呉越同舟
土曜日の朝、さっそくログインした私はヒストリアへと飛んだ。
どうやら私と同じように休みの内に王都へ向かおうと考えているのか、馬車を用意している人が多く見えた。
「ふふっ…ようやく古都に到着したわ。次は王都ね…どんなモンスターが私を痛めつけてくれるのかしら…ふふふっ…」
なんか聞こえたけど、きっとあれは危ない人だ関わらないでおこう…。
とはいえ、まだGTでは深夜なので門は閉まったままだ。
私も少し用意してくればよかったかな?
というかここでレッドポーション売ればいいんじゃ?
善は急げということで、私は一回家に戻ってレッドポーションを持ってくる。
そして人が集まっている場所の近くで露店を開いて販売を開始する。
思った通りレッドポーションを求めるお客さんが何人も来た。
とはいえ、来てくれた人に行き渡るようにしたいので人数分には割るけどね。
「あらアリス~」
レッドポーションを売りさばいていると、リンが近づいて来た。
どうやらリンも王都へ向かうようだ。
「リンは馬車で行くのー?」
「まぁ仕事っていう人もいるし、そういう人のためにっていうのがあるけどね~」
仕事ある人も大変だなぁ。
と言っても、私もその内働くんだけどね。
「アリスはどう向かうつもりだったの~?」
「そのまま走って行こうかなーって」
「急いでないなら一緒に来る~?」
「いいの?」
「別に一人増えるぐらいいいと思うわよ~」
んー…迷惑じゃないなら一緒に行かせてもらおうかな…?
ちょうどレッドポーションも売り終わったことだし、銀翼が集まってるところに向かおうかな。
銀翼が集まっているところには馬車が何台もあり、既に何人かが荷台のところに乗っていた。
「リン、どこに行って…というのは彼女を見ればわかることだったな」
「えっと、おはようございます」
「アリスを同行させたいんですけどいいですか~?」
「特に同行者の制限はしていないから大丈夫だ」
ふぅ、団長さんも許可してくれたし大丈夫そうだ。
って、あの後ろ姿は…。
「アルトさん?」
「アリスさん! もしかしてご同行されるんですか?」
「はい、そこでリンと会ったのでお願いしました」
「アリスさんと一緒にご同行できるとは…今日王都に行こうと思って正解でした」
「アルトさん大げさですよー」
別に私と一緒に王都に行くぐらいでそこまで嬉しそうにするとは。
あっもしかしてこれが社交辞令っていうやつなのかな?
でも社交辞令だとしても、嫌な気分はしないし、こういううまい言い回しとかができるのが大人の女性ってことなのかな?
うん、アルトさんの発言とかを見習おう。
「そうそうアリスさん」
「何ですか?」
「以前教えてもらいました【付加】スキルと魔法スキルの合わせ技の事なんですけど…」
「何か問題ありましたか?」
「いえ、【付加】スキルについては掲示板に取り方があったんですけども、教えてもらえる人がリーネさんしかいなくて…」
「あぁ…」
まぁリーネさんも忙しいからね…。
リーネさん曰く【操術】は師になってなくても教えられるらしいし、私が教えてもいいよね?
「も…もしよかったら私が荷台で教えましょうか…?」
私がそう言うとアルトさんはぱっと目を見開いて私の手を握ります。
「いいんですか!?」
「はっはい…」
「アリスさんは実は天使なんじゃないかと…」
「いえ人間です…」
なんかアルトさん寝起きで少し寝ぼけてるのかな…?
とりあえず落ち着かせるために馬車に乗せて座らせる。
さてと、私もこの馬車でいいかな?
一応団長さんに断りを入れておかないと…。
「あぁ、別に構わないぞ」
と、あっさりと許可してもらえたのでアルトさんと同じ馬車に乗る。
「アリスさん! 私の膝にどうぞ!」
「えっと…私が膝に行くと物を置けなくなると思いますが…」
「あっはい…」
何でそこでそんなに落ち込んじゃうんですか…。
まぁ実際物を置く場所は必要なので、私はアルトさんの横に座って作業用の板を二つ取りだして一つをアルトさんに渡す。
それを膝の上に置いて、その上に糸を出してアルトさんにも糸を渡す。
「ではまず私がやり方を見せますね」
「はい。よろしくお願いします」
私は糸に手を翳し、しばらくするとその糸が発光したのでそのまま少し動かす。
アルトさんはその様子をじっと見ている。
「こんな感じでMPを糸に込めるようなイメージで行います。これで糸が動けば取得できるはずです」
「分かりました!」
そう言うとアルトさんは私と同じように糸に手を翳す。
アルトさんは糸に意識を集中させて声を掛けれる雰囲気ではない。
しかし、アルトさんは生粋の剣士タイプで魔法はまったく使っていない。
そのためMPを込めるというのは意外に難しいのではないかと思う。
でも、まだ時間はある事だし時間が掛かっても大丈夫。
十分ぐらい経ったかな?
アルトさんは遂に糸を発光させることができて、糸全体を発光させることができた。
アルトさんは嬉しそうに私を抱きしめる。
だけど、少しすると我に返ったのか普段のように落ち着いた様子に戻った。
「えっと…その様子では取れた感じですか?」
「はい、おかげ様で【操術】スキルを取得したら【付加】スキルが取得できるようになりました」
「そういえばアルトさんは魔法は何を取るんですか?」
イメージとしては風か水辺りかな?
「私は【風魔法】を取ろうかなと考えてます」
「やっぱり風なんですね」
「予想通りでしたか?」
「はい、風か水かなって思っていたんで予想通りでした」
「そういえばアリスさんは魔法って今何種類取っているんですか? 少なくても闘技イベントの時には土と闇と重力に、レイドの時に火は見たので基礎三つに複合一つですか?」
んー別に言ってもいいんだけど、そこら辺は一応隠しておいた方がいいんだよね?
アルトさんには悪いけど言わないでおこう。
「そこは秘密ですけど、基礎は四つにしようって考えてます」
まぁこんな感じの答えが無難かな?
「四つも使うんですか。やはり特殊なスキル帯を使う人って色々するんですね」
「私の場合一杯取ってるから回っていないっていうのもあるんですけどね」
実際未だに派生になっていないのも結構あるからね。
「ですが先程教えてもらった技もありますが、色々驚かされるような事を知っているのは凄いと思います。私も色々なオンラインゲームをやっていましたが、どうしてもサブスキルっていうのは後に回されがちなんです。ですがアリスさんはサブスキルをそういう目で見ないで、使えそうだからと取っているから色々な事が出来るんですね」
なんか色々と過大評価されてる気がするんだけど…。
そんな深くは考えてないんだけどなぁ…。
「となるとリンさんはともかく、アリスさんに近づいている二人はアリスさんの可愛さはもちろんで、そういう凄いところを見抜いて慕っていると…。では私も本格的に…」
そして何故かブツブツと思案し始めたアルトさん。
うーん…評価が怖い…。
そしてまだ深夜ちょいだが、どうやら出発のようだ。
リンが私たちが乗っている馬車に乗ってきた。
「あら~アリスったら随分アルトさんと仲好さそうね~」
「リンも同じ馬車なんだね」
「ええそうよ~。…アリスが近くにいるのに一人にするわけないでしょ…」
「えっ?」
「なんでもないわよ~。それより到着は大体二日後ぐらいっていう話よ~」
二日かー…。
となると距離的にはエアストからイジャードの二倍ってところかな?
「でもこれはちゃんと整備されてる方の道だからなのよ~」
「別の道もあるの?」
「大回りになっちゃうから大体一週間位掛かっちゃうらしいわ~」
「おぅ…それは長い…」
一週間って丸二日あっても着かないって事じゃん…。
「でもそっちの中間ぐらいに小さな町があるからそこで休憩はできるらしいわ~」
「それでも三日近く掛かるんでしょ? 十分遠い気が…」
「でもその街の近くにはダンジョンがあるらしいわよ~」
あー…それなら行ってみたいかも。
ダンジョンでお金になる物が拾えれば…。
そういえばダンジョンじゃないけど、調和の森ってどうやったら行けるんだろ?
それも調べておかないといけないなぁ…。
王都の図書館に何かあるかな……って、そういえばヒストリアの図書館に行くの忘れてた…。あぅ…。
「アリスさん、急に落ち込んでどうかしたのですか?」
「アリス~? どうかしたのかしら~?」
「えっと…ヒストリアの図書館行くの忘れてたから…王都に行ったら絶対図書館に行くっていう決意かな…?」
「そういえば私も図書館に行ってませんでしたね」
「私もギルドが忙しくて行ってなかったわ~」
「じゃあ二人も王都に着いたら…って、忙しいから無理だよね?」
「「大丈夫です(よ~)!」」
「そっそっか…じゃあ一緒に行こっか…」
そんなに絶対に付いてくみたいな意気込みで返事を返さなくても…。
でも三人もいれば色々な本見れるし、いいよね。
サブタイトルに悪い意味はありません。
ただ参戦者が一人増えそうなだけです(何のとは言わない)




