欲しい物は身近に
夜ご飯の時間まではまだしばらく余裕があるので、一度エアストの家に戻って昔懐かしの初期武器をアイテムチェストから取り出す。
属性を纏わせるために刀に色々試そうと考えているため、耐久力がある武器では修理の必要が出てきてしまう。
そこで、耐久力が無限である初期武器であれば、そういった耐久力を減らしてしまう実験にも最適だと考えた。
そして、次にイジャードへ行きウォルターさんを訪ねた。
「おや、アリス嬢。こんな夜遅くにどうなさいましたか?」
「あっすいません。今お時間大丈夫ですか?」
「えぇ、ちょうど一息付いたところです。それでご用件は?」
「ウォルターさん、油とかって持ってませんか?」
「油ですか? えぇ、大量とは言いませんが多少なりとも鉱物性の油があります」
「空き瓶…いえ、ほんの少しでいいので、売ってもらえませんか?」
「何に使うのかわかりませぬが、空き瓶ぐらいの量なら困りませぬので構いませんよ。それとお代ですが、500G程でよろしいですか?」
「大丈夫です!」
私は500Gをウォルターさんに支払い、空き瓶一杯に油を入れてもらった。
よしっ! これで実験ができるっ!
私はウォルターさんにお礼を言ってお店を出た。
そして、時間的にもお風呂とか入っていたらちょうどいいぐらいなので、ヒストリアに戻ってからログアウトした。
午後六時にはお風呂も夜ご飯も食べ終わったので、こっからはノンストップで実験だー!
再度ログインすると、日が登り始めて街の人たちが活動を開始している。
私もささっと移動して城門へ行き、ヒストリアの外へ出た。
外に出ても、プレイヤーは見かけず、モンスターの気配もない。
なので早めに実験に移るとしよう。
「レヴィ、ネウラ、おいで」
「キュゥ!」
「ぁ―!」
レヴィとネウラはそれぞれ肩と胸元の定位置に現れた。
「今日はちょっと新技の実験するから二人とも手伝ってね」
「キュゥ!」
「ぅ―!」
ということで、城門から少し移動して、城壁で影が出来ている城壁近くの場所に移動した。
まずは初期武器の刀を出してっと。
「レヴィ、これからこの刀に火魔法使うから、何かあったら消火してね?」
「キュゥ!」
レヴィは任せろと言わんばかりに元気よく鳴き声を上げる。
とりあえずネウラは胸元から降ろしてレヴィの近くに避難させる。
もし私が火だるまになった時に、ネウラも被害が出てしまうからだ。
「じゃあ行くよ? …『ファイアーショット!』」
私の火魔法は、初期武器の刀に当たり、そのまま燃え移ることなく散った。
「うーん…。『アクアショット!』」
同様に水魔法も当ててみるが、水が残ることなくそのまま地面に流れて行った。
「一応…『アースショット!』」
派生している大地魔法ならどうかと試してみたが、やはり刀に土が付くわけでもなく、全て地面に落ちて行った。
初級系の魔法系ではだめなのかと思い、威力の高い魔法で試してみる。
「『ダークランス!』」
しかし、威力の高い魔法でも残滓は残る気配は見られなかった。
これらの事から、直接武器に魔法を当てることでは私の考えているようなことはできないと考える。
だが、武器の耐久力を下げるような攻撃に対しては弾くのだろうか?
私の考えではおそらく、耐久力が無限のせいで弾くような判定が出ているのだろう。
では、何かを介して魔法を当てるのではどうか?
そのために昨日ウォルターさんから油を買ったのだ。
「ではこの油を刀に掛けますー」
「キュゥ?」
「うん。材料に関しては弾かれないようだね。ここの判定がちょっと難しいのかな?」
例えば、蜘蛛が糸を飛ばしてきたときに武器に当たった場合、魔法等が弾かれるとしたら、そのような攻撃も弾かれてしまうはずだ。
しかし、そうなってしまうと武器を盾にしていればどんな攻撃も受けないという事が起こってしまう。
運営としては、そのようなシステムにはしないはずなので、戦闘時と非戦闘時で判定を分けているのかもしれない。
とはいえ、まだ実験は始まったばかりなので仮説は後回し後回し。
「じゃあレヴィ、今度は結構燃えると思うから合図出したら消火お願いね」
「キュゥ!」
「ふぅ……『ファイアーショット!』」
私が油の付いた刀に火魔法を当てると、油に引火して一気に刀が燃えた。
「あつっ!」
私は咄嗟に燃えた刀を離す。
それを見たレヴィが紺碧魔法の水を掛けて消火をしてくれた。
HPゲージを見てみると、わずかだがゲージが減少していた。
これがもし武器に魔法が纏えていたとしたら、私自身にダメージはないはずだ。
もしかしたらダメージがある仕様なのかもしれないけど…。
少なくとも、この方法ではとても扱えない。
なので、今度は安全そうな大地魔法で試してみる。
レヴィが消火してくれた刀を拾い、今度は土を掛けてみる。
そして、その刀を握ったまま地面に置いて魔法を唱える。
「『アースシールド!』」
一メートルもしない小さな壁を作り刀をその壁にはめてみた。
試しに揺らしてみると、刀に掛かっていた土はポロポロと地面に落ちた。
んーこれも失敗かぁ…。
その後も刀の先っぽだけに油を掛けて試したりしたが、一見うまくいったかと思ったが、何度か振ると火が消えてしまった。
どうやら油が燃え尽きてしまったことが原因だった。
もしこれが正解だったとしても、戦闘中に武器に油を掛けるやつがどこにいるのだろうか…?
他にも色々試してみたが、どれもうまくいかなかった。
「んー…だめだぁ…INFOも何も出てないし…どうすればいいんだろう…?」
「キュゥ…」
「ぅ―…」
私はごろんと地面に寝っころがる。
その様子をレヴィとネウラは心配して、私の事を励まそうと頬を擦り寄せてくる。
「二人ともありがと。うん、もう少し頑張ってみる」
再度起き上がって、他に試していない方法を考えてみる。
他に試していない方法…。
魔法を操る…操る…あやつ…。
そうだ! 【操術】スキルだ! あれなら操れ…ってあれは物を動かすスキルだった…。
って、そういえばあれと一緒に他のスキルも取得可能になったような…。
私はINFOのログを遡って調べる。
すると、【操術】スキルとともに【付加】スキルというのが取得可能になっていた。
そういえば同時に出たのをすっかり忘れていた…。
でも、付加って言葉的に今私がやろうとしていることに近いよね…?
SPにはまだ余裕があるし…取ってみるっ!
【付加】スキルを取得した私は、スキルを入れ替えてメインスキルに入れる。
「よっよしっ! レヴィ! またお願いねっ!」
「キュゥ!」
「ぅ―!」
「ふっ『付加!』」
私は刀を持って【付加】スキルを発動させたつもりだが、特にうんともすんとも反応がなかった。
ということは、発動のきっかけが足りないか間違っているかのどちらかだろう。
そういえば付加と言えば、イベントの時に黒花がさらっと言ってたっけ…?
確か…。
「『指揮官機である私にも【強化魔法】が付加されたコアが埋め込まれております』だっけ…? ということは、【付加】スキルを使うには…」
私は再度刀を持って唱える。
「『付加―【火魔法】』」
私がそう唱えると、一割ほどMPが減少した。そして、手に持っている刀が炎を帯びた。
「キュゥっ!」
レヴィが慌てるが、私にはその炎によるダメージは特にない。
ということは、これでちゃんとスキルが発動したってことだよね?
しかし、その纏った炎も三十秒ほどで消えてしまった。
「うーん…実戦で使うには【付加】スキルのレベルを上げなきゃだめかな?」
とはいえ、これだけではわからないので他の魔法も試してみた。
結果としては、一度使った魔法が固定されるのではなく、掛け直しで別の属性に変えることができるようだ。
ただし、変えられるのは自分が持っている属性のみだ。
確かに持っていない属性を付加しようはないからね…。
その後も、リンから連絡が来るまで付加⇒時間切れ⇒MPポーションで回復⇒付加⇒時間切れ⇒回復を繰り返している内に、【付加】スキルのレベルも上がっていった。
どうやらスキルレベルが一上がる毎に五秒ずつ持続時間が伸びているようだ。
現在集中的に上げていたおかげで、およそ一分は使用できるようになった。
これならば、攻撃時にだけ使えば十分使用できるレベルだろう。
そしてちょうどリンからメッセージがあって、今ヒストリアに着いたようだ。
なので、私も城内に戻ることにする。
運良く…というか、私がもっと早く【付加】スキルのことに気付いていたらさっさと新技を取得できていたんだろうなぁ、という微妙な気持ちを持って。
実は新技取得のきっかけはもう既に持っていたアリスであった。
欲しい物は実は持ってたはMMORPGでよくあるから仕方ないね。
たぶん皆も経験があるはず。




