【首狩り姫】④
なんだかんだ長くなりました。
さて、試合前に見返してやるとは言ったものの…実際どうしよう…。森というアドバンテージが無くなってしまった今、私に残ってるのは速度だけだ。リンがMP切れになるまで回避し続けるっていうのもあるけど、そんな隙は絶対作らないと思うからなぁ…。
そして、戦略が固まらないまま三回戦となって私とリンの試合の順番となりました。
「じゃあアリス~よろしくね~」
「むぅー…よろしく…」
戦略が固まってない様子を察しているのか、リンは楽しそうに私に声を掛ける。しかし、今更うだうだ言ってても仕方ないので切り替えて試合に臨まないと。
『それでは選手互いに挨拶が終わったようなので試合を始めたいと思います。両選手は所定の位置に戻ってください』
タウロス君に言われたので、私は指示に従って所定の位置に戻ります。
『両選手、準備はよろしいですね? では、試合開始!』
開始の合図と同時にリンは風の弾を展開させて私に飛ばした。
「っく!」
遮蔽物がないまっ平らなフィールドでは、発生が早く弾の速度も速い【風魔法】系統は相性がいい。とは言っても初期魔法の風弾であるため、私のAGIならば十分避けられる速度だ。
しかし、リンはその直後に今度は速度が劣るが威力が高めの大きめの風弾を飛ばしてくる。速度は速いが威力が低い風弾と速度は遅いが威力が高い風弾の弾幕攻撃。
普通なら避けきれないと考えた場合には威力の低い方を受けるのだが、きっとリンはそれを狙ってきているのだろう。
しかし、回復アイテムの制限が決まっている試合でこんな序盤にダメージを食らうのは勘弁したい。だから私の取る手は…。
「『アースシールド!』」
私は土壁を前方に複数展開させて風弾を防ぐ。【風魔法】系統は発生が早い分遮蔽物に弱く、アースシールドのような土壁でも十分防ぐ事が出来る。私はそうやって身を隠しつつ、威力の低い風弾を防いで一息つく。
しかし、リンは私に一息などつかせようとせず、リンのいる方向がビリビリと光っている。ということは今度は貫通力の高い【迅雷魔法】で攻撃し始めようとしている。さすがに相性の悪い【迅雷魔法】をこの低いランクの土壁では防ぎきれない。しかし、遠距離からしか撃ってこないリンにだからこそ通用する手もある。
私はリンの魔法が完成する前に土壁を壁にするように前方に複数設置します。リンはきっと目くらましだと思っているだろうけど狙いは別にあります。
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あらぁ~? アースシールドで目隠しかしら~? でも展開はそこまで離れた距離にはできないから次に展開した辺りに打ち込めばいいわよね~。
私が今使える【迅雷魔法】の中でも貫通力と威力の高いライトニングスピアを展開させると同時にアースシールドで土壁が出来た。
「そこね~? 『ライトニングスピア!』」
私はアリスがいるであろうおおよその位置に向かって魔法を放つ。私の魔法は土壁を簡単にぶち破った。
「あらぁ~?」
しかし、アリスに直撃した気配はなかった。外したかなぁと思って今度は貫通力だけあるライトニングをその周囲に放った。
「?」
何かがおかしい。ライトニングスピアを撃ったあたりから土壁が展開されなくなった。先に作った土壁に方に隠れている? でもそれじゃあ貫通力のある【迅雷魔法】を持っている私に対して意味はほとんどない。
それに私に攻撃するつもりなら、土壁を徐々に前に展開して近づいてこないといけない。
一体狙いは何かしら…。
「!?」
私が周囲を警戒していると、アリス陣営方面の土壁を展開していない左側に突然大木が数本現れた。
いつの間にそんなところに!
私は咄嗟にライトニングスピアを展開させようとして瞬間、何か違和感を覚えた。
いくらアリスのAGIが高いと言っても、見失うほどの早さのAGIになれるはずはない。ということは何か仕掛けがあるはず…。
その瞬間、私の【感知】スキルに反応が現れた。
私は周囲を見渡すが、アリスの姿は見られない。しかし、スキルが反応しているということは近くにいるということだ。でもこの周囲に身を隠すような場所は一つもない。
もしや大木にした時にそのまま打ち上げてきたかと思って空を見上げたが、そのような姿は見られなかった。
ではどこだと思い考える。姿を消すようなスキルがあるのだとしても、移動した跡が残るはず。しかし、周囲にはそのような動きも見えない。
落ち着きなさいリン。きっと私が見落としているだけ。そもそもアリスの取っている魔法スキルは【大地魔法】と【漆黒魔法】のはず。その二つで姿を消せるような事が可能なのだろうか。
しかし、もしそうだったら掲示板にもその情報が上がっているはず。ということは別の方法で私に近づいているということだ。
アリスが使った魔法はこれまでアースシールドとブラックカーテン、それに地形操作…。
地形…操作…? そういえばアリスは二回戦目に穴を掘って相手を降参させていた…。
「まさかっ!?」
その瞬間、私の後ろに大きな穴が突然現れ、そこから脇差を抜いたアリスが飛び出てきた。
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狙うはリンの首ただ一つっ!
リンの首に届くまであと数メートル! ここで決めないと私に勝機はないっ!
「はぁぁぁぁっ!」
よしっ! リンは反応しきれてない! 殺った!
「『シュトゥルム!』」
その瞬間、リンの周囲に風が展開されて私の刃は届かず、私は後方へ飛ばされてしまった。
まさか直前で気付いたっていうのっ!?
「ふぅ~…ヒヤヒヤしたわぁ~…。今のは惜しかったわね~…」
リンは少し冷や汗を流してこちらを見ている。あの言い方だと本当に惜しかったようだ。
しかし、ここで動きを止めてはリンの魔法の集中砲火に晒されてしまう。一旦距離を置かないといけないと思い、移動しようと足に力を入れた瞬間、追い打ちで風が来て更に後方に吹き飛ばされる。
やばいっ! これ以上飛ばされるとっ!?
しかし、リンのシュトゥルムは容赦なく私を後方へ吹き飛ばします。そしてついにフィールドを囲んでいる硬い壁に思いっきり打ちつけられます。
「あぐっ!?」
私は硬い壁に打ちつけられて『打撲』状態になります。これはやばいと思って塗り薬を出そうとしますが、リンが普段と違って手を構えている姿がチラっと見えました。
「その状態じゃあ逃げられないよねぇ~? それに~私をヒヤっとさせたご褒美にとっておき見せてあげるわ~」
リンの構えている手から小さい風が竜巻のように回転し始め、その風に雷が帯電し始めます。しかも、その帯電している風が徐々に大きくなっていきます。
やばいやばいやばいっ! あれ絶対やばいやつだっ! 早く塗り薬を塗って逃げなきゃっ!?
私は急いで塗り薬を取り出そうとしますが、『打撲』状態の影響でうまく塗れません。
そんな私の状態などお構いなく、リンの魔法はどんどん大きくなっていき、ついに直径一メートル程の大きさになっていきました。そしてリンはその魔法の説明を私にします。おそらく説明が終わった時が完成の証なんでしょう。
「これは【迅雷魔法】と【嵐魔法】の複合魔法よ~。発動までに時間がかかるし実戦じゃあんまり使えないんだけど、今のアリスみたいに相手が動けない状態ならできるってことなのよ~」
「あがっ…」
「それじゃあ終わりにしましょうか~…」
そしてリンが完成した複合魔法の名前を言います。
「【迅雷・嵐複合魔法】『テンペストレールガン!』」
その瞬間、帯電した竜巻状態の弾が私に向かってきます。私はまだ塗り薬を塗り終わっていないため逃げる事が出来ません。ですが、このまま何もしないわけにはいきません。
「『グランドシールド!』」
私はアースシールドの上位の壁のグランドシールドを前方に複数展開します。
しかし、リンの放った魔法はそのような壁など些細な物だと言わんばかりに簡単に貫通していきます。
私の作った防壁はあっさりと崩されて私に複合魔法が直撃します。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
グランドシールドで少しは威力が下がったとは言え、貫通力のある【迅雷魔法】と人一人簡単に吹き飛ばすほどの威力を持つ【嵐魔法】の複合魔法です。私は壁に押さえつけられた状態でHPがどんどん減っていきます。
そして魔法が止んだことによって、壁に押さえつけられていた私は地面に倒れます。グランドシールドのおかげでなんとかHPを一割ほどは残すことができましたが、しばらく動けそうにありません。
「あがっ…ぐっ…『――――ゾーン――倍』…」
私は小さく魔法を唱えます。
そして魔法を放ち終わって、私が倒れ込むまでその場に立っていたリンが歩き始めました。
距離にして約数十メートル。リンは時間をかけてゆっくりと私に近づいてきます。
そして距離にしておよそ六メートル程。私の【大地魔法】の射程に入らないためにわざわざ一メートル程距離を置いたのでしょう。
「まさか私の複合魔法を耐えるとは思ってなかったわ~…」
「……」
「さすがのアリスもその状態じゃぁ喋れないかしらね~」
「……」
「でもアリスは十分頑張ったわ~。私にとっておきまで使わせるぐらいさせたんだからね~」
「……」
「さて、これ以上アリスをいじめるのは私としても心苦しいから降参してもらえないかしら~?」
「……だ…」
「え?」
「い……や…だ…」
私は必死に顔を上げてリンを見上げます。
「ま……だ…負け…て…な…い…」
「はぁ…。アリス~? その動けない状態でどうやって私に勝つつもりかしら~?」
「私…は…リ…ン…なら…きっと…近づいて…くる…って…信じて…た…」
「あら~それは嬉しいわね~。でも近づいてもアリスは何もできないでしょ~?」
その発言を聞いて私はくすっと小さく笑います。
「…何か面白かったかしら~?」
「リ…ン……チェック…メイト…だ…よ…」
「まだ冗談言える余裕あるのね~? いいわ~もう終わらせてあげるわ~」
そうしてリンは魔法を展開させようとします。そして私は逆転の一手を打ちます。
「はぁ…はぁ…『チェンジグラビティ』…」
「なっ!?」
その瞬間、リンは地面に勢いよく倒れ込み、展開しようとしていた魔法が霧散します。
「いっ一体なにがっ!?」
リンは身体に力を入れようとしますが、うまく起き上がる事が出来ません。それどころか、力を入れても身体が動きません。
「アリスっ! あなた何をっ!?」
「はぁ…はぁ…簡単な…事だよ……私と…リンの…重力を…入れ替えた…だけ…」
「重力の入れ替えですって!?」
そう、私がリンの複合魔法でやられて地面に倒れ込んだ時に使った魔法。【重力魔法】の『グラビティゾーン』。これは使用者に掛かる重力を一倍以上に変化させて掛けることができる。一見使い道がないように見えるが、これは【重力魔法】のスキルレベルが上がる事で使えるようになる『チェンジグラビティ』を使うための布石だった。
『チェンジグラビティ』は使用者に掛かっている重力と周囲の対象の重力を入れ替える魔法で、範囲は十メートル程で持続時間は『グラビティゾーン』に比例する。
もし、あの時リンが近づかずに私を遠距離から仕留めていたらそのまま負けていただろう。
だが、リンなら近づいて来ると信じていた。そして私はその賭けに勝った。
私はゆっくりと立ち上がり、リンに近づいていく。実を言うと塗り薬を背中に塗れるほどの余裕はないのだ。今も『打撲』から『全身打撲』、更に『裂傷』『出血』になったため手を動くのすら辛い。
でも今リンの首を刎ねないと、『チェンジグラビティ』の効果が解けたリンにやられてしまう。なので私は、脇差を杖のように地面に刺してゆっくりリンに近づいていく。
そしてようやく倒れ込んだリンに近づくことができた。
「はぁ…はぁ…」
「まさかこんな奥の手があったなんてね…」
「奥の手は…最後まで…取っておく…もの…」
「そうね…結局私は口では対等に見てるって言いながらアリスを格下って見下していたのね…だから油断してこの様ってことね…」
「格下…なのは…確か…」
「ほら…早くしないと効果切れちゃうわよ…。それにまさか【疾風魔法】と【嵐魔法】が倒れていると魔法が発動しないなんて知らなかったわよ…」
「はぁ…はぁ…【迅雷魔法】は…やっぱり…視認…?」
「そうね。大抵は相手を視認しないと使えないわね。これなら地面に手が付いていたら使える【大地魔法】でも取っておけばよかったわ」
リンが敗因を言ってるけど、私としてはあんまり答える余裕はない。今でもなんだか意識とびそうだし…。
私は脇差を構えてリンの首に当てる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
これで……私の……か……ち………。
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アリスの脇差ずっと首に当たったままで冷たいんだけどねぇ…。さっさとするならしてほしいんだけど…。
そう思ってたら、私に掛かっていた重力が無くなった。
「もうっ何してるのかしらアリスは~」
せっかく仕留められる敵を放置するなんて甘い子なんだから…。そう思って身体を起こすとアリスは顔を俯いていた。
「アリス?」
不思議に思った私は、アリスの肩を掴んで前後に揺らそうとした瞬間、アリスがこちらに倒れ込んできた。
何かと思った私はアリスのところどころ血で赤くなっている銀髪を掻き分けると、目を開いたまま意識を失っているアリスの顔が映った。
「…限界だったのね…」
私はそんなアリスをぎゅっと抱きしめてあげる。HPはまだ少しだけ残っているが、『出血』状態では時間の問題だろう。私は審判にジャッジを求めた。
『…アリス選手、試合続行不可能のため、勝者、リン選手!』
こうしてアリスと私の試合は終了した。この結末に不満を持つプレイヤーもいるでしょうけど、私はアリスがこうなるまで私に勝とうとした事が嬉しかった。それだけ勝ちたい相手というふうに思われていたことが嬉しかった。
私ももっと強くなりたい。アリスの目標に成れるぐらいに強く…。そのためにはまずこの大会を優勝するところからかしら? 優勝したらアリスはなんて言ってくれるかしら。おめでとうと言ってくれるのかしら。それともこの試合で怒らせたりしたから、もしかしたら何も言ってくれないのかしら。
とりあえずこの大会終わったら何か美味しい物買ってこないといけないわね、色々な意味で。
これにてアリスの闘技イベントは終了します。
この次で第一章は〆に入るかな?




