調和の森
さすがに夜だと全く明かりがないので、【梟の目】を使わないと海の中では何も見ることが出来なかった。
とはいえ【梟の目】もそこまで万能ではなく、僅かな光を基に暗視効果を発揮している。
そのため、月の光が届かないほどの深さに潜ってしまうと効果がなくなってしまうのだ。
なので、他の人に見られない事をいいことにレヴィを大きくして、以前のように移動しながら口で捕まえてもらっている。
レヴィも以前の事で要領を得たのか、結構な量を取ってくれた。
そういえば味噌とかを作る上で塩が必要だった気がするし、今度塩買わないとなぁ。
塩を作るのはまた余裕が出来てからかな?
さてと、もうGT22:00回ったし、一回家に戻って獲った魚を刺身にしてから向かおうかな。
ということでこっそり港に戻って、レヴィを小さくしてからポータルで移動っと。
「では、さっそく調理に移ります」
「キュゥ!」
「ぅ―!」
家に戻った私は、適当な量の魚を調理台に置いて下処理をする。
その間レヴィたちはテーブルの上で待機している。
まぁ調理と言っても、調味料がないから刺身か焼き魚程度しかできないんだよね。ぐぬぬ…。
素早く下処理を終えて、イカグモさんにあげる分の刺身をぱぱっと用意して【収納】の中に入れる。
あとは私とレヴィとネウラのご飯ということで、焼き魚を用意する。
ネウラにはシシャモみたいな小さな魚があったので、それを焼いてあげる。
そういえば前回は野菜炒めとかの野菜があったから食べてたけど、魚は食べさせてなかったから確認の意味で用意した。
「はーい、できたよー」
「キュゥ!」
「ぁ―!」
レヴィはお皿に置いた焼き魚を一気に丸呑みする。
まぁこれは分かってるからいい。問題はネウラだ。
「ぅ―?」
ネウラは小さな緑色の手でシシャモを持って首を傾げてる。
そしてシシャモをその小さな口に近づけてハムっと一口齧る。
「ぅ―…」
見たところお気に召さなかったようだ。
すると今度は、身体から蔓を出してシシャモに突き刺した。
その蔓は小さく脈動し、次第にシシャモが縮んでいった。
どうやら蔓で栄養を吸い取っているようだ。てか生じゃなくても吸い取れるものなのか…。
「ぅ―?」
とは言ったものの、やはり魚はあまり好きではないようだ。
口直しにキャンプで余ったトマトを小さく切ってネウラの皿に置いてあげる。
「ぁ―!」
トマトを見たネウラは喜んでトマトを持って齧る。
やはりネウラは野菜がお好みのようだ。
しかし、私には今持っている野菜を種にすることが出来るスキルを持っていない。
そもそも、そういう下位アイテムに変換するようなスキルはあるのだろうか? あるとしたら【錬金】か、そのまま【変換】といったスキルがあるのかな?
少し掲示板を見てみよう。
ふむふむ、【採取】【栽培】【錬金】を取る事で【変換】っていうアイテムを下位のアイテムにすることができるスキルが取得可能になるようだ。
【錬金】で行けると思ったのだけど、あくまで【錬金】の基本は等価交換で同等の物にはできても、下にはできないようだ。
それはそれでどうするのだろうかと思っているんだけど、まぁ私は【錬金】スキルは上げないからそこらへんは知らなくていいかな?
ということで、【錬金】スキルを取得っと。
―INFO―
【採取】【錬金】【栽培】スキルを取得したため【変換】スキルが取得可能になりました。
よしよし、これで【変換】スキルで種が作れるようになる!
とりあえず少なくても最低十個は各種類の種は作っておこう…。
さてと、食べ物よし! アイテム整理よし! 満腹度よし! では出発ー!
まぁGT24:00を回ってるし、さすがに動き回っているような人は見えないな。
でも皆なんで【梟の目】関連の暗視スキル取らないんだろ? 便利なのに。
西門まで来ると、憲兵さんがいたので声を掛ける。
「こんばんわー」
「おぉ、こんばんわ。また森にかい?」
「はい。って、なんでわかったんです?」
「はははっ。君からはわからないだろうが、俺らからしたらここを何回も通るような異邦人は目につくからな。それにわかりやすい服装もしてるしな。しかも、門が閉じてるにも関わらず通ろうとするやつらなんかは特に覚えちまう」
おぅ…もう顔覚えられているレベルなのか…。
「えーっと…それで…」
「あんたなら大丈夫そうだし、開けてやる。ちょっと待ってな」
衛兵さんは上で監視している衛兵さんたちに何か合図をする。
そして、上の衛兵さんたちが合図すると門が少し開いた。
「ほら、さっさと行ってきな」
「ありがとうございます」
私はお礼を言って門を通って森へ向かう。
とはいえ真っ暗だから方角を間違えないようにしないと…。
まぁ少しゆっくりめに行けば明け方には着くかな?
ある程度明け方に合わせて移動速度を合わせていると、本当にGT06:00ぐらいにクラー湖に到着した。
我ながらこの調整力が恐ろしい…。
確かに何回か来てるから、無意識に移動速度からの到着時間が分かっていたのかもしれない。
すると、私が来たことに気付いたのか、イカグモさんたちがこちらに寄ってきた。
なのでさっそく家で切った刺身を皿に置く。
イカグモさんたちは刺身を一枚ずつ取って食べていく。
食べ終わるまで少し時間があるので、レヴィとネウラを召喚する。
「キュゥ!」
「ぁ―!」
「ネウラー、ここが私とレヴィが出会った場所だよー」
「ぅ―?」
「キュゥ!」
「ぅ―!」
おぉ、どうやら理解したようだ。レヴィもフォローしてくれたように見えたけど、やっぱりペットと喋れるようなスキルとか欲しいなぁ。
そうすれば二人とも喋れるようになるしね。
「あっ、ネウラーイカグモさんたちに挨拶しようね」
「ぁ―!」
「――」
ネウラが挨拶すると、イカグモさんたちも足を上げて挨拶を返してくれる。
しばらくすると、イカグモさんたちもお腹が満足したのか、刺身のお礼として糸を編んでくれた。
私はそれを受け取る。これでリーネさんの依頼は完了かな?
数としては十四個だから…70000Gっ!?
とはいえ、これはイカグモさんたちのお礼なんだから、ここで金稼ぎは考えないようにしよう…。
私がイカグモの糸をしまっていると、ネウラがレヴィに巻き付かれて湖の上に浮かんでいた。
それを見た私は急いでネウラを手で掴む。
「ふぅ…危うくネウラが湖に沈むかと思った…」
「ぅ―!」
手に持ったネウラが不満そうに私の手の中で暴れる。
どうやらこの湖の水が気に入ったそうだ。
仕方ないので、私が岸辺に座ってネウラを抱えてゆっくりと足を湖に浸からせる。
「ぁ―!」
どうやらご機嫌は直ったようだ。
レヴィも湖の中でイカグモさんたちと泳いでるし、しばらくこうしていよう。
しばらくすると、ネウラは眠ってしまったので私は湖から足を出し、ネウラを召喚石に戻す。
「レヴィ、そろそろ行くよ」
「キュゥ!」
私が呼ぶとレヴィが戻ってきて私の肩に乗る。
さてと、そういえばここから更に西はどうなっているかを見るんだった。
この先は何がいるかわからないし、一応レヴィも戻しておこうかな。
「レヴィ、一旦戻ってくれる?」
「キュゥ!」
レヴィは了解して召喚石の中に戻ってくれた。
ということで、向かってみるとしよう。
私はイカグモさんたちに手を振ってクラー湖を去り、更に西へ向かう。
クラー湖から西に入って一時間。辺りを警戒しながら移動しているため、そこまでの距離は移動していない。精々二キロぐらいだろう。
クラー湖ですら他の人が見つけていない領域だ。それの更に奥となれば、出てくるモンスターも強くなっているだろう。
なので、思ったよりも移動できずにいる。
しかし、モンスターの姿をまだ見かけていない。私が木の上を伝って移動しているせいもあると思うが、それにしてはまったく見られない。
確かにクラー湖の周辺もモンスターは見られなかった。もしかすると、クラー湖はセーフティーエリアとして設定されてはいないけど、そういう扱いのフィールドなのかもしれない。
つまり、その範囲内にいるからモンスターに出会わないだけなのかな? どうなんだろう?
すると、突然辺りが霧に包まれ出した。一瞬【霧魔法】かと思ったけど、今の私には地形がそうなのか魔法なのかの判断はできない。
なので、【感知】スキルで警戒レベルを最大にしてゆっくりと移動する。
「はぁ…はぁ…」
なんだろう…。進めば進むほどなんだか気分が悪くなってくる…。
しかし、ステータスを見ても特に異常は見られなかった。でもこの不快感は一体…。
すると突然森に声が響き渡る。
『資格無き者よ』
『立ち去れ』
『立ち去れ』
「なっ!?」
声が反響してどこから声がするかはわからないが、複数の声が聞こえる。
『ここは調和の森』
『資格無き者は』
『認めず』
「誰なのっ!?」
私が謎の声に質問をしても、返答もせずただ淡々と言葉が森に響くのみだった。
『しかし』
『しかし』
『資格の欠片』
『所持』
『所持』
『しかし』
『足りない』
『足りない』
『まだ足りない』
『故に』
『故に』
『認めず』
一体なんなの…? 資格…?
『去れ』
『去れ』
『ここから去れ』
その瞬間、【嵐魔法】かと思うような突風が私に襲い掛かり、そのまま来た道へ吹き飛ばされた。
また台風とか勘弁してください…。




