【死霊魔術】とPK
何故か長くなってしまった…。
「こんばんわー」
「おっおじゃまします…」
私と海花は、時間が掛かるであろう海花の装備をお願いするためにリーネさんのお店へと入った。一応メッセージで先に言ってはあるのであるので、たぶん大丈夫だとは思うけど…。
「アリスちゃん待ってたにゃー。それでその子が噂のネットアイドルかにゃ?」
すっかり口調が戻ったリーネさんが、お店の中で出迎えてくれた。というか海花、噂になってたんだ…。
「うっ海花です。よろしくお願いしますっ!」
「大丈夫よく知ってるにゃ。アリスちゃんに森で喧嘩を売った命知らずの子たちって掲示板で載ってたにゃ」
「うぅっ…」
なんで今朝の事なのに、もうそんなに知れ渡っているのか…。これだから掲示板の人たちは…。
「まぁそこは置いといて、防具は綿でいいかにゃ?」
「はっはいっ!」
「それで要望としてはどんなのがいいかにゃ?」
「要望ですか…」
「さすがに混んでるから、アリスちゃんが着ているような着物までは無理だけど、ワンピースとかそういったのなら平気にゃ」
「じゃあワンピースでお願いします」
「私としてはメイド服とかもいいと思うけど時間が足りないからにゃぁ…」
「えっ遠慮しますっ!」
あー…確かに海花ならメイド服とかいいかもね。意外に似合うかも。今度私がお金出して無理やり着させようかな。
「残念だにゃぁ…。じゃあ値段はアリスちゃんの紹介ということで少し負けて5000Gでいいにゃ。代金は受け取りの時にお願いにゃ」
「わかりましたっ!」
「それとアリスちゃんに一つお願いがあるのにゃ」
私にお願い? まぁリーネさんだからろくでもないことだと思うんだけど…。
「アリスちゃんって、【漆黒魔法】スキル持ってるよね? それでちょっと覚えてほしいスキルがあるのにゃ」
「まぁ持ってますけど…何を覚えるんです?」
「その名も! 【操術】スキルにゃ!」
「【操術】スキル…?」
リーネさんの説明によると、MPを使って物を操るスキルらしい。そしてリーネさんはこのスキルと【道具】スキルで【傀儡術】というスキルを取得可能になったとのことだ。そして、【傀儡術】ということで、もしかしたらネクロマンサー系のスキルが手に入るのではないか、という考えで私に【操術】スキルを覚えて試してほしいらしい。
でもスキル修得には派生されていなければいけないのかと思ったが、【操術】スキルに関してはそういった縛りはないらしい。ということで海花も一緒に修得させるために一緒に講義を受ける。
ぎゃあぎゃあ言ったが、スキルを取得可能になっとくだけでもいいからやる。と脅したら素直に頷いた。やっぱり素直が一番だよね。
「と言ってもMPは初心者でも一応あるからすぐできると思うにゃ」
そう言ってリーネさんは、机の上に糸をそれぞれ一本ずつ置いた。
「まずは見ていてにゃ」
リーネさんも糸を自分の目の前に置いて、手を糸に翳した。しばらくすると糸が少し発光し始め、全体を覆うと糸がゆっくりだが動き始めた。
「ふぅ…。これで【操術】スキルの見本は終わったにゃ。あとは二人が動かせれば修得できるはずにゃ」
リーネさん曰く、MPを糸に込めるようなイメージでやるらしい。私は目の前の糸に意識を集中させ、MPを込めるようなイメージをする。すると徐々に糸の中心から発光し始めた。
あと少し…あと少し…。
発光部分は徐々に全体に広がり、遂に糸全体が発光した。
「その状態で糸を動かすイメージをするのにゃ。そうすると動くにゃ」
糸を…浮かばすイメージ…。イメージ…。
すると糸がゆっくりと浮かんだ。
―INFO―
【操術】スキルを教わったため【操術】スキルがSP不要で修得可能になりました。
スキル解放の条件を達成したので【付加】スキルが取得可能になりました。
おっ、これで私も【操術】スキルが取得できるようになった。ではさっそく【操術】スキルを取得してっと。そしてついでに【付加】スキルの取得条件も解放したようだ。
―INFO―
【漆黒魔法】【狩人】【操術】スキルを取得したため【死霊魔術】スキルが取得可能になりました。
おやおや? これはリーネさんが言ってたネクロマンサー系のスキルかな? ともかく伝えないと。
「リーネさん。スキル出ましたよ」
「おー! 流石アリスちゃん! それでそれでどうだったのにゃ?」
「えーっと、リーネさんが言った通りに【死霊魔術】スキルっていうのが出ました。それで条件が…【漆黒魔法】【狩人】【操術】スキルですね」
「【漆黒魔法】と【操術】は読んでいたけど、まさか【狩人】スキルとは思わなかったにゃ…。確かに死体が残ってないといけないからってよりにもよってそれかにゃ…」
まぁ…死体を操る操らない以前に解体とかしないといけないもんね…。
そして海花も無事【操術】スキルを取得可能になったようだ。そうだ。いいこと考えた。
「海花」
「どうかした?」
「海花の戦闘スタイルをネクロマンサーにしよう」
「は?」
何言ってんだこいつみたいな表情を海花がするが、私は話を続ける。
「だって海花ってアイドルでしょ?」
「まぁそうだけど…」
「だから人侍らすの好きでしょ?」
「まぁ好きだけど…」
「だからネクロマンサーやろう」
「なんでよっ!?」
「だって人侍らすじゃん」
「人違いでしょ! 人は人でもあたしが侍らすのは応援者であって、死人じゃないの!」
「どっちも人じゃん」
「アリスの外道っ!」
んーいいと思ったんだけどなぁ…。【狩人】スキルだったら私がすぐ教えられるから取得できるし。
そしてリーネさん、何故苦笑いしてるの。
「だったらあたしは【傀儡術】の方取りたいわよっ!」
「やっぱり、海花って家では人形で…」
「うっあっ…」
「海花ちゃんってそういう感じの子だったのかにゃ?」
「あっ…あっ…アリスのばかああああ!」
ちょっといじめすぎたようだ。泣き出してしまった海花を抱きしめて頭を優しく撫でてあげる。しばらくすると落ち着いてくれたのか、泣き止んでくれた。
「ひぐっ…」
「海花ごめんね。ちょっと言い過ぎちゃった」
「アリスの…ばかぁ…」
「でも海花ちゃん…アリスちゃんをいじめようとすると、もっと怖い人が来るから注意するのにゃ…」
あれはリーネさんの自業自得だしなぁ…。さすがのリンも初心者にそんな酷いことは…しないよね…?
「まぁともかく、海花もスキル構成は考えていた方がいいかもね」
「ぐすっ…うん…」
んー…やっぱりもう少し落ち着くまで待機かなぁ…。まぁ明日の夜にログインっていうことは言ったし、まずは狩りの練習をさせることにしようかね。とりあえず狼から始めようかな? 北の街道はきっと混んでそうだし、森でいいよね。
そして翌日…。
「ホント…アリスってなんなのよ…」
「何って何が?」
そう言って私は、新たに捕まえた狼の手足を片方だけ【切断】スキルで切断して、その場に狼を捨て置いた。
「本気で言ってる…?」
「本気も何も…海花が狩り苦手って言うから…」
「だからってモンスターの手足切って、私に的当てさせるやつがいるっ!?」
「ライオンは子供に狩りの仕方を教える時は、まず足を折った鹿を捕まえさせる。という話もあるしね」
そう。私は海花を戦闘に慣れさせるために、近づいて来た狼の手足を切って攻撃させている。とりあえずまずは私がお手本見せたんだけど、参考にならないって言うから自分でやってみてと言ったところ、うまく魔法が当てられないとのことで、じゃあ足を止めさせればいいじゃない。と思ったので今行っていることをしているのだ。
「アリスが皆のトラウマって言われている理由が少しわかった気がするわ…」
「えっ?」
「なんでもないわ…。それにしても結構スキル上がるの早いのね」
「初期スキルは結構上がるの早いよ。派生になると一気に上がりにくくなるけど」
「まぁイベントまでに少しは上げておきたいからよかったかな?」
イベントかぁ…。この前は闘技イベントだったから、今度は落ち着いた感じなのかな? でも第二陣も参加させようとしてることからそこまで厳しくはないよね? それにイベントではスキル取得制限が掛かるということなので、取りたいスキルがあるなら取っておくべきなんだけど…。
正直取るようなスキルが思いつかない…。もっと森での戦闘を得意にするために他の魔法を取るべきかなぁ…。【霧魔法】もたぶん身を隠すような感じで使えそうな気がするんだけど、掲示板を見た限りでは四種類が限度っていうし…うーん…悩ましい…。
あれから三日。
海花もなんだかんだで戦闘には慣れたようだ。わざと狼と近接戦をさせたり、海花対狼複数をさせたりしたら、ダメージを食らうということにも多少慣れてきたようだ。まぁもちろん海花は怒ってたけど。
でもそろそろ熊と戦わせてもいい頃かな? ということで少し奥へ向かいます。
「ねぇアリス…まだ着かないの…?」
…ちょっとおかしい…。普通ならこんぐらい歩いていれば熊はともかく、狼ぐらいは出てくるはずなのに…。
それにこの少し焼け焦げた臭いは一体…。誰か火系統の魔法で戦ってたのかな? でも、森で火系統を使うと火事になって自分も被害を被る可能性もあるから、あまり使わないと思うんだけどなぁ…。
すると、こちらに向かって小石が飛んできているのが見えた。
「誰かいるのかな?」
その瞬間、小石は木に当たって爆発した。
「きゃぁっ!?」
この爆発、きっと偶然じゃない! となると…魔法っ!? それにまた小石が複数飛んできてる!
私は海花を抱えて上に逃げようとする。すると今度は、上から大きめの石が複数降り注いでくるのが見えた。
「しまっ!?」
これは罠だっ!? 私は咄嗟に海花を地面に投げ飛ばした。
「きゃっ!?」
空中では回避行動は取れない。その事が分かっているから敵は私を空中におびき寄せたんだ。
でも攻撃が爆発なら…!
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「きゃっ!?」
一体なんなのっ!? 爆発が起こったと思ったらアリスに抱えられて、そしたらすぐ放り投げられて…。ってアリスはっ!?
あたしは上を見ると同時に、アリスのいた辺りで大きな爆発が起こった。そして周囲に何かが散らばります。
「あっ…あっ…」
べちょっと周囲に散らばったモノは、焼け焦げた肉片でした。
「うっ!?」
あたしは吐き気を催して吐いてしまいます。
「はぁ…はぁ…」
でも上から肉片が飛んできたってことは…まさか…。
「アリ…ス…?」
嘘でしょ…? あのアリスがこんなあっさりとやられるの…?
あたしが放心していると、誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえます。
「ハハハハハっ! やったぞっ! このヴィズルが【首狩り姫】を森で仕留めたぞ!」
現れたのは少し背が高めの男性で、左腕を前へ伸ばして鼻筋へ左手の人差し指を合わせ、右肩をあげて右手をピーンと伸ばしたポーズを取っている。
「フンっ! たわい無いものよ。これが森での戦闘で恐れられた【首狩り姫】の実力とはな」
そして彼はあたしの方をぎろっと見つめます。
「後はそこの初心者ただ一人。これなら…」
その瞬間、彼とは違う方向から声が同時に聞こえます。
「「赤子を殺すより楽な作業よ」…とでも言うつもりかな?」
あたしは彼とは違う方向から聞こえた声の方を見ます。するとそこにいたのは…。
「アリスっ!」
「なっ!? バカなっ!? きっ貴様はっ!?」
「あの爆発に巻き込まれて死んだはず、っていうところかな?」
「あの爆発に巻き込まれて…ハッ!?」
アリスは頬や服を少し焦がしてはいるが、特に大きな傷は負ってないように見えた。
しかも相手の言おうとしている言葉まで先読みしてる…! もしかしてアリスって読心術とかそういうのもできるの!?
「かっかっこいい…」
つい呟いてしまったが、これは仕方のないことだろう。絶体絶命かと思っていたら、何事もなかったの如く現れるんだもん。こんなのアリスがもし男性だったら…。ってだめだめっ! アリスはただ手伝ってくれてるだけのフレンド…。でも…。なんだかアリスがキラキラして見える…。
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うーん…。相手が○ョジョ立ちしてて、○トレイツォっぽい台詞言ってるから、それらしいこと言ったらなんか驚いてるなぁ…。それに海花もなんか私を見る目が変わってる気が…。
それに何で無事だったかと言うと、咄嗟に上に【収納】の中に仕舞われてる熊とかの死体を投げたんだよね。後はイカグモの糸をワイヤーっぽく使って別の場所に逃げただけっていうね。よかった。こういう移動用の道具作っといて。
まぁ爆発も音とかは凄かったけど、威力的にはそこまで高くなかったし、たぶんINTをあんまり上げてなかったんだろうね。
「フンッ! まぁ生きているならば仕方ない。だがっ! 貴様は私に近づくことはできんっ!」
「一応聞くけどなんで?」
聞けばきっと答えてくれるでしょう。この手の人は。
「何故ならば私の周囲には設置型の【爆魔法】が敷き詰められているからだっ!」
なるほど、あの爆発はやっぱり魔法だったのか。ってなると効果は、物を爆発物にさせるっていう感じかな?
ちょっとトラップとして利用できるかも。候補の一つとして考えておこっと。
「だから貴様は私には近づけないのだっ! そして! もし逃げる様ならば尻尾を巻いて逃げたということとなる! さぁ! どうするっ!」
別に海花がいるから逃げてもいいんだけど…。海花、その目はやめて。期待されてるようですっごいめんどくさい。とは言っても…。お返しはしないといけないもんね。
ということで、私は海花の側に寄る。
「海花、立てる?」
「はい…」
なんか海花うっとりした目でこっち見てるけど…ホントどうしたの…。
でも立てるっていうことなので、片手で海花を抱き寄せる。
「なるほど! 私が近づいて来るのを待つつもりか! だがっ! 私はここから貴様たちを嬲り殺しにすることができるっ!」
そう言って彼は手に持った石を爆発物に変えたのか、こちらに投げようとする。
その様子を見て海花がぎゅっと目を瞑るが、ここで暴れられると大変なので落ち着かせないと。
「大丈夫だよ海花、私に任せて」
海花は不安そうにこちらを見るが、まぁ心配いらないだろう。設置物と言っても誘爆はするだろう。
幸い相手との距離は十メートルを切っている。だったら私の魔法の射程内だ。
「『グラビティエリア!』」
「ぐあっ!?」
私が魔法を唱えると、私の周囲一メートルを除く直径十メートルに重力が掛かる。その重力で彼は手に持っていた爆発物の石を周囲に落として地面に倒れ込む形となる。
『グラビティエリア』は私が闘技イベントで使った『チェンジグラビティ』とは違って、対象が選べないが周囲に重力を掛ける魔法だ。なので私がこの場から動くと、私にも重力が掛かってしまう。ようは飛び道具対策だね。と言っても、これは最近使えるようになったんだけどね。
「きっ貴様ぁっ! 他の【重力魔法】も使えたのかぁっ!?」
「まぁそうだけどさ、そんな事言ってる暇あるのかな?」
「なっ何をっ!?」
「その爆発物、設置型じゃなくて接触型なんでしょ? でも普通、接触型でも時間は決められてるもんだろうからおそらくあと数秒だね」
いくら接触型だとしても、自由に起爆させれるようになるまではきっとまだスキルレベルは足りないだろう。でも爆発物作成ってだけでも結構強いと思うけどね。
そして数秒が経ち、爆発物にした石が徐々に光を帯び始めた。そろそろ時間だろう。
彼は重力に抗ってこちらに顔を向け、悔しそうな表情を浮かべる。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
「さようなら」
魔法を解除して私が海花を抱えてその場から離れた瞬間、石が爆発し設置していたであろう爆発物に誘爆し、彼のいた場所が消し飛んだ。
私は海花を降ろし、周りを見渡す。
「他には罠はないっぽいかな? でも今回は帰った方がいいかな? 海花、どうする?」
「はい…アリスお姉様…」
…ん? お姉様…?
「海花、大丈夫?」
「あたしは大丈夫です…」
「ところでそのお姉さまっていうのは…?」
「お姉様はお姉様です…」
さっきの恐怖でおかしくなったのかな? とりあえず深呼吸させよう。
「海花、深呼吸して」
「はい」
彼女はゆっくり時間をかけて深呼吸をした。よし、これで戻っただろう。
「じゃあ海花、戻ろうか」
「はい、お姉様」
だめだ…。治らない…。そもそも海花っていくつなのっ!? 確かに背丈はそこまで変わらないけどさっ! どうしたらああなるのっ!?
「海花、ちなみに今いくつ?」
「今年で十九です」
年下だった…。やばいマジでどうしよう。こんな状態の海花のファンたちに見られたら私恨まれるじゃすまないよね絶対!?
「海花、真面目にこの後すぐログアウトして精神落ち着かせて。お願い」
「わかりました。お姉様」
よし、さっさと森を出よう。そして翌日には海花が元に戻ってる事を祈るだけだ…。
この後、冷静になった海花がめちゃくちゃ悶絶した。




