沼地の向こう側へ③
「んー…」
「アリス、どうしたの?」
「この沼地でウィルたち鍛えようかと思ったんだけど、いまいち良いのが思い浮かばなくて」
「確かに。この沼地で厄介なのは足場の不安定さと濃霧。それがないとただの歩きにくい地形なだけ」
そこなんだよね。
結局地形妨害が無くなってしまえば、沼地のモンスター自体はそこまで脅威ではない部分がある。
一応【霧魔法】を使ってくるモンスターもいるけど、レイドボス程濃い霧ではないためそこまで見えにくいということではない。
「…いっその事泥の中に埋めて戦わせる?」
「お姉様…それは流石にちょっと…」
「クオもいるし、さすがに可哀想」
「やっぱり?」
ウィルたち男の子はともかく、クオは女の子だし泥まみれは嫌だよね。
「い、いや…師匠…別に俺たちは特訓とかはいいから…」
戦闘から戻ってきたウィルたちが顔を引き攣りながら私をなだめるように話し出す。
そのウィルの後ろで他の五人も首を縦に振って大丈夫アピールをしている。
「別に遠慮しなくていいよ? ウィルたちも色んな場所で練習したいでしょ?」
「いや…俺らは俺らのペースでやるから…その…」
「ペース…」
私はくるっと後ろを向いてルカと海花に尋ねる。
「そんなにペース早かったかな?」
「大体こんなもん」
「えーっと…まぁ…攻略組に比べるとスローペースですかね…?」
「だってさ」
「いやいやそれはおかしいって!? 俺らようやく王都到着で、その周辺で慣らしながらレベル上げるぐらいなんだよ!?」
「ウィルたちって結構のんびりやってるの?」
「師匠たちがハイペースなだけだからな!?」
そこまでハイペースでやってたっけなぁ…?
「あの姉さん…俺らそんな姉さんたちみたいにPSあるわけじゃないから…」
「そこらにいる普通の中学生だし…」
「てか鍛えられたウィルがおかしいだけだし…」
「姉さんたちの特訓ってやっぱり改造かなんかなんですか…?」
ウィルの同級生たち四人から若干引かれてしまった。
いや…そこまで変な事はしてないはずなんだけど…。
そんな中、恐る恐る近付いてきたクオが私の服の裾を引っ張る。
「クオ、どうしたの?」
「やっぱり…ウィルって改造されちゃったの…?」
「いや…してないよ…?」
「だって…普通の中学生はウィルみたいな超反射しないって皆言ってるし…」
そんな泣きそうな顔で言われても…。
てかウィルの超反射は【制空】スキルの効果だろうし…。
でもここまで訓練を嫌がられているのに無理やりさせても逆効果だよね…。
「わかった、ウィルたちがそこまで言うなら特訓はやめよっか」
「よしっ!」
ウィル?
そんなに特訓嫌だったの…?
「アリスお姉ちゃーん」
「んっ? って飛鳥ちゃん…何でそんな泥まみれに…」
ウィルたちの回復を終え、先を進んでいると後ろから飛鳥ちゃんと護衛をしていた首狩り教の人たちが近付いてきた。
ただ、飛鳥ちゃんがところどころ泥まみれになって…。
「どっかーんってやってたら泥一杯被っちゃった」
「もう…レヴィ、お願い」
「キュゥ!」
レヴィが口から水を吐きだし飛鳥ちゃんに付いた泥を洗い流していく。
「アリス、待った!」
「「えっ?」」
それを見たルカが慌てて飛鳥ちゃんに毛布を被せる。
一体どうしたんだろ?
「飛鳥、女の子なんだからそこら辺は注意する」
「??」
「えーっと…?」
「あの…お姉様…?」
「何?」
「さすがに男性が周りにこれほどいる中で水浸しの女性を晒すのはどうかと…」
「でも服着てるし…」
「……」
私が答えると海花はショーゴの方を向いて口をパクパクとさせる。
それをショーゴが呆れたように答える。
「あー…アリスにそこら辺の事は諦めろ。俺らも言ってんだけど一向に直らん…。もう服を着てるだけマシって思っとけ」
「そういう事ではないでしょうが!」
「いや、だってよぉ…」
「だってもこうもありません! お姉様の濡れたお姿など見せていいわけないでしょう!」
「あっ私もちょっと泥付いてた。レヴィ、お願い」
「おっお姉様ぁぁぁぁ!?」
「いいですかお姉様? お姉様も女性…有名プレイヤーなのですからあまりモラルを欠く行為は避けてください」
「モラル…?」
「あっえーっとその…お姉様の真似をするようなプレイヤーも出てきたりするので、皆の手本になるようにいしないといけないのです。ですので汚れを落とすにしても、人目を隠れて落とす様にしてください」
「んーまぁ海花がそこまで言うなら…」
別に服着てるしそこまで気にしないでもいいと思うんだけどなぁ…。
でも海花がこんなに言うんだし気を付けるようにしよう。
そういえばリンも良く身だしなみに注意しろって言ってたけど…海花が言ったのとはまた別だよね?
ちゃんと服がしわにならないようにしたりしてるし、髪とかもちゃんとしてるし。
まぁ何故かそれを何度も言うのだから、よっぽど私の身だしなみはちゃんとできていないんだろう。
きちんとしてるつもりなんだけどなぁ…。
「飛鳥も気を付ける」
「はーい?」
「そっちもアリスと同じ感じか…。全く師弟揃って…」
「ん、苦労しそう」
その後、特に大きな出来事はなく沼地を抜けることができ、再び緑豊かな草原が広がった街道へと出ることができた。
「掲示板情報によりますと、沼地を抜けて一時間程進めば街が見えてくるようです。モンスターも沼地の影響か、こちら側には然程いないようですし、強さも王都周辺と変わらないとのことです」
「なら問題ないかな? 私たち以外にも人いるし、滅多な事は起こらないよね?」
「おいアリス、それはフラグだ」
「まぁいざとなったら対処するだけ」
「ですわね」
「飛鳥も頑張るー」
「ホント頼もしい事で…」
まぁ首狩り教もいるし、突発的なレイド戦にも対応できるでしょ。
それよりも次の街はどんな街か楽しみだなー。
美味しい物売ってるといいなー。
大変遅くなりました。




