嫉妬VS神の光⑦
「ひっぐ…ひっぐ…」
散々お父さんに説教されたウリエルは泣きながら正坐をしている。
お父さんもお父さんでそれを止めさせる気はないのか、横に立って威圧感を出したままである。
「えーっと…ウリエルのお父さんって結構頑固…?」
「『あいつは融通が利かないからな。反省させると決めたらとことん反省させる。全くもって面倒なやつだ』」
そう言ってレヴィのお父さんは大きなため息をつく。
昔一体何があったのだろうか…。
「『さて、ようやく落ち着いて話せるようだな。【嫉妬】の子の契約者よ』」
「そっそうですね…」
あなたの娘のガチ泣きを見ているこちら側としては落ち着かないんですが…。
「『それにしても…』」
「なっなんですか…?」
ウリエルのお父さんは私をじっと見つめる。
「『見た目は普通の異邦人のようだが…よく【嫉妬】の子と契約できたものだ』」
「レヴィとの契約ですか? そんな大したことはしてないよね?」
「キュゥ!」
やったことって言ったら餌あげてイカグモさんの巣から出してあげたぐらいだし。
「『そもそも我ら美徳もだが、大罪と契約するにはある程度の素質が求められる』」
「という事は誰でも契約できるわけではないって事ですか?」
「『当たり前であろう。大罪はともかく、我ら美徳は認めた者でなければそもそも姿を現さぬ』」
「『はっ! 我ら大罪も同様だ。興味を持たぬ者と契約なんぞせんわ! その点この娘は興味が尽きぬぞ。行き詰まったにも関わらず我の誘惑を拒んだからのぉ』」
「『ほう』」
レヴィのお父さんの発言に関心したのか、ウリエルのお父さんが私を見る目が少し変わった気がする。
「『つまり貴様が住処を現した切っ掛けはこの娘という事か』」
「『そうだ。住処については…まぁ盟約であるからな、不可抗力というものだ。ハッハッハ』」
「『そう威張る事ではないがな。ただ我も口が滑ったのが悪いのだがな』」
「……」
正直話についていけなくて置いてきぼり感が凄い…。
「ぐすっ…ぐすっ…」
とりあえず未だに泣いているウリエルに近付き、頭を撫でる。
「なによぉ…ひっぐ…」
「えっと…大丈夫…?」
「だいじょうぶじゃないわよぉ~…ひっぐ…」
まぁそうだよね…。
って、そういえば。
「ねぇ、私が見つからなかったらどうやって私を探すつもりだったの?」
「ぐすっ…適当な人間…というより異邦人を探して一緒に探そうと思ったけど…。って言ってもある程度素質を持ったのをだけど…」
「その素質ってどんなの?」
「えっと…まず人に優しくできるってのが大事ね」
うんうん、まぁ天使なのだから悪性より善性の人に惹かれるよね。
「あとは人…悪魔探しって事になるからそういうのにちゃんと付き合ってくれる人で…。でもそれだけじゃつまらないからちゃんと話し相手にもなってくれる人で…。なんだかんだ面倒見が良い人がいいなぁ…なんて…」
…なんだろう、ふとショーゴが思いついたんだけど…。
ショーゴって結構面倒見が良くて話し相手にもなってくれるし、買い物とかにも付き合ってくれるし…。
……。
「それでその人と一緒に探してて私を見つけたらどうしたの?」
「えっ? それは勿論一緒に戦ってもらうわ。それでうまく倒せたらその人と契約をしてもいいかなーって…。まぁ倒せなかったとしても契約ぐらいはしてあげてもいいかなーって思わなくもないけど…」
…って事は可能性的にはウリエルを連れたショーゴと戦ってたってこともあったのか。
うん、気まずさしかない!
でも今の話し的にウリエルをペットにするイベントという事なんだよね…?
…すいませんそのイベントぶっ潰してしまいました…。
となると、今後大罪と契約した人が出てきたらそれ毎に美徳との契約イベントが出るって事なのかな?
うーん…。
これはリーネさん辺りに相談した方がいいよね…。
今回の場合だとウリエルと同行する人がいないからそういう契約チャンスがないもんね…。
今後そういう事起こったら大変だし…。
「まぁとりあえず、もうこんな事はやめてね?」
「わかってるわよぉ…。天界に戻ったら他の子にもちゃんと言うわよぉ…」
「『我が娘よ、何を言っている。お前は迷惑を掛けた詫びとしてそこの【嫉妬】の契約者に同行せよ』」
「「へっ?」」
突然のウリエルのお父さんの発言に、私とウリエルは声を合わせてきょとんとした声を出す。
「『まさか何も詫びずに天界へと戻るわけがないだろうな?』」
「もっもももももちろんです!」
「『ならば迷惑を掛けたそこの契約者に同行しろ。それが詫びというものだ』」
「えーっとお父様…? 他の異邦人との契約では…」
「『……』」
「あはは…ダメなんですね…」
ウリエルのか細い声の提案にウリエルのお父さんはギロっと一睨みする。
その視線で諦めたのか、ウリエルはガクンと頭を下げる。
「『だがいいのか? 大罪と美徳が同時に契約するなど聞いた事がないぞ。しかも対同士が』」
「『大罪を見張るのは美徳の務め。ならばその務めを果たす者が傍にいる方がよかろう。それに初めてやることは全て前例となる。問題なかろう』」
「えーっと…親同士で勝手に話を進められていますが…その契約者となる私の意見は…」
「「『何か気に食わぬのか?』」」
「あぁ…却下なんですね…」
ダメだこりゃ…。
(半ば強制的に)私と契約する事になったウリエルは私から見てもかなり落ち込んでいるように見える。
「まさか大罪の契約者と契約する事になるなんて…。他の子に知られたらきっと笑われるんだわ…。四人はともかく、絶対ミカエルとサンダルフォンには呆れられちゃう…。友達辞めるなんて言われたらどうしよう…」
ウリエルの言う四人のうち二人は恐らくラファエルとガブリエルだろう。
だけど残り三人の内、サンダルフォン以外がわからないなぁ。
ちょっとウリエルのお父さんに聞いてみようかな。
「あの、少しいいですか?」
「『なんだ?』」
「美徳ってどの天使が対応してるとか教えてもらえたりってできるんですか?」
「『その程度なら教えても構わない』」
ウリエルのお父さんの説明では、【謙譲】をミカエル、【節制】をラグエル、【勤勉】をサンダルフォン、【慈悲】をガブリエル、【救恤】をラファエル、【純潔】をメタトロン、そして【忍耐】をウリエルが対応しているらしい。
そしてミカエルは美徳の長の立場らしい。
それを聞いて先程のウリエルの落ち込み具合を理解した。
まぁ長の子ならそういう事厳しそうだし、【勤勉】の子って事はそういう規則に厳しいだろう。
「『ちなみに大罪の長は【傲慢】を司っているルシファーだぞ』」
「あっそれは大体想像がついてました」
「『……』」
いや…美徳はともかく大罪は結構有名だから…。
そんなしょぼんとしなくても…。
「『では契約に移るとしよう』」
そう言ってウリエルのお父さんは私とウリエルを囲むように魔法陣を展開させる。
「『大罪との契約を行っている契約者は経験があると思うが、美徳との契約は大罪と違い対価を求めない。代わりに美徳の力を使用させるためには徳が必要となる』」
「徳、ですか?」
「『大罪が代償を力に変えるように、美徳は徳を力と変える。故に善行を忘れるな』」
「わかりました」
本来であればウリエル自身が契約を行うからもう少し制限とかが軽いのかもしれない。
だが今回に至ってはお父さんが直接行っている分、色々と制限が掛かると思えばいいだろう。
しかし徳かぁ…。
どんな事やればいいんだろ?
そんな事を考えている間に契約は進み、次第に魔法陣の光が消失していく。
「『これにて契約完了だ』」
魔法陣が完全に消えたのを確認し、私は契約したばかりのウリエルに対して【鑑定士】を使う。
名前:未設定(見習い天使ウリエル)【封印状態】
―ステータス―
【剣】【大地魔法】【白銀魔法】【聖魔法】【封印中】【飛行】【環境適応】【HP上昇+(弱体化)】【MP上昇+(弱体化)】【封印中】
特殊スキル
【封印中】【封印中】【監視】【預言】【封印中】
結構封印されてるね。
レヴィが確か封印中が4つに弱体化が3つ。
それに対してウリエルは封印中が5つに弱体化が2つ。
しかも特殊スキルが主なウリエルの5つのスキルの内3つが封印されている。
これもお父さんからの罰ってところなのかな?
「『さて、これで契約はなった。あとは我が娘の名を決めれば契約は完全となる』」
「名前かぁ…」
何にしようかなぁ…。
「ウリエルはどういうのがいい?」
「それより私のスキル結構封印されているんだけど!?」
「まぁそこは…諦めよ?」
「うぅっ…」
でもどうせならウリエルから取りたいよね。
ウリエ…はわかりやすすぎるか。
ならウは外して残り三文字から作ろう。
逆から読んでルエリ…それともそのまま読んでリエル…。
それともリエ、エル?
もしくはリル…ルリ…んー…。
私は緊急ペット会議を行い、皆でウリエルの名前を考えることにした。
その結果…。
「会議の結果、あなたの名前はこれから『リエル』だよ」
「そう。まぁ契約が成った以上これからあなたが私の主なんだからね。不本意だけど…」
そう言ってウリエルは光に包まれ、私の手元に褐色の宝石が現れる。
リエルの召喚石【非売品】
契約者:アリス
このアイテムは売ることが出来ず、また奪われる事も壊れる事もない。
どうやらちゃんとできたようだ。
私はすぐさまリエルを呼び出す。
「ふぅ…」
「『さて、では我らは住処に帰るとしよう。我が娘よ、きちんと反省するのだぞ』」
「わっわかっています…」
レヴィのお父さんとウリエルのお父さんがこの場を離れ、自身の住処へと帰っていく。
その様子をリエルは寂しそうに見ていた。
なんだかんだ言ってリエルはお父さんの事を慕っていたのだろう。
私はそっとリエルの頭を撫でる。
「なっなによ…」
「よしよし」
「だっ大丈夫なんだから…」
口ではそう言ってはいるが、大人しく撫でられるあたり嫌ではないのだろう。
「さて、色々と終ったから帰ろっか。…あー…報告嫌だなぁ…」
今回の件については正直話すべきか悩むけど、あれだけ大きな事件を起こしたのだ、説明しなければ他が納得しないだろう。
うぅ…気が重い…。
何か長くなった(白目




