契約
まぁ普通は序盤にこんなのがいたら驚きますよね。
「んっ…」
意識を取り戻した私が目にしたのは眩いお日様の光で、起きたばかりの私の意識を無理矢理覚醒させようとしてくる。
咄嗟に手で目を庇い、日の光を遮るがあまり効果がなかった。諦めた私はその手を地面に降ろしてため息をついた。
「どうして寝てたんだっけ…?」
えーっと……確か…湖に来て…なんだっけ…? 湖に来てからの記憶が全くない。ホントに何があったんだっけ…。
「んんーっ」
とりあえず背伸びをしてみて身体も起こさないと…。私は働いていない頭で腕を伸ばして背伸びをしてみる。そして終わった後手をぐでんっと降ろした時にコツンっと何かに当たった。
「ん?」
気になった私は寝ぼけながらも後ろを向くと、何やら青くて硬いものがあった。なんだろう? と思ってコンコンとノックをするように叩いてみるが特に反応はない。
「??」
段々目が覚めてきた私は、その青くて硬いものをとりあえずゆすったり持ち上げてみようとしたが、とても重くて動きそうがありませんでした。
そして背後の青くて硬いものが私の周囲を囲むようにある事に気づいて、それを目で追って正面を向いてみるとそこには…。
「なっ……」
少し離れた湖に青い鱗に覆われた大きなドラゴンがいました。
「そっそうだ…私は…」
熊や狼の死体をあのドラゴンにやってて…。
「あわわわわっ」
全てを思い出して私は慌てて逃げようとしますが、腰が抜けて動けません。すると青いドラゴンが起きたのか金色の瞳がこちらを見つめます。
「わっ私なんか食べてもおおおお美味しくないよぉぉぉぉぉ」
テンパっている私はもはや何を言ってるのかわかっていません。なんでこんなゲーム開始地点の近くにこんなのがいるのかや、何で急に繭から飛び出してきたのかなど、そう言った事を考える余裕なんてありません。
慌ててる私とは別に、青いドラゴンは私をじっと見ています。
私は何を思ったのか、咄嗟に青いドラゴンに向けて【鑑定】を行いました。そして出てきたステータスは今の私の驚き具合を更に悪化させるものでした。
名前:********
―ステータス―
【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】
特殊スキル
【********】【********】
名前もスキルも全部隠れています…。私の【鑑定】のスキルレベルが低いのが原因か…それともステータスを隠すスキル持ちなのかはわかりませんが、所持スキルが十三個の上に特殊スキルまであります。
「あわわっ…」
相手もこちらが【鑑定】をしたことに気付いたのか、その大きな巨体に合う大きな顔を近づけてきました。
食われるっ!? そう思った私は、咄嗟に目を閉じました。青いドラゴンは目を閉じてる私に優しく当たってきます。そのせいでより身体も震えて変な汗も出てる感じですが、流石にこの状況で平然とはできません。
しかし、いつまで経っても食べられる様子もなく、恐る恐る目を開いてみると、私に頭を付けたままじっとしている姿がありました。
私は何故かその姿が甘えているように見えたので、ついその肌をゆっくりと擦っていました。
「GYUUU…」
私が青いドラゴンの肌を擦ると気持ちよさそうに唸り声を上げます。ちょっと可愛いかも、と思ってしまう私は少しずれているんだなと思いますが、機嫌が悪くなるよりはいいんじゃないかなと思って青いドラゴンの肌を擦り続けます。
しばらく撫でていると青いドラゴンは満足したのかゆっくりと頭を上げます。そしてまた私の事をじっと見つめています。するといつものINFOではなく、頭の中に直接声が届いてきました。
『―――――が契約を求めています』
えっと…契約…? 私は周りをキョロキョロと見渡しますが、この近くにいるのは私と青いドラゴンさんだけです。ということはつまり…?
「あなたが私と契約したいの…?」
「GYUUU!」
青いドラゴンは私が問うと頷きました。…まじですか…。こんな大きな子と契約して私のNWOライフは大丈夫なのでしょうか…? これがもし誰かにばれたら質問責めにされるのは確実です…。そもそも契約ってどうやってやるんだろう…? でも契約ってことは相手の名前を知らないといけないんだよね? 名前隠れて見えなかったけどどうすればいいんだろ…。
そう私が悩んでいると青いドラゴンさんは少し首を傾げた後、何かを察したのか一瞬その巨体が光った。その様子を私はポカーンと見ていたが、青いドラゴンさんが何回か唸ったので【鑑定】を行ってみた。すると前回とは違って名前がきちんと表示された。
名前:大海魔 リヴァイアサン
―ステータス―
【********】【********】【********】【********】【********】【********】【********】【高度隠蔽】【********】【********】【********】【********】【********】
特殊スキル
【********】【********】
……ん? 気のせいかな? 私にはリヴァイアサンって見えるんだけど。ちょっと待って? リヴァイアサンってあれだよね? とっても強くてどこぞの大ボス扱いされている幻獣だよね? それがなんでこんな場所にいるのかな? ふー…まずは落ち着こう。冷静になろう。そもそもこの子のような大ボスが初期に見つかるはずはない。ということはきっとなんかのバグかミスなんだ。よし、まずは運営に問い合わせだ。いや、いっそのことGMコールをしよう。そうすればすぐに対応してくれるはずだ。善は急げということで私はGMコールをした。
『はい、こちら運営スタッフです。どういたしましたか?』
『あのー…。今最初の街からそこまで離れてないクラー湖というところにいるんですけれども、そこで本来いそうにないモンスターに出会ってしまったんですけれども…これって不具合とかではないと思ってGMコールしたのですが…』
『分かりました。では内容としては「モンスターの配置の不具合もしくはミス」ということですね? しばらくお待ちください』
そう言われたのでしばらく待つこととした。その間、リヴァイアサンは私に顔を近づけて頬ずりをしている。ホントに懐いたなぁ…。
『お待たせいたしました』
『あっ大丈夫です。それでどうでした?』
『確認いたしましたところ、特に配置のミスなどではないとのことですのでご安心ください』
『…え…?』
『ではまた何かありましたらお問い合わせ、もしくは緊急性の場合はGMコールをご利用ください』
『えっあっちょっ!?』
切られてしまった…。おそらく運営も忙しいのだろう…。しかし…。
「ミスではないということは、この子がここにいるのは仕様ということだよね…?」
私はリヴァイアサンの肌を撫でながら呟く。
「……どうしよう…」
「GYUUU?」
でもここでなかったことにして逃げ出しちゃったら、ここに住んでいるイカグモさんたちが困るよね…? んー…。
「GYUU…?」
「あぁごめんね…?」
リヴァイアサンは不安そうに私にすり寄ってくる。この子も不安なんだよね…。
「…よし!」
覚悟を決めよう。この子をこのまま放置するのはイカグモさんのためだけじゃなく、私の心情的にも嫌だ。だから契約してこの子をここから出してあげよう。
私はリヴァイアサンを撫でるのをやめて、一歩下がり一度息を整えてじっとその金色の瞳を見つめた。
「リヴァイアサン、私と契約してくれる?」
「GYUUU!」
リヴァイアサンも私が真剣に話てんのを理解し、じっとこちらを見つめている。
すると、私とリヴァイアサンを囲むように地面に青い魔方陣が出現した。そしてさっきと同様に頭の中に直接声が届いた。
『リヴァイアサンと契約を行います。契約内容を決めてください』
契約内容は私が決める感じなのかな? リヴァイアサンはじっと私のことを見つめているし…。
「契約と言っても、私はあなたをそこまで縛りたくはない。自由とまではいかないけど好きに動いてほしいって思ってる。そのためには人に迷惑を掛けないのが大事だと思うの。だから街の住人たちに迷惑を掛けない、これを守ってもらいたい約束…契約の一つ目にするね」
その内容にリヴァイアサンも不満はないようで安心した。でも、これはどうしても守ってほしかったから契約に入れた。
「次に、私の身より自分の身を守ってほしい。これが二つ目の契約」
あと何かをお願いすることもあるけど、お願いを聞くかはあなたが決めてね? と付け加えたが、この契約にリヴァイアサンは不思議に思って首を傾げた。でも私はこの契約でいいと思ってる。私は倒されても復活することができる。でも、リヴァイアサンはもし倒されてしまったら生き返らないかもしれない。私はそんなお別れは嫌なのでこれを契約に入れた。
「そして最後になるけど…」
こんなのを入れていいかは悩んだけど、私にとってこれはとても大事な事だと思ってる。だからこれを最後の契約とする。
「私の大切な人たちが悪意で危害を加えられそうになったら力を貸してほしいの」
自己犠牲とかそういうのだと思われても仕方ないと思う。でも私は大切な人たちが悪意で傷つくのは嫌だから…。そんなことになったら私はきっと…。ううん…。考えないでおこう…。考えればそんなことになってしまう気がするし…。
「少し変わった契約だけどいいかな?」
「GYUUUUUU!」
「そういえばあなたの契約の対価はどうすればいいかな?」
こちらが一方的に契約を交わしといてあちらの要求を聞いてなかった…。でもどうしよう…。これで腕や足を寄越せーとか言われたら…。
と思っていたら、リヴァイアサンは口を開けて噛む仕草と湖の中に顔を突っ込む仕草を繰り返した。私はその仕草を考えてみた。
「えっと…食べる…水の中に顔を入れる…。…もしかして食事?」
「GYUU!」
リヴァイアサンは頷くので、契約の対価は食事ってことでいいのかな? …そんなんでいいのかな? まぁこの巨体の食べる量となれば一杯必要だからいいのかな?
「では私、アリスがあなた―リヴァイアサンと契約を結びます」
「GYUUU!」
すると魔方陣の光が強くなっていき、また声が届きました。
『契約するにしたがって契約する幻獣の名前を決めてください』
いきなり言われても…。リヴァイアサンだから…リヴァ…は安直すぎるし…。
「そういえば…」
リヴァイアサンって別名でレヴィアタンって言うよね? ならこの子の名前は…。
「あなたの名前はこれから『レヴィ』だよ」
「GYUUUUU!」
レヴィも了承したのか、魔方陣は眩い光を放ち、しばらくすると魔方陣の跡は跡形もなく消えていた。
そしていつの間にか私の手の平に青い宝石が収まっていた。
レヴィの召喚石【非売品】
契約者:アリス
このアイテムは売ることが出来ず、また奪われる事も壊れる事もない。
おぉぅ。つまり無くさない大事な物扱いということなのか。まぁこのままこの中にいたんじゃ可哀想だし出そっと。
「おいで、レヴィ」
私がそう口にすると、先程までの大きな図体…ではなく、随分と小さくなった蛇が現れた。
「キュゥゥゥ」
「………レヴィ?」
「キュゥゥ!」
一体何がどうしたの…。
そろそろ一ヶ月経ちますが、なんだかんだで毎日更新続けられてます!
今後も頑張ります!
2016/7/31 リヴァイアサンのスキルの数が一つ足りなかったので修正しました。それに伴い台詞の修正を行いました。




