
「アリスさん、魔法では属性攻撃は簡単です。ですが現在近接職で属性攻撃をすることはできません。理由は単純に属性武器にするための素材が見つかっていないからです。
しかし、アリスさんが見つけた方法を使えばどの近接職でも一時的にですが属性攻撃が出来るようになります。これがどれほど有用な技か…この方法を知りたいがためにお金を出す人はいくらでもいると思います」
私はリンの方を不安そうな顔で見る。
「アリスはこういうオンラインゲームは初めてだからわからなかったでしょうけど、情報っていうのは時に莫大なお金が動くものもあるのよ。
確かに魔法職の私たちからしたらそこまでの情報じゃないけど、近接職にとっては今後どんなモンスターが出てくるかわからない現状、属性攻撃が出来るようになっておくのはとてもメリットになるわ」
私は二人の顔を交互にキョロキョロと見る。
思いつきで見つけた技が、実は有用な技なんてことに気づかなかった。
そう考えると不安になってきたからだ。
「不安にさせる気はなかったのですが、実際かなり使える情報なので内緒にしたほうがいいですよ」
「そもそもそういう発想に至らなかったからね~…。オンラインゲームをやっているが故に固定概念に囚われすぎたわ~…」
「属性武器にするには属性素材が必要とばっかりと思っていましたからね…」
「アリスと接してて広い視野を持たなきゃって思っててこの様なんだからね~…。もっとしっかりしないとダメね~…」
「ちょっ! 二人ともっ!」
二人で納得してないでどうしたらいいか教えてよっ!
「あぁごめんなさいアリス。とりあえず何か新しい技や情報手に入れたら掲示板や他の人に言うんじゃなくて、まずは信用できる人に相談して。それで発していい情報か、秘密にしたほうがいいかの判断をしましょう」
「信用できる人?」
「はい、少なくてもアリスさんが信用できるような人でなければ誰かに喋ってしまうかもしれません。
情報というのは一度発せられてしまえば一気に価値を無くします。それが良い情報ならそのままでもいいのですが、悪い情報であれば秘匿しないといけません。そういう意味で信用できる人が必要なのです」
「となると…信用できる人ってなると…リンとかショーゴとかかな?」
「もしゲーム内だと聞かれる心配があるなら向こうで相談してくれていいわよ。もちろん誰かの家でね」
壁に耳ありってことかな?
誰が聞いてるかわからないし、そういうのを防ぐ意味で家でってことかな?
確かに家でなら関係ない人に聞かれる心配はないし、安全なのかな?
「とまぁ、注意点はこれぐらいにしときましょうか~」
「そうですね、あんまり言うとアリスさんも余計怯えてしまいますし」
「うぅ…二人が怖い事言うから…」
てかホントに五十万も貰ってよかったのだろうか…。
アルトさんに聞いてみたところ、お金はまだあるので大丈夫とのことでそのまま押し切られてしまった。
確かに臨時収入としてはありがたいんだけど、何分情報でこれだけの値段が付いたということが怖い…。
私今後もまた何かやらかさないかな…?
てかまだクラー湖と調和の森についても情報があるんだった…。どうしよう…。
とりあえずリンが隣に座っているので太腿に顔を埋める。
「あら~アリスどうしたの~? さっきの事が怖くなっちゃったの~?」
「ぅ~…」
「アリスさん! 私のところにも来てもいいんですよ!」
本当に今後どうすればいいのぉー…。
気が重いよぉ…。
情報は鮮度が命。
どこぞの烏天狗も言ってますしね。




