アリス、家を持つ①
第70話のラストのアリスのステータスに栽培スキルが入っていない不備があったので修正しました。
イベントフィールドから転移され、時間を確認してみると確かにGT13:00で一時間しか経っていないことがわかる。
周りを見てみると、さっそく手に入れたペットを召喚して他の街に転移したり、場所を移したりしている人が目立つ。
なので、私もさっそく呼び出すことにした。
「おいで、レヴィ、ネウラ」
「キュゥ!」
「ぁ―!」
レヴィは私の肩に寄りそうように、ネウラは私の胸元に収まるように位置を移動させる。とは言っても、ネウラはまだそこまで移動がうまくできないので、レヴィが尻尾を巻きつかせて移動させている。
二人を召喚したのはともかく、この後はどうしよう。
家の資金のためにギルドで依頼を受けるか、もしくは別の街を探すためにクラー湖より更に西に進むか。
その二択で悩んでいると、私に対して声が掛かる。
「おやアリス。こんなところで唸ってどうしたんだい?」
「あっナンサおばあちゃん」
顔を上げると、そこにはナンサおばあちゃんがいた。
どうやら私が唸って悩んでいるのを見かけて声を掛けてきたようだ。
「それで、どうかしたのかい?」
「んー…ちょっとこの後どうしようかなーって思って」
「キュゥ!」
「ぅ―?」
あっそうだ。ナンサおばあちゃんにネウラを紹介しないと。
「そうそう、ナンサおばあちゃん。この緑色の子が私の新しいペットでネウラって言うの。ネウラ、挨拶しようね」
「ぁ―!」
「おや、随分可愛らしい子じゃないか」
「さっきまでやってたイベントで仲間になったの」
「随分ここに人が集まっていたと思ったら、そういうことだったのかい。アリスは楽しめたかい?」
「うんっ!」
まぁ少し嫌な事があったけど、概ね楽しめたから間違ってないよね?
「まぁここで立ち話もなんだ。あたしの家に来なさい」
「あっうんっ!」
確かにこんなところで話しているのも邪魔になるし、私はナンサおばあちゃんの言うとおりにした。
少し歩きナンサおばあちゃんの家に入って、適当なところに座らせてもらう。
「それで、何に悩んでいたんだい?」
「えーっと…実は家を建てようと考えてて、それの資金のためにギルドで依頼を受けるか、レヴィと会った湖よりももっと西に進んで街を探そうかで悩んでて…」
「お前さん、家を建てたいのかい?」
「まぁ家というよりはお店寄りかなって」
「ふむぅ…」
おばあちゃんは少し考える素振りを見せる。私は何に悩んでいるかわからず首を傾げる。
「この街の北西側に畑や空き地が広がってるのは知ってるかい?」
「うっうん。たまに家がぽつんと建ってるのとかは見たことあるけど。そこがどうしたの?」
「うむ。実はそこは異邦人用に土地を売る為に管理されている場所なんじゃよ」
「へぇ~…。ってことは土地を買うためには管理しているところに話を通すんだよね? でも聞いた話じゃ百万は必要っていうんだけど…」
「そうだねえ。とは言っても、畑なら借りるのが月額制でそこまで掛からんけどねぇ。さすがに空き地までは無理じゃが」
「へー…」
ということは畑を借りて大豆の栽培とかできるのか…。んー…でもここでお金を使ってまで栽培するのは…。てか月額ってこっちと現実のどっちの一ヶ月なんだろ? もしこっちなら約十日で月額なのか…。それはそれで更新がめんどそうだ…。
「そこでだ。アリスがさっき言ったように、家がぽつんと建っているのを見たと言っていたな」
「うん」
「その内の一つがあたしの家だよ。まぁ別邸とでも言っておこうか」
「ナンサおばあちゃんって結構お金持ちだったの?」
家二つも持ってるってことは相当お金持って事だよね?
「アリス、お前さんは忘れているかもしれないけど、あたしは薬師だったんだよ。だから普通の家と薬草を栽培して薬を作製するための家を持っていたんだよ。でもあたしも歳だ。二軒も行き来するのは大変になってね。それに薬師もほとんど引退してからあっちには行くことが無くなって放置したままなんだよ」
確かに、ナンサさんの家は中心に近いと言っても南西側だ。それに対して、作業する家は北西側と距離が少しある。若い頃ならばなんともないけれど、歳を取っていくと段々辛くなっていくものだ。
「それで、何でその話を私に?」
「アリスがよかったらあの家を売ってやろうと思ってね。しかも一軒分の畑付きだよ」
なん…だと…!? つまり家と畑の二軒分ですと!?
私は無意識に喉を鳴らす。
「ちなみに…いくらぐらい…?」
「元々はあたしに弟子が出来て、一人前になった時の記念に譲ってやろうと思ってそのままにしてもらっていた家だ。金なんて取らんよ。弟子だったらねぇ」
ナンサおばあちゃんは意地悪そうに少し笑う。
「むー…」
「ひっひっ。可愛がってる孫みたいな子が弟子になってくれたらあたしも嬉しかったんだがね。アリスが弟子だったら本当にタダで上げようと思ったんじゃよ。なんなら今からでも弟子になるかい?」
「そんな家に釣られて弟子になるような子だったらあげないんでしょ?」
「よくわかってるじゃないか。そもそも、そんな餌に釣られるぐらいの子だったら、あんなお人よしな事はせんよな」
「もうっ…。それで、いくらで譲って貰えるの?」
「んー…そうじゃのぉー…」
ナンサおばあちゃんはブツブツと言いながら値段を考えている。
「まぁ大通りとまではいかんが、ある程度大きな道に接している土地じゃからな。結構高かったんじゃよ。まぁ昔は結構薬を融通してたからのぉ。そのおかげで安くはしてもらったがの」
「うへぇ…」
となると、それが二軒分だから一千万以上必要なんじゃ…。
「まぁ二百万と言ったところじゃな」
「え?」
「なんだいアリス。そんな拍子抜けしたような顔して」
「えっ…いやっだって…道に接してて二軒分でしょ? 普通ならもっと高いんじゃ…」
「だから二百万と言ったじゃないか。まぁアリスには世話になったから多少は安くしたがの」
いや…絶対かなり値段をまけてるよね…? 普通そんな安く手に入るわけないよね…?
「それにお前さんも異邦人じゃ。家の一つでも持ってて困らん時期じゃろ」
「確かに…家は欲しかったけど…」
「それに使っておらんかった家じゃ。あと内装は好きに変えてよいからの」
「でっでも…」
「おばばからの餞別じゃ。それと代金の方だが、払える時にギルドへ振り込みしてくれ。とは言っても、支払にある程度の制限を付けないといけんからのぉ…。アリス、月にいくらなら払える?」
「えっ? まぁギルドの依頼とか受ければ十万程度ならギリギリ…」
後は節約すればなんとか…なるよね…?
「じゃあギルドの方に大体月五万程度と連絡をしとくよ。それと、使用者の譲渡の件も申請せんといかんなぁ…。悪いがアリス、一緒にギルドホールまで来てくれるかい?」
「それはいいけど…ホントにいいの? ナンサおばあちゃん…」
「構わん構わん。それに他のやつらも弟子に譲るように作業場用の家を建ててるからねぇ。それに、今更あたしのところに来やしないだろうしね」
確かに現在活動中の薬師の人ならともかく、引退したナンサおばあちゃんのところに弟子入りに来るようなプレイヤーはいないだろう。というか、そもそも気づかないだろう。
ギルドホールに向かうと言っても、あそこまでナンサおばあちゃんは移動するのは一苦労だ。ということで、STRも上昇している私がおばあちゃんを背負って移動する。
最初にあった頃よりも全然力が強くなっているのだ!
それにAGIもかなり上がっているので、ギルドホールに着くまで時間はそこまで掛からなかった。もちろん移動は安全運転だったけどね。
ギルドホールに着くと、以前と比べかなりプレイヤーの人数が多くなっていた。
第二陣も増えてプレイヤーの人数が多くなっているのもあるが、やはり活気が出ている様に見える。
とまぁ、いつまでもナンサおばあちゃんを背負っているのも目立つので、おばあちゃんをゆっくりと降ろす。
「おぉ、ありがとねアリス。最初に会った時よりもやっぱり強くなっているんだねぇ」
「あら~? アリス~?」
「ん?」
私を呼ぶような声が聞こえたので、声が聞こえたほうを向いてみると、そこにはリンがいた。
リンは私が気付いたのを見てこちらに近寄ってきた。
「あら~ナンサさん、こんにちは」
「おや、リンかい。随分凛々しくなったもんだね」
「はい、おかげさまで。それよりアリス~、こんなところにナンサさんとどうしたの~?」
んー…家の件で来た事を伝えていいのかどうか…。絶対騒ぎになるしなぁ…。どうするべきか…。
そう回答に悩んでいた私を見て、ナンサおばあちゃんは別の回答を答えた。
「ちょっと依頼を頼もうと思ってね。街でアリスを見つけて付き添いをお願いしたんだよ」
「あら、そうでしたか。では邪魔してはいけませんね。失礼いたします。じゃあアリス、またね」
「うん。またね、リン」
リンはぺこりとお辞儀をしてその場を去って行った。
「ふぅ…。これでよかったかい? アリス」
「うん。ありがと、ナンサおばあちゃん」
「確かにあまり知られていいことじゃないからねぇ。さてと、行くよ」
そう言ってナンサおばあちゃんは受付に向かって歩き始めたので、私はそれについて行った。
久しぶりのナンサさん登場です。
この家の話が終わったら今後の構成を考えるために更新が1~2日止まる可能性が…あるかもしれないしないかもしれない。




