【首狩り姫】②
少し物騒な発言があると思いますので苦手な方は注意してください。
「ただいまー」
私が観客席に戻ってくると、ルカがリンにしがみ付いていた。
「ルカどうしたの?」
「アリス~…そこは自覚してないのね~…」
「アリス怖い…」
何故かルカが怯えているけど、私…何かしただろうか…。
「アリスさっきの試合で歌ったわよね~?」
「そうだけど…」
「それが会場の観客にも歌の影響が出たのよ~」
「えっ?」
そういえば気にしてなかったけど、よく考えたら歌が聞こえた相手に影響が出るのか…。ということは今ルカが怯えている原因は恐怖付加の影響ってことなのか…。私はルカの隣に座って彼女に謝る。
「ごめんねルカ…そこまで気づいてなくて…」
「試合が大事。気にしてない。でも怖かった…」
ルカがリンから離れて、隣に座った私の裾を少し掴んだ。
「それにしてもホントにアリスには驚かされたわ~…」
「なら作戦成功ー」
「ショーゴがこれを知ったらどうなるかしらね~…」
「リンが驚いたなら驚くんじゃないの?」
「そんな単純なものならいいわね~…」
えぇ…。単純じゃないの…? それはめんどくさそうだなぁ…。
「それに掲示板も大騒ぎよぉ~? 大丈夫~?」
「そんなに騒ぐ事だったかなぁ…?」
「誰も見たことないようなスキルばっかり使ってればそうなるわよぉ~…」
「でも【漆黒魔法】や【急激成長】は見たことあるんじゃないの?」
「【漆黒魔法】ならともかく、【急激成長】や【童歌】なんて私も知らなかったもの~…。そう考えると補助スキル系はほとんど知られてないって思ったほうがいいわよ~」
あれ? じゃあメインスキルは色々わかってるのかな?
「じゃあリンー、相性の良い魔法で派生が出来たのって何があるのー?」
「あら~やっぱりアリスも気になるの~?」
「まぁ一応魔法使ってるし」
「私も知りたい」
「そうね~まず私が使ってる雷と風で【嵐魔法】かしらね~。他には風と水で【氷魔法】ぐらいかしらね~。あとはたまたま見つけられたので、アリスと一緒で土と闇で【重力魔法】かしらねぇ~。でも重力はやめといたほうがいいらしいわよ~?」
「それはなんで?」
「漫画とかだと重力を敵に加えるとかあるけど、初期スキルが自分にだけ重力を掛けるっていうものらしいのよ~。だから取った人もほとんど上げないで他の魔法に移ったのよ~」
へー重力って使われてないんだー。それにしても水とか風って結構派生出るんだね。やっぱり汎用性が高いのかな?
「そういえばルカは何か魔法取ってるの?」
「まだ何も取ってない。掲示板でいいのあったら取るつもり」
「そうそう相性と言えば、別に魔法を複数取ってもちゃんと派生が出るらしいのよ~。だから試してみたいのとかあったらやってみるのも手よ~?」
「んっ、考えとく」
まぁすぐ決めるような物じゃないもんね。ゆっくり決めればいいよね。
「んっ…。アリスどうしたの?」
「あっごめんね」
「だいじょぶ」
ついルカの頭を撫でてしまっていた…。恐るべしルカの小動物感…。
「あら~?」
「どうしたの?」
突然リンが困ったような声を上げたので何があったのか尋ねてみる。
「アリス~、さっきの試合の影響でアリスに二つ名が付いたわよ~?」
…ん? 一体何の話…? 二つ名? え?
「アリスの二つ名、何?」
「えーっと…【首狩り姫】だって~」
「納得」
いやっ! そこは納得するところじゃないでしょルカっ!
「いやいやっ! なんでそんな二つ名になったの!?」
「でもアリスお姫様っぽい。それに首狩ってた」
「うっ…」
それを言われると反論が…。首を狩ってたのは事実だし…。
「でっでも姫っていうのが…」
「話に聞くと、リンに守ってもらってた」
「別にお姫様でもいいじゃない~。アリス姫ってのもかわいいと思うわよ~」
「あうぅ…」
やめてよぉ…お世辞でもちょっと嬉しくなっちゃうじゃん…。
「それにしてもアリス次の試合どうするの~?」
「えっ? 何が?」
「今第五試合終わったけど、相手フル装備よ~?」
「【切断】使えない」
んー…まぁそういうの相手に対しての対策は一応考えてるけど…。
「えーっとなんて人なの?」
「銀翼所属のランクスっていう盾持ちね~」
「相性悪そう」
「んーそっかぁー」
「あらぁ~。なんか問題に思ってなさそうね~」
「自信ある?」
「まぁなんとかなるかなーって…」
その発言に二人は少し驚くが、実際大丈夫そうだしそこまで気にしなくて平気かな? ちゃんと方法は考えてるし。
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あっという間に二回戦になって私の出番となったため、私はフィールドに来たのですが…。
「なんでこんなに観客増えてるの…?」
一試合目に比べて二倍以上観客が増えている気がする…。やっぱり銀翼が試合するから増えたのかな…?
すると対戦相手のランクスさんが声を掛けてきた。
「久しぶりだな」
「えっと…」
「南の街道の解放作戦時に、君の所属したPTの盾持ちのリーダーだ」
あー…言われれば何か見覚えがあると思ったらあの時の人かぁ…。
「すっすいません…」
「いや、きみとはあれっきりだったからな。忘れていても仕方がない。とは言え、あの時から比べて随分成長したな」
「あっありがとうございます…」
「それに君を見るために随分観客が増えているな」
「えっ?」
私を見るために来てたの? いやいや、そんなことないでしょー。
「ランクスさんを見るために来たのでは?」
「私程度では観客は増えんよ。しいて言えばこの後にある暴風の試合を見るために来てるかもしれないな」
あー…。リン結構有名っぽいしなぁ…。
「だが試合ではそんなことはどうでもいい。しかし、首が鎧で隠れている私に【切断】スキルは効かない。君がどうするか見せてもらおう」
「おっお願いします」
話したいことを言い終わったのか、ランクスさんは開始位置に戻っていき盾と剣を構えた。
私も手の内を知られているので、不自然がないように刀を抜いて構える。
『それでは、試合開始っ!』
審判のタウロス君が宣言すると、ランクスさんは盾を前にして突っ込んできた。
「歌を歌わせる時間など与えん! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ランクスさんはAGIも上げているのか、思ったよりも動きが早かった。森を突っ切って私との距離をどんどん詰めてくる。
私は地面に手を付けて準備をする。何故私が分の悪い重武装の相手に対しても落ち着いていられたのか。確かに私の武器が刀と童歌、そして切断だけならば分が悪く、ジリ貧になっていただろう。
しかし、私にはまだ手札がある。そして運がいいことにここの地形は土だ。
「何もしないでやられるだけかっ! ならばそのまま大人しくしていろっ!」
もう私との距離は十メートルを切っている。そして数秒後には五メートルを切るだろう。しかし、私はその瞬間を狙う。
九…八…七…六…今だっ!
「『地形操作―穴!』」
私は前方五メートルにおよそ深さ五メートル程の深めの穴を作った。そしてランクスさんは勢いを止められないまま、私が作った穴へ落ちていく。
「うぁぁぁぁぁ!」
深さ自体はそこまで深くはないため、落下死することはないだろう。私はその穴を覗きこんで様子を見る。
「生きてますかー?」
「くっ…まさか落とし穴に引っかかるとは…」
「それでどうします? 降参します?」
「っふ…穴に落ちたぐらいで降参などせんよ」
「そうですか…」
私はついため息を付いてしまう。私としては降参してもらいたかったからだ。
「さぁどうする! このまま見ているだけか!」
「では…この穴の上から土被せて生き埋めにして窒息させますがいいですか?」
「はっ…?」
「ですから、この穴を埋めるために土を乗せるんですよ」
「いやっちょっと…」
まぁこっちの方法で納得してもらわないともう一つの方法を使わないといけないし、私としても目立ちそうで嫌だからできればこっちで納得してもらいたい。
「しかし…銀翼に所属している私の身としてはここで降参など…」
「あと十秒で決めてください。じゅー…」
「まっ待てっ! せめて三十秒っ!」
「きゅー…はちー…ななー…」
「くっ…私はどうすれば…」
「ろくー…ごー…よーん…」
「団長…すみません…」
「さーん…にー…いー「降参する!」…わかりました」
私はタウロス君の方を見る。タウロス君もランクスさんが偽りで降参したことではないと判断して宣言する。
『ランクス選手の降参により、アリス選手の勝利!』
宣言が出たので、地形操作で土を少しずつ落としていきランクスさんを穴から出させる。さすがに試合が終わったので、鎧を外してくれたおかげで引き揚げやすかった。
「服が少し汚れてしまってないか?」
「んー…そこまで気にならないので叩けば平気です」
「そうか…。しかしあのような手で来るとは思わなかった…」
「ランクスさんからしたら不満かもしれませんが…」
「いや、搦め手に対応できなかった私の実力不足が原因だ。この結果はきちんと受け止める」
「団長さんみたいですね」
「あの人ならもっとうまくやっただろう。私が未熟なだけだ。おそらく次は暴風だろうが頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
こうして私の第二回戦は終了した。とりあえずあんな勝ち方だったけどブーイングがなくてよかった…。
アリスの発想がどんどん怖くなっているのは気のせいだろうか…。




