【敗北者】⑤
「それで、どこに向かいますか?」
「あっ」
そういえば例のPKが出現する場所、私は全く知らないんだった。
「トアさんはどの辺で襲われたの?」
「私はイジャードの北にある綿花を取り行った帰りですね。ですが調べたところ、出現地域はバラバラですね。とは言っても、大体はエアスト周辺かイジャード周辺がほとんどのようですが」
「じゃあどっちかで張り込みかなぁ?」
「顔を見たのは私だけですし、二手に分かれてもお嬢様の方にいてもわかりませんし、一緒に行動するとしましょうか」
「そうだね」
確かに私はそのPKの顔を知らないから、もしすれ違っても気付かない可能性が高い。
だったら顔を知っているトアさんに一緒にいてもらった方がいいだろう。
さて、ではどっちで張り込みをするか。
「んーいないなぁー…」
「まぁそんな簡単に見つかるとは思ってはいませんが、まさか木の上で張り込みをするとは思っていませんでした」
いやだって地上で張り込みしてるより気付かれにくいと思うし、まさかプレイヤーがイジャードの南西方向にある木の上で待機しているなんて誰も思わないじゃん?
「一応認識阻害のお面も被ってるし、だいぶ気付かれにくくはなってると思うし」
「私はそのお面を持っていないので普段と変わりませんが…。まぁ【隠密】は持っているのであまり関係ないですが」
「…トアさんってメイドなんだよね?」
「はい」
「メイドに【隠密】スキルって必要あるかな?」
「あります」
「そ、そう…」
おかしいなぁ…私の認識が間違っているのかとすら思えてくる…。
「でも掲示板の方も昨日から情報上がってないね」
「もしかしたらもうNWOを辞めたのかもしれませんね。ですがその場合張り込みをやめるタイミングというのがわかりませんね」
「あー…それは確かに…」
申告制でもないのだから、誰がいつ辞めたなどわかるはずもない。
そうなるとこちらとしてもいつまで張り込みをしていればいいかの判断が付かないため、割と困る問題だ。
「そういえば無効化スキルについては何か書いてあるかな?」
「お嬢様もそう思うと思い、調べておきました。ただ…」
「ただ?」
「少し気になる書き込みがありまして…」
「どんなの?」
「はい、無効化スキルという部分は一緒なのですが、剣でも魔法でも肉体的な攻撃でも全て無効化されたという書き込みがありまして…」
んっ?
例のPKの場合だとトドメの攻撃が剣だと防がれるけど【火魔法】や飛び道具は防げなかったっていう話だよね?
それとは違う無効化スキルなのかな?
でもそんなに連続して無効化スキルが見つかるものかな?
「何か気になりますね…」
「そうだね。でも掲示板に書かれることが全部真実ってわけじゃないんだよね?」
ショーゴに言われた事だけど、やっぱり嘘を書く人もいるらしいから、こういうのは正確な情報をきちんと取捨選択するのが大事って言ってた。
「お嬢様のおっしゃる通りですね。確かにその書き込みも少し大きく盛った話なのかもしれませんね」
「とはいえ、どれも嘘って思ったら大変だし、そういうのもあるかもしれないぐらいでいいかもね」
「はい」
トアさんにはこうは言ったが、もし本当にそれらを無効化するようなスキルがあるとしたら大抵の人は対処できないだろう。
まぁ私の場合は色々と手があるので何とか対処できそうだけど…。
結局この日はお目当てのPKは見つけられず、仕方なくログアウトする事にした。
翌日、今度はエアストの方で張り込みをする事にした。
時間も学生だろうということで夜にしているし、時間が合わないという事はないだろう。
「よくよく考えればエアストの西の森の方がプレイヤーを襲うには都合がいいですし、最初からこちらで張り込みすればよかったですね」
「うん、実は昨日の途中から思ったけど言うと虚しくなるからやめよ?」
「ですね」
「それでフェイト、何か異変は見つかった?」
「んー…虫使って周辺見てるけど、特にそういった異変はないわね。確かにプレイヤーはぼちぼちいるけど」
森では視界は悪くなるので、フェイトに虫を使った偵察を任せている。
フェイトに掛かればこの程度朝飯前ぐらいに簡単な事なので、正直頼もしい。
「お姉ちゃんの話から、そいつは一人っていうから特に一人のを見てるけど、本当にこれといった異常はないわ」
「認識阻害とかで隠れてるとかはないかな?」
「私もそう思って隠れてそうな部分を通過させてるけど、何にも当たらないで通り抜けてるからそう言う事はないと思うわ」
「って事は今日はこの森にはいないって事かな? トアさんの方はどう?」
「はい、掲示板の方も特に変わったところはないですね。ですが昨日話した無効化スキルについて別の人っぽいのも書き込みをしているのですよね、今度は斧と槍と投擲武器の三種類ですね」
んー今度は全部物理的な攻撃かぁ。
全て真実だとすると、昨日のを含めて剣、斧、槍、体術、火、投擲の六つを無効化って言う事か。
「まさか本当にそんな数の無効化が可能なのでしょうか?」
「不正なものがこの世界で通用するとは思わないけど、これが本当だとしたら流石にただごとじゃないと思うなぁ」
少し空気が重くなってきた時、フェイトが「あっ!」と声を漏らす。
「お姉ちゃん見つけた! 一人でトアさんが言ってた特徴に似ていた人!」
「フェイト、案内して!」
私はフェイトを抱え、案内に従いその場所へと向かう。
「…うん、やっぱり話を聞いた通り、やられそうになってたけど、攻撃を無効化してる!」
「という事はビンゴですね」
「そうだね」
さてまずは話を聞いてもらわないとね。
さてそろそろ締めに入らねば…




