キャンプイベント⑬
「――ス」
んー…なんだろう…。声が聞こえる…。
「―リ―」
まだ眠いのぉー…。あと五分ー…。
「起きろ、アリス」
「んにゅ…?」
頑張って重い瞼を開けると、目の前にショーゴがいた。一体どうしたんだろ…?
「おはよ…」
「おはよじゃねえよ。もう夜だぞ」
「へー…」
あれ…? そういえば私にくっついていたルカは…?
「アリス、おはよ」
「ん…おはよ…ルカ…」
「アリス、よく寝てた」
「やっぱり疲れてたのかな…?」
体感的には疲れはそこまで感じなかったけど、見えない疲労が溜まってたのかな…? それに夜ってことはご飯作らないと…。
そう思って立ち上がろうとすると、ルカに止められた。
「アリスはゆっくりしてていい」
「え…?」
「私たちが作る」
「ルカたちが…?」
でもルカって【料理】スキル持ってなかったような…。
「実はこっそり料理取ってた」
「いつの間に…」
「アリスだけに負担掛けるの、やだったから」
「ルカ…」
「それに、サバイバル用のスキル持っといたほうがいいから」
まぁ確かに、今回のイベントのようにサバイバルだと食料確保は大事だからね。取っておくことに越したことはないからね。
それに食料が確実に確保できる時じゃないと、そういうスキルを上げるタイミングが難しいもんね。
だから他の五人も手伝いじゃなくて料理しているわけか…。
「うおっあっちっ!?」
「うっうまく切れん…」
「まさかゲームの中で料理をすることになるとはな…」
「さすがにスキルレベルが低いから難しいのは無理ねぇ~…」
「ここで料理ができるように腕を磨いておけば…」
男性陣はまぁ思ってた通りうまくできてなさそう。女性陣はレオーネが少し慣れてる感じかな? クルルは…うん、得意じゃない感じだね。
「ルカは料理は得意な感じ?」
「少しはできる」
そう言ってルカは魚と玉ねぎを取り出して調理し始めた。魚を刺身ぐらいの厚さにして、玉ねぎを薄くスライスしているのは見えた。後はなんかもぞもぞとしていて見えなかった。
魚と玉ねぎで作る料理ってなんだっけ…? まぁ楽しみにしてようかな。
しばらくすると料理が完成したのか、皆が私を呼ぶ。
ということでテーブルに着くと、皆の料理が置かれていた。
「アリス、どうぞ」
「私からでいいの?」
「だいじょぶ。皆了承済み」
皆の方を見ると微笑みながら頷いていた。
「じゃあ…いただきます」
まずは手前に置かれていた、玉ねぎと魚のマリネを頂く。
「あむっ」
「……」
ルカがじっと見てるけど、たぶんルカが作ったんだよね。
「美味しいよ、ルカ」
「よかった」
じゃあ次は…このお肉と野菜炒めを頂こうかな。ところどころ少し焦げてるけど美味しそう。
「あむっ」
「「「……」」」
今度は男性陣か。ちょっと味が濃いめだけど野菜とかもちゃんと火が通ってるし、良い感じだと思う。
「うん、美味しい」
「「「ほっ…」」」
ってことはこのポテトサラダはレオーネとクルルってことだよね?
「あむっ」
「「……」」
うん、そんなに祈るようなことしなくて大丈夫だよクルル。ちゃんと美味しいから。
「どれも美味しいよ」
「よかったです…」
「だから自信持ちなさいって言ったのよ~」
皆料理のできに安心したのか、それぞれの料理に手を伸ばし始めた。
「それにしても料理がこんなに大変とはなー。かーちゃんって大変なんだな」
「確かに。料理が出来る男子はモテるというのが少しわかった気がする」
「今日やってみてやっぱ俺には料理無理だな―とは思ったけどな」
「お姉さんは一人暮らしだから料理できないとダメなのよ~」
「私は料理を練習しないと…」
「それにしてもアリスは凄い」
「えっ?」
何が凄いのだろう? 料理ぐらい慣れてしまえばそこまで苦労するものではないと思うけど。
「料理もできて、美人。勉強はどうなの?」
「あー…アリス結構成績いいぞ。リンには負けるが」
「美人で頭が良くて料理もできる…羨ましいです…」
「それだけスペックが高かったら彼氏とかいたんじゃないのか? ショーゴ、そこら辺はどうだったんだ?」
彼氏かぁ…。残念だけどできたことないんだよね。
「んなこと聞くなよ…。つっても一度もアリスに彼氏はいなかったな…」
「でもショーゴとリンはそれぞれ彼女彼氏いたよ」
「ショーゴォォォ! てめぇアリスちゃんとリンちゃんがいて他の女に行くとはどういう了見だこらぁぁぁ!」
「落ち着けシュウ! 付き合ったっつっても一ヶ月も付き合ってねえよ!」
「やっやっぱりアリスさんやリンさんが魅力的で、他の女性では相手にならなかったから別れたと!?」
「クルルも女の子ね~。やっぱりそういう恋バナ気になっちゃうのね~」
シュウとクルルが食い気味でショーゴに迫ってるが、私はご飯を食べていよう。
するとルカがこっそりと私の横に座った。
「アリス、ショーゴの事好きじゃないの?」
「好きだよ?」
「でも、付き合わなかったの?」
「まぁそうだね」
「リンに気を使ったの?」
「んー…そういうわけじゃないけど…」
確かにショーゴの事は好きだ。もちろんリンの事も。でもこの好きはLoveじゃなくてLikeの方の好きなんだと思う。たぶん近くにいすぎたせいで、そういった恋愛感情が私には無くなったんだと思う。
リンの方はわからないけど、少なくとも私からは恋人になろうとは考えてないかな? まぁショーゴが告白して来たら答えようとは思うけど。
「幼馴染も大変」
「えっ?」
「なんでもない」
大変…なのかな? そこまで大変じゃないけどなぁ…。まぁショーゴを大学に連れて行くのは大変だけど。
「てめぇアリスちゃんは好きじゃねえのかぁぁぁ!」
「やかましいわ! お前いい加減落ち着けよ!」
なんだかヒートアップしてるなぁ…。仕方ない、助け舟を出してあげよう。
ということで、私は席を立ちショーゴの側へ行く。
「あっアリス、どうしたっ!?」
「ショーゴー…お腹いっぱいで眠いからベッドまで運んでー…」
「はぁっ!?」
わざと眠そうに眼を擦って眠いアピールをする。
でもシュウは少しフリーズしてるだけだから、止めるためにはもうひと押しかな?
私はそのままショーゴの正面から首に手を回して軽くしがみつく。これでショーゴも私を運ぶために席を外すでしょう。
「…はぁ…。ちょっと俺アリス運んでくるから…」
「おっおう…」
ショーゴはため息を付き、私を抱きかかえる。所謂お姫様抱っこだ。まぁ私がショーゴの首に手を回しているせいなんだけど。下手に肩を貸して運ぶよりも、こっちの方が話を吹っ飛ばせると思うし。
そしてショーゴは私をログハウスの私の部屋まで運んでベッドに降ろす。
「んで、どういうつもりなんだ?」
「助け舟のつもり」
「あれが助け舟になるのか…?」
「私としてはそう思ったんだけど…」
「まぁお前が助けようと思ってやったってことだな?」
「うん。迷惑だった?」
「んなことはねぇけどさ…。まぁいい、そろそろ戻るわ」
ショーゴはそう言って私から離れようとする。そんなショーゴの服の裾を私はすっと掴む。
「どうした?」
「ショーゴは、リンの事どう思ってるの?」
「どうって…」
「リンの事、好きじゃないの?」
「…好きだよ。お前と一緒ぐらいにな。まぁ幼馴染としてな」
「…そう…」
私はその答えを聞いて、ショーゴの服の裾を離す。
「じゃあ、俺行くからな」
「うん…」
そう言ってショーゴは歩きだす。そして部屋を出る時に私は一言言う。
「やっぱり…あの時の事…気にしてるの…?」
「…あれは俺らのせいだ。お前のせいじゃねえよ…」
「でも…」
「あの時、俺らが弱かったから起こったことだ。それにお前を巻き込んじまった…謝らねえといけねえのは俺らの方だろ…」
「あの時十分謝ってたじゃん…。あの時なんてリンは大泣きしてたし、ショーゴも鼻水垂らしてたし」
「たっ垂らしてねえよ!」
「ふふっ。でもショーゴ」
「なんだ?」
「もう、私の事…気にしなくていいんだよ…?」
「っ…!」
ショーゴはそのまま背を向けてその場を去って行った。
「少し…言いすぎちゃったかな…?」
でも、あの時私が犯した罪は二人の中に残ってしまった。十年以上経っても消える事がない罪。
二人に恋人が出来て、もう大丈夫だと思った。でも、二人はすぐに別れて私の元へと戻ってきた。二人が側にいてくれることは嬉しい。でも、二人は二人の幸せを求めていいはずなんだ。あの頃のように…。
「…レヴィ…かぁ…」
この世界で私の元にレヴィが来てくれた。レヴィ――レヴィアタンは嫉妬の大罪を司る悪魔。これは偶然だったのかな…? それとも必然なのかな…? 私の元に大罪を司る幻獣が来たことは…。
でも、私が背負う大罪だったら嫉妬じゃないよね…。私が犯した罪。大罪。それは、――なんだから…。
まぁ、私なんかが二人のことを心配してるなんて傲慢だと思われるけどね。
ふふっ…ホント…私って大罪だらけだなぁ…。だからジャックが言ったように、七つの大罪に狙われるような事になるのかなぁ…?
何故ラストがシリアス展開になったんだろうか…(無意識)




