【首狩り姫】①
※この話では、出血表現、残酷表現、ホラー要素がありますので苦手な方は注意してください。
私とリンは一旦ショーゴと分かれてB会場に向かった。B会場に着くと最初にいたA会場同様に、もう観客席は結構埋まっているように見えた。
「リンー空いてるところどこかないかなー?」
「ん~…回って探すしかないわねぇ~」
「アリス、リン。こっち」
どこかから聞き覚えのある声がしたので周りをキョロキョロと見渡してみると、ルカが席に座っていた。
「ルカも来てたんだね」
「んっ。でも予選負け」
「そっかぁー…」
「アリス予選突破すごい」
「それについてはリンのおかげだから何とも…」
「?」
私はルカに予選突破できた理由を説明すると、ルカは納得するように頷いた。
「アリス集団戦苦手そう。よく突破できたと思った。納得」
「ルカも私と一緒のブロックだったら突破させれたのにね~」
「だいじょぶ。最初からお試しのつもり」
まぁルカも目立つの苦手そうだもんね。とりあえず自分の実力を試してみたかったって感じかな?
っと、どうやら一試合目が始まるようだ。
『B会場にお越しの皆様、本会場の審判及び解説を担当させて頂きますタウロスとヴァルゴです。よろしくお願いします』
あっタウロス君とヴァルゴさんだー。とりあえず気づかないと思うけど手を振ってみる。
『ではまずはルール説明に移りたいと思います。ルールは至ってシンプル。この直径百メートル程のシンプルな土で出来た平らなフィールドでリングアウトなしのデスマッチです。もちろん降参は可能です』
デスマッチってことはHPが無くなるまでってことだよね? ある意味ボコボコにされるまで終わらない可能性もあるのか…。
『アイテムの持ち込みについては特に指定はありませんが、回復アイテムに関してのみ一試合にHP、MP含めた合計二十個のみとさせていただきます。それぞれ回復アイテムを合計二十個以上使用しようとしてもシステム的にブロックが掛かりますので、選手の皆様は計画的にご利用ください』
合計二十個までは使えるということはHPとMPの回復アイテムをバランスよく使わないといけないのかぁ…。私としてはMPが多めになりそうだから合計でありがたかったかな?
『これで説明は以上となります。では一試合目を開始しますので選手の方は準備をお願いします』
タウロス君は説明を終えて解説に移るそうだ。ヴァルゴさんは…まだ少しいじけているっぽいけどちゃんとタウロス君の隣で一緒に解説を行っているので大丈夫かな?
そんなこんなであっという間に私の出番である第四試合が目前となった。
「あうあう…」
「アリス~そんなに緊張しなくていいのよ~」
「アリス、だいじょぶ」
やっぱりこういう順番待ちって緊張するよー…。始まれば大丈夫なんだけどなぁ…。
『第三試合決着です! では次の第四試合の選手は準備してください』
おおぅっ!? 私の番だっ!
「じゃっじゃあ行ってくるっ!」
「頑張ってね~」
「ファイト」
私は二人に手を振って闘技場の中央のフィールドに向かった。距離的にはそこまで離れてないので二分もあれば中央のフィールドに出ることができた。
中に入ると既に対戦相手がいてこちらを見ていた。あれが対戦相手のケンヤって人かな? 見た感じ騎士っぽい装備だから近接タイプっぽいけど…。
『では選手が揃ったようなので選手の紹介をします。アリス選手とケンヤ選手です。皆様大きな拍手をお願いします。そして今回、ローテーションで各会場を回っている創造主が解説としていらっしゃいます』
『はははっ。ですが私がいるからといって緊張する必要はないですので、選手の皆様頑張ってください』
この紹介は前の試合でもやっていたので、きっとこれは全試合でやるんだろう。てか社長さんもいるのか…。注目とかされない…よね…? すると対戦相手がこちらに近づいて来た。
「初めまして。僕は青竜騎士団所属のケンヤだ。よろしく頼む」
「アリスです。こちらこそよろしくお願いします」
「それにしても君も可哀想な事をされたものだね」
「え?」
「君と同じEブロックのギルドメンバーに聞いたんだけど、暴風に庇われてそのまま本選に出場したそうじゃないか」
「そうですけど…」
「まったく…暴風もこんな可憐な少女を無理矢理激戦となる本選に進ませるとは…暴風もなんて酷いことをするんだ…」
なんかちょっとカチンと来た。何も知らないくせにリンの悪口言うなんて…。
「そんな君を一方的に攻撃するのは僕としても心苦しい。だから初撃は君に譲るとしよう」
「アリガトウゴザイマス」
「ではいい試合をしよう、アリスちゃん」
「ソウデスネ」
うん、そっちがそのつもりならこっちも全力で行くね。
『では選手同士も挨拶が済んだようなので試合を開始したいと思います。それでは…試合開始っ!』
私はアイテムボックスから苗木を取り出しフィールドに植えていく。対戦相手は剣を抜いてこちらを不思議そうに伺っているが、こちらを舐めて攻撃しないと言っているので思う存分植えさせてもらおう。
苗木を植えた数ももう既に三十を超え、彼の近くにも植えていった。観客も不思議そうに私の様子を見ているが、今のところ野次もないようで助かっている。
大体五分ぐらいでフィールドの各地に苗木を植え終わったので、私は手を叩いて手に付いた土を落とす。
「アリスちゃん、そろそろいいかな? 観客を待たせるのもあれだし攻撃しにおいで」
彼はまだ舐めたことを言っているので私も宣言してあげます。
「大丈夫です。もう攻撃はしてますよ」
「え?」
「…【急激成長】」
私が唱えると、植えた苗木たちがMPを吸い一気に成長し大木へと変化していった。そしてフィールド一面が森へと変化した。私は成長しようとした苗木の頭を掴んでそのままてっぺんへと上った。
「なっ!?」
「私のフィールドへようこそ。歓迎します」
じゃあ、これから狩りを始めよっか。
『これは驚いたなぁ…』
『創造主様…アリスが使ったのは一体…』
『あれは【促進】の派生スキルの【急激成長】だね。伐採や採取、栽培系を取っているプレイヤーが取るものだと思っていたんだが…まさか大会で見れるとは思わなかったよ』
やっぱり社長さんは知っていた感じだね。ってことは私が次にやるスキルもわかるんだよね。…まぁいっか。今は少し遠くで驚いている彼だ。私は一度深呼吸をして歌を歌う。
「通りゃんせ通りゃんせ♪こーこはどこの細道じゃ♪天神さーまの細道じゃ♪ちっと通して下しゃんせ♪御用のないもの通しゃせぬ♪この子の七つのお祝いに♪お札を納めにまいります♪行きはよいよい帰りはこわい♪こわいながらも通りゃんせ通りゃんせ…♪」
少し恥ずかしかったけど、歌わないと効果が発揮しないから仕方ないよね。歌っている最中彼を見たけど聞き入ってたようだし、ちゃんと効果が発動しているでしょう。
では次の段階に移るとしましょう。私はMPポーションを飲んでMPを回復させます。そして手を上に翳して魔法を唱えます。
「『ブラックカーテン』」
私が唱えると周囲が少し薄暗くなります。これは【漆黒魔法】の魔法で、周囲を暗くする効果がありますが、日中や光があたっている場所で使うと薄暗くなる程度なのですが、密閉空間で使うと真っ暗となって、暗視効果があるスキルを持ってないと見えなくなってしまうのです。もちろん展開中は少しずつMPを使いますが…。
今は日中で日があたっているので薄暗い程度だけど大木の根っこの方までは日の光は届いてないようで、ちゃんと暗くなっているのでよしとしましょう。
「暗くして攻撃するつもりだねっ! 掛かってきたまえ!」
まだ見当違いな事を言っているので追い打ちを掛けましょう。
「『ハートの女王、タルトつくった…♪』」
「え?」
「『夏の日、一日中かけて…♪ハートのジャック、タルト盗んだ…タルトを全部もってった…♪』」
「なっ何をっ!?」
「『Off with his head(この者の首を刎ねろ)…♪ Off with his head(この者の首を刎ねろ)…♪』」
さて、これで後は詰めるだけだね…♪ リンを馬鹿にしたこと許さないんだからね…。
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一体何が起こっているのかわからない。僕を遠くから見下ろしている少女が、不思議な国のアリスに出てくる歌を歌った瞬間、急に寒気を感じた。本当に何が起こっているんだ…。
すると彼女は急に移動をし始めた。それも僕に近づくんではなく遠ざかって行った。
「まっ待てっ!」
僕は彼女を追いかけるために、擬似的に作られた森の中を走った。
しかし、少し走ったところで彼女を見失った。こんな限られた広さのフィールドで見失うなんておかしい…。しかし、探さない事には近接武器しかない僕にはどうしようもないため彼女を探すために森の中を歩く。
グシャッ。
「ん?」
何か踏んだのかな? 僕はアイテムボックスにある松明で足元を照らす。
「ひっ!?」
そこにあったのは頭だけで切断面から血を流している狼の死体だった。僕は狼の頭を踏みつけていたのだ。僕はその足を咄嗟に退かす。
「ふふっ…」
すると彼女の声が森の中に山彦のように響いた。僕は周りを見渡すが彼女の姿は見えない。
ポタッポタッ。
今度は右側から何かが垂れる音がしたので、その音の元へと近づいて松明を翳して僕は驚愕した。
「なっなんだよこれ…」
今度は木に逆さに吊るされた首のない狼の死体だった。もう意味が分からない。そしてまた彼女の笑い声が森に響く。
「うぁあああああああああああああっ!?」
そして僕は遂に我を忘れて叫びだしてしまった。そして僕はがむしゃらで森の中を走った。少し走ると壁際に着いたので、僕は土壁を背に武器を構えた。
「どっどこからでもかかっ掛かってこいっ!」
膝がガクガクと笑っているが、こんな意味が分からない戦闘なんて初めてなんだからしょうがないと僕は自分に言い聞かせた。しかし、彼女は現れることなくただ笑い声が響いてくるのみだった。
そしてまた彼女の歌が聞こえ始めた。
「『かーごめかーごめ…♪』」
今度はかごめかごめかよっ…。
「『籠の中の鳥は…♪』」
僕は一気に警戒を高める。冷や汗が止まらず、心臓も張りきれんばかりになっているだろう。
「『いーつーいーつー出ーやる…♪』」
その瞬間、左側にあった大木から彼女の声が聞こえた。僕は咄嗟に右側の木へと背中を預けて左側の大木周辺を警戒する。
「『夜明けの晩に鶴と亀がすーべったー…♪』」
以前として左側の大木方向から声が響いている。僕は武器を構えたまま、いつでも対応できるように警戒を続ける。そして…。
「『後ろの正面だぁーあれ…♪?』」
その声は突然、僕が背中を預けている真後ろの大木から囁くように聞こえた。咄嗟に僕は後ろに振り返ってそのまま刀を横に振った。
「なっ!?」
しかし、そこには誰もいなかった。その瞬間、僕の視界がゆっくりと回転していることに気が付く。そして頭が回転して後ろを向いた僕の目が最後にみたのは、刀を抜いて冷たい目をしてこちらを見下ろしている着物を着た少女の姿だった。
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「ふぅ…」
私は刀に着いた血を払い落として刀を鞘にしまった。彼の死体は【狩人】スキルの影響で残ったままだけど、まぁ運営がたぶん死体は消してくれるでしょ。でも問題は苗木を予想以上に使っちゃったことだなぁ…。フィールドリセットされたら二回戦足りるかなぁ…。
『……ッ』
『タウロス、試合終了の宣言を』
『はっはいっ! しっ試合終了! 勝者! アリス選手!』
あれ? 第三試合まではあった拍手がない? どうかしたのかな? まぁいいや、戻ろっと。
私はさっさと観客席へ戻るためにフィールドの入り口に向かった。
『いやぁ、なかなか衝撃的だったねぇ』
『さすがの私もびっくりしましたよ…アリス様があんな戦闘をするとは…』
『アリス怖いアリス怖い…』
『まぁヴァルゴは置いといて…創造主、今の試合の解説をよかったらお願いします』
『そうだねー…。まずアリス選手が使ったスキルについてはわかったかい?』
『辛うじて【童謡】の派生スキルである【童歌】ということまではわかりましたが…』
『そうだね。でも私も最後のアクションについてはわからなかったよ』
『創造主でもわからないのですか?』
『スキルを全て私が管理している訳ではないからね。知らないのだってあるさ。さて、この試合だけの解説をしててもいけないから次の試合に移ろうか』
『そっそうですね。では第五試合に移りたいと思います。ですが…フィールドについてはこのように変化するとは私たちも思ってなかったため、地面の損傷を直す程度しかできません。申し訳ありませんが試合はそのまま擬似的な森で試合を行います…。では第五試合の選手は準備してください』
なんでVRゲームジャンルでホラー注意と書くことになるんですかねぇ…。(困惑
そして44話にこの話が来たことは偶然なのだろうか必然なのだろうか…。
4(死)が二つで死神(し(4)に(2)がみ)ということでアリスを表現しているのだろうか…?
そして次は間隔が短いですが掲示板回になりそうです。




