キャンプイベント②
あぅ…少し我を忘れて夢中になりすぎた…。気持ちが落ち着いて周りを見たら、他のプレイヤーがこっちをじっと見てるんだもん…。恥ずかしくなってつい森の方まで逃げてきちゃったよ…。
それにしても大豆が取れたのは嬉しかったなぁ…。あとはどこか畑を借りて栽培できれば、調味料が…ふふっ。あっ、そうすると発酵させるのに【醸造】スキルが必要なのかな? まぁそれはイベント終わってからでいいよね。
「―」
食料も集め終わったので、拠点に戻ろうと森へと足を踏み出そうとした時、微かに何か声のようなものが聞こえた。【感知】スキルを使ってみるが特に敵モンスターやプレイヤーの反応は感じられなかった。
気のせいだったのかと思ったが、再度聞こえたので気のせいではないと判断した。
私は、微かに声のようなものが聞こえた方向へ向かうと、音が少し大きく聞こえてきた。私は草をかきわけて進むと、次第に声の元へとたどり着いた。
「これって…?」
体長は二十センチ程で、頭に小さなつぼみを付けた人型で緑色の女の子が、苦しそうに顔色を悪くして地面に倒れていた。
「赤ん坊…?」
いや、足が普通の足じゃなくて根っこのように捻じれた感じの足だ。と言うことはこの子は…。
「モンスター…?」
それにしてもこんな小さなモンスターもいるんだなぁ…。もしかしてこの状況で油断させて私を食べるとかそういう罠? でも【感知】スキルには反応ないし…。あっ、でも擬態とか隠れる系のスキルだと反応しないこともあるし、そういうので反応しないだけかな…。とはいえ…。
「―」
いくら罠でも、こんなに苦しそうにしてるのを演技とは思えないしなぁ…。
私は少し悩んだ結果、この子を助けることにした。念のためにレヴィを先に呼んでおいてっと…。
「キュゥゥ!」
「レヴィ、もし私に何かあったら助けてくれる?」
「キュゥ!」
「ふふっ、ありがと」
私は恐る恐る小さなモンスターを手に持って支える。モンスターはとても軽くて柔らかかった。っと、そんなことをしている場合じゃない。植物系のモンスターなら苦しそうにしてる原因って…水か太陽か栄養だよね?
ここは…日は十分当たる。栄養…ちょっとわからない。水…周りに無し。となると水不足かな? とは言っても私も手持ちに水分関係はないし…。きゅうりを食べさせるわけにはいかないよね…。
となると…。
「レヴィ。少し水出してくれる?」
「キュゥ!」
レヴィは水魔法で水を水鉄砲みたいに少し出してくれた。それを私は手で受け止めて、水に濡れた指をモンスターの口に当たるように移動させる。すると、重力に従って水は指の先端に集まり、やがてモンスターの口に落ちていった。
「―」
モンスターは口に水が当たるのがわかったのか、その水をコクコクと飲み続けた。それを何回か続けると、苦しくなくなってきたのか、顔色も少し良くなってきた。
とはいえ、ここにまた放置しても同じ事を繰り返すだろう。だったら、何かの縁だし私が西に見えた川まで連れてってあげようかな。幸いまだ時間も余裕があるし、私のAGIなら行ける自信がある。
なのでこの子を私の着物の胸元に入れることで隠し、ただ移動しているだけのように見せる。さすがに生きているモンスターをアイテムボックスとかには入れられないらしいので、このような方法しかないのだ。
とはいえ、普通に移動している分では時間が掛かってしまうので、一定時間は木を思いっきり蹴って移動して時間を短縮する。STRも十分育っているので、その位強く蹴っても私に反動ダメージは来ない。
実はSTRは筋力を上げるということで、身体も鍛えていることになっているらしく、【重力魔法】を受けてる最中でも結構影響があったのだ。だから私も本気で耐えようと思えば、重力二倍ぐらいならギリギリ動けるか動けないかまでいけるのだ。主に武器まで重くなるせいで動けないんだけど。
じゃあバリバリSTRを上げてそうな重装備には使えないと思うだろう。でも考えてみてほしい。いくら身体が強くなったとしても、荷物までその倍以上重くなっても持てるかどうかということだ。おそらく無理だろう。
では逆に軽装備でSTRを上げているプレイヤーはどうなるだろう。元々軽い装備が倍重くなったとしても、動きにはそこまで影響がないと思う。しかし、そんな軽装備するならSTRを上げるよりもAGIなどを上げるだろう。つまり、【重力魔法】に対抗するには軽装備でSTRが高いといった、関係性のないスキルを持ってないといけないのだ。
っと、まるで私が異端みたいに思うがそれは違う。私はただ食べ物が一杯ほしいからSTRを上げているだけなのだ。だからたまたまこういうことを知っただけである。それに、こういうのは自分で調べることに意味があると思うので内緒にしてる。というか、あまり対抗策知られちゃうと私が辛くなる。
しばらく森を疾走していると、川が見えてきた。一応位置を確認してみると、まだ西寄りの南西側だ。となると、川は少し斜めって流れているのかな? もしくは川が分かれているのかな? ともかく、この子を降ろしてあげないと。
私は森から出て川辺で近づく。周りにプレイヤーは見当たらなかったのは運がいい。ではこの子を胸元から出してあげます。やっぱり移動に疲れたのか、少しぐったりしてます。ですが、水を見た途端元気になったので、やっぱり水不足で間違いなかったようだ。
私はこの子の身体の横を抑えてゆっくりと足を水に浸けてあげる。後はこの近くにいれば大丈夫だよね。私はこの子を足だけが浸かるような川辺に置いてあげて立ち上がる。
「じゃあ私はもう行くから、気を付けてね」
「―」
まぁあそこなら、水も太陽も栄養もありそうだから大丈夫だよね。それでいきなりボスモンスターになったらどうしよう…。まっまぁその時はその時だよね! 戦闘狂の人だっているし! 大丈夫大丈夫っ!
私はそそくさと誰かに見られる前に、その場から去って行った。
「―」
最後にあのモンスターから悲しそうな声が聞こえたが、あんまり情を移しすぎると倒すときに辛くなっちゃうから…。
「キュゥ…」
「んっ…大丈夫だよ」
レヴィも慰めてくれてるのか、頬を少し舐めてくる。とはいえ、あんまり出してると他の人に見られちゃうかもなので、仕舞っておこう。
「レヴィ、少し戻ってて」
「キュゥゥ…」
レヴィは召喚石に戻った。やっぱりレヴィは優しいなぁ…。早く自由に出してあげたいなぁ…。
私が拠点に戻ったのは、もう夕方になっていた。ショーゴとシュウも既に帰ってきており、私にメッセージも送っていたらしい。正直すまなかった。
とはいえ、二人はこのイベント限り使える調味料セットに容器セット、それにオーブンやバーベキューに使えるコンロを手に入れていた。二人にしては上出来かなとは思う。とはいえ、私も夕方に戻ってきたからそこまで凝った料理が作れるわけじゃない。ということで初日だけどバーベキューということにしよう。
肉は私が持っている肉を特別に使ってあげよう。皆、感謝するのだ。
まぁ私としては、ルカが仕上げたログハウスの方が凄かったと思うんだけどね。ちゃんと完成したから入らせてもらったら、女性陣四人の部屋もちゃんと出来ててベッドも完備されてた。窓については、やっぱりガラスの材料がまだ手に入らないから取り付けられてないが、十分凄いと思う。私はルカに凄いと言って抱きしめると、ルカも私に食べ物ありがとうと言って抱きしめてくれた。
でも気になったのは、外で疲れ果ててるガウル、レオーネ、クルルの三人だ。一体どれぐらい働かせたんだろうか…。
皆もお腹を空かしているとのことなので、少し早めに料理の支度をする。と言っても、コンロはアイテムのがあるので、実質材料を食べやすいように切り分けているだけだ。串はルカが作ってくれたのを使うつもりだ。これであとはバランスよく材料を刺してっと。一応肉は塩コショウとタレで分けておく。好みもあるもんね。
まぁ予想は付くだろうが、そっからはもう皆飢えた獣状態だった。できた端からモリモリ食っていくので、最初は私は食べる余裕がほとんどなかった。でもルカが適当なタイミングで私に食べさせてくれていたので、まぁ大目に見るとしましょう。まったく、ルカを見習いなさい。
中盤から反省したのか、私を食べる側に回して他は焼く側に回った。まぁ私が食べている最中は余っているのを取り合っていたけど。
そんなこんなで、食事も終わったので、後片付けをしてさっさと寝るとしましょう。明日もきっと早くなる事だし。
そうだ、メッセージ整理しとかないと…。そう思ってメッセージを整理していると、ショーゴとシュウ以外からのがあった。海花からだ。
「えーっと何々…? ちょっと変なの見つけちゃったから助けてくださいお姉様…だって…?」
…あの子…何してるの…。まぁとりあえず、明日の朝起きたら南寄りの拠点に来なさいとはメッセージを打っておいた。ってことは昼前までは動けずじまいかなぁ…? でもまだ六日もあるし、のんびりしていこう。たまには競争もないイベントっていうのもいいもんだね。
ということで、私は自分の部屋のベッドに横になってそのまま目を閉じた。
そして、他のプレイヤーたちも続々と眠りに入っていった。
ズルッ…ズルッ…。
「―」
何かがこの拠点に近づいていることにすら気づかずに。
夏イベントって難しいです…。




