首狩り姫の不運な一日
またまた残酷表現があると思いますので苦手な方は注意してください。
『あら~…そんなことがあったの~…』
「うん」
『アリサもフラグ立てるのが早いのか…それとも巻き込まれる体質なのか…』
「好きで巻き込まれたわけじゃ…」
私たちはPCを使ってインターネット電話サービスで通話をしている。内容は今日起こったことについてだ。別にゲーム内でもよかったんだけど、周りにも聞かれる心配もあったため、メッセージでちょっと時間を作って貰えるようにお願いしたのだ。
『それにしても海花っていうネットアイドルは要注意ね~…。アリサも何かあったら銀翼を頼ってね~? 団長には後で私から説明しておくから~』
「ありがと、鈴」
『確かに第二陣の一部のマナーの悪さはさっそく目立ってるしな。一応掲示板でも第二陣向けの注意書きまであったのにな…』
「掲示板にそんなのもあったんだ?」
『まぁこれは守っといたほうがいいぞ程度だけどな。まぁそれに…いやなんでもない』
「?」
なんか気になるから言ってほしいんだけど…。
『でもアリサも注意しろよ? そういうのはいつどこで何をしてくるか読めないからな』
「わかったー」
『いっそのこと私が方を付けてもいいんだけどね~…うふふ~…』
『とりあえず落ち着け鈴、お前がやるとマジで洒落にならん』
「すずぅー、私は大丈夫だから団長さんやエクレールさん手伝ってあげて。今新規の隊員で忙しいでしょ? もう話すこと終わったから戻って大丈夫だよ」
ギルドに入ったばかりで忙しい鈴をあまり拘束するのも悪いし、早々に話を終わらせよう。
「正悟もありがと、注意するね」
『まぁ何かあったら連絡しろ。いいな?』
『何を置いてもアリサのこと助けに行くからね~?』
鈴はやっぱりまだ落ち着いてないよね…?
私は通話を終了し、少しベッドに横になってリラックスする。
「とりあえず次インした時に何もなければいいなぁ…」
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翌日、さっそくログインした私は森に入りました。闘技イベントで使用した苗木の補充のため、クラー湖に向かうためです。あそこの周辺に生えている木が私の戦闘スタイル的にいい感じだったのです。
そして森に入ってさっそく移動しようと思って木に登った時に叫び声が聞こえました。
「何かな?」
私は声がする方へ向かうと、初心者っぽい格好をした二人組が三匹の狼に囲まれているのを見つけました。
「んー…いきなり狼三匹は辛いよね…」
見つけてしまったものは仕方ありません。それに杖を持った方は座り込んでしまっているし…あれじゃやられるのも時間の問題だよね。見捨てるのもなんだし、私は彼らを助ける事にしました。
「ひぃぃっ!?」
一匹の狼が二人組の内、立っている方に襲い掛かろうとします。
少し距離的に間に合わないのでここは…。
「『アースシールド!』」
「キャゥンっ!?」
立っている方の彼の前に土壁を出します。狼は土壁にぶつかって倒れ込みます。
そして私に近い方の狼がこちらに気付いて襲い掛かってきます。癖でつい首を狩ってしまいそうになりますが、この狼は彼らの獲物なので加減をしないと…。
私は狼の突進を避けて、そのまま首根っこを掴んで横っ腹に脇差を差します。狼は苦しそうにしますが、まぁ一発程度ならまだやられないでしょう。
瀕死になった狼を座り込んでいる彼の方に投げて言います。
「その狼早く殴って倒して!」
「はっはいっ!」
座り込んでいる彼は必死に狼を杖で殴ります。そして狼のHPがなくなって消滅しました。これでドロップは彼らの物だね。
残った狼は分が悪いと判断したのか逃げようとします。
このまま逃がしてしまうとMPK扱いにされてしまうかもしれないので、私は全力で追いかけて首を刎ねます。
そして狼を二匹倒した後、彼らの元に戻ります。
「助けてくれてありがとうございますっ!」
「あっありがとうございますっ!」
「どういたしまして。でも第二陣なんだよね?」
「はっはいっ!」
「だったらこの森より、北の草原の方が見渡しがいいからそこで慣れてからの方がいいよ?」
「はっはいっ!」
「わっわかりましたっ!」
うんうん。こう素直な子たちの方がいいよね。
まぁ私もこう素直な子たちに対して、「じゃああとは頑張って」と言うほど厳しくはない。彼らがこの森から出られるように付き添ってあげた。
森を出ると彼らは私にお礼を言ってそのまま街へと向かった。
さてと、私も行くとしようかな。そう思って再度森に入ろうとすると声が掛かってきた。
「やっと見つけたわよ!」
うぇー…。
後ろを振り向くと、そこには昨日絡まれたネットアイドルとその取り巻きの姿があった。
「まだ何か…?」
「昨日はよくもこの海花を無視してくれたわね!」
「それでまた追ってきたの…? 暇なの…?」
「暇じゃないわよ! あなたが逃げたからいけないんでしょ!」
そんな横暴な…。
「それで…何をすれば納得するの…」
「ふっ! 決まってるじゃない! あなたがあたしにひれ伏せばいいのよ!」
……何を言ってるんだこの子は…。
「えっと…どういう意味…?」
「えーっと…そのー…海花様はアリスさんにPVPを申し込むということで…」
取り巻きの内、第一陣の彼が申し訳なさそうにネットアイドルが言った意味を説明してくれた。
「えっと…それは私とその子のタイマンってこと…?」
「いえ…僕たち全員と…ということで…」
……バカなの? なんでタイマンじゃなくて取り巻きとも戦わなきゃいけないの…?
「別に逃げてもいいのよ? お人形さんみたいなあなたにはそれがお似合いだろうけど」
「あっあの…海花様…あんまり挑発するようなことは…」
「別にこんだけ人数がいるんだから勝てるんだしいいのよ!」
「いっいえ…その…彼女は…」
なんか昨日の事も含めてカチンと来た。
「いいよ。やってあげる」
「あら? 受けるんだ。いい度胸ね」
「さっさとPVP申請して」
「ふんっ」
彼女が私にPVP申請をした。PVPは申請された側がルールを決めることが出来る。ルールと言っても戦闘方式や範囲、それに時間ぐらいだけど、私がルールを決めたいから相手に申請させた。
ルールはデスマッチ方式で範囲はこの森を含める直径一キロ、そして時間無制限。
「はい」
「ふーん…デスマッチでいいんだ。リーダーデスマッチじゃなくていいの?」
「構わない」
「じゃあ始めましょうか」
「いいよ」
お互いに同意したことにより、PVP開始のカウントが始まる。
第一陣の彼が私が指定したルールを見て青ざめていたがそんなのはどうでもいい。だって、もう始まっちゃうもん。
『試合開始っ!』
PVP開始のアナウンスが鳴った瞬間、私は森へと入った。
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「あっ待ちなさいっ!」
「海花様お待ちください!」
第一陣の彼があたしの腕を掴んで止めた。
それとは別に、あたしのファンたちは意気揚々と森へ続々と入っていった。
「何するの! あなたもさっさとあの子を追いなさい!」
「駄目です! 彼女と森で戦ってはいけません!」
「どういうことよそれ!」
「彼女は…いえ…アリスさんは【首狩り姫】と呼ばれた第一陣のプレイヤーです…」
「首狩り…姫…?」
「はい…。彼女は確かに対人に向いたようなスキルはほとんど所持していません…。ですが…フィールドが森になった瞬間、彼女の脅威度は一気に跳ね上がります…」
その瞬間、森から歌が響いてきた。
「この歌は…?」
「海花様っ! 耳を塞いでください! 早くっ!」
あたしは何が何だかわからないけど、彼が必死で言っているのでそれに従って耳を塞ぎます。
しばらくすると彼が耳を塞ぐのをやめていいという合図をしたので、耳を塞ぐのをやめます。
「今のは…?」
「首狩り姫の所持スキルの一つです。おそらくこれから…っ!?」
「どうしたの!?」
「……一人…殺られました…」
「えっ!?」
あたしも自分のPT一覧を見てみると、こちらも一人HPゲージがなくなっているのが確認できた。
つまりこれは…。
「少なくとももう三人はやられているでしょう…」
「そんな…この短時間で…いくら第一陣が相手だとしてもこっちは二十人ぐらいいるのよ! それが何で!?」
「首狩り姫は一撃で相手を倒せる【切断】スキルというのを持っています。判定はシビアでほとんど成功しないのですが…」
「それを成功させて…あたしのファンを倒してるっていうの…?」
嘘よ…そんなの嘘…あたしはこんなことを簡単にやってのける相手に喧嘩を売ったってこと…?
「なんですぐ教えなかったのよ!」
「もっ申し訳ありません…」
あたしは彼に対して怒りをぶつけます。昨日の時点で教えてもらえれば今こんなことにはなってなかったのにと。
すると今度は森の一部が暗くなっていきます。
「今度は何っ!?」
「まずい…こう暗くなってはバラバラになって…急いで森から出る様にPTチャットを打ってください!」
「わっわかったわ!」
あたしと彼は急いでPTメンバーに森から出る様にチャットを打った。この際、あたしと彼のPTに所属していない三つ目のPTは諦める。
「うぁぁぁぁぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
「どっどこからっ…がっ!?」
「ひぃぃぃぃぃ」
そして今度は森から悲鳴がどんどん聞こえてきました。あたしは咄嗟にPT一覧を見るとPTメンバーのHPがどんどんなくなっているのが分かりました。
すると彼があたしに報告します。
「…こちらのPTは…全滅しました…」
「嘘…こっちも全滅…」
あたしたちを外して十八名…それがたった十分そこらで全滅したって言うの…?
「いくらあたしたちが初心者だからと言ってそんなことになるの…?」
「相手が魔法職だったらこうなる事もあり得ますけど…普通…近接職相手ならこうも短時間では…しかも森となるともっと時間が掛かります…」
「これが…【首狩り姫】の実力ってことなの…?」
「森での戦闘に限って言えば…そうなります…」
その瞬間あたしは崩れ落ちます。喧嘩を売る相手を間違えたと。ネットアイドルで有名になったからと言って自惚れていたということを…。この世界じゃあたしなんてただの一プレイヤー…肩書きなんて誰も気にしていない…。
「海花様っ!?」
「ふふっ…あたしは…勘違いをしてたのね…」
「そうだよ」
「「!?」」
森から声がしたのでそちらを振り向くと、着物を着てところどころに血を付けた少女が刀を抜いて現れました。綺麗だった少女の銀髪も血で朱に染まり、彼女が本当にあたしのファンを全滅させたんだと再認識させられます。
「あ…あ…」
あたしは涙目になって後ろに下がろうとします。でもうまく動けない。正面にいる少女が恐ろしくて身体が動かないのです。
「あなたに言いたいことが二つある。まず一つ、あなたがどんな存在であろうとも、この世界じゃ関係ない。あなたはただのプレイヤーの一人」
彼女はゆっくりと近づいてきます。
「二つ、別にあなたがどんな態度でプレイしようが正直どうでもいい。でも…」
彼女は冷たい表情でこちらを見つめています。
「街の人たちに何かしたら、私はあなたたちを絶対に許さない」
「ひっ!?」
歯がガチガチいって止まりません。そして彼女は冷たい表情のままあたしの目の前に来ました。
「それで? 残りはあなたたちだけなんだけど、どうする?」
「どっどうするとは…」
「このまま首を刎ねて終わらせてもいいんだけど、あなたには昨日逃がしてもらった恩もあるからそこら辺を含めてどうしようかなって」
すると隣りにいた彼は武器を仕舞って少女に土下座をします。
「今回の件については、第一陣の僕が止められなかったことが原因です。ですから僕に責任があります」
「あなた何をっ!?」
「ですので、海花様の降参を受け入れてください。僕は首を刎ねられても構いません。どうか…お願いします…」
「……」
少女はただ無言で彼を見つめています。
「…はぁ…。逃がしてもらった上にこんな事されたら何もできないよ…」
「ありがとうございます…。海花様…降参してください…。システムにあるはずです…」
「わっわかった…」
あたしは震える指で何とかシステムから降参の申請を出した。
「あなたも降参申請して」
「よ…よろしいのですか…?」
「次はないと思って。皆、私みたいに優しくはないと思うし。はぁ…昨日リンに言わなければよかったかなぁ…」
リンが誰かわからないけど、彼女がため息を付くほどの相手ということだろう…。もしそのような相手に知られたらあたしは…。
「あっそうだ一つ言い忘れてた事あるから付け足していい?」
「なっ何を…?」
未だ歯がガチガチと鳴り続けるが、彼女の話を聞く以外あたしに選択肢はなかった。
「とりあえず、今後はこういうことはしない方がいいよ。それと第二陣向けの掲示板あるから見る事。わかった?」
「え…?」
「…聞いてる?」
「はっはいっ!」
「よしっ。二人の降参申請許可するから、多分この辺りに取り巻きの人たち飛んでくるはずだよ」
彼女はそう言ってあたしたちの降参申請を許可したのだろう。そしてPVPが終了したのか、次々にあたしのファンたちがリスポーンしてきた。
「それじゃあ私行くから。もう迷惑掛けないでね」
そう言って彼女はまた森に消えていった。
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はぁ…。面倒だった…。
でもまぁ初心者ばっかりだったから、狩るの自体はそこまで大変じゃなかったからよかったけどね。
これで初心者狩りとか言われたらどうしよう…。でもあっちが喧嘩売ってきたんだからあっちの責任だし…。私は悪く…ないよね…?
あれで心変わりしてくれたらいいんだけどなぁ…。そんな単純にはいかないと思うけどね。そもそも説教は私のキャラじゃないと思うんだけどなぁ…。
まぁそれはさて置き、クラー湖着いたら少し水浴びさせてもらおっかな。少し返り血が付いちゃったし。レヴィに洗ってもらうのもいいけど水浴びもしたいし。
んー…先にレヴィに血を落としてもらって、その後湖で水浴びの方がいいかな? とりあえず水浴び楽しみだなぁ。こっちだと夏だしきっと気持ちいいよね。
そうだ! 今度リンやショーゴたちも呼んでみようかな。そろそろ探索範囲も広がってきただろうし、銀翼に所属したリンを通じて周りに言ってもらえれば、イカグモさんたちに乱暴はしないと思うし。そして皆がクラー湖に来れる様になれば…うへへぇ~皆でバカンスだー!
しばらくのんびりになると約束したな。あれは嘘だ。
ホントは祝第二陣イベントらへんにするつもりだったけどその前に数話入れる形に…。




