嫉妬VS神の光⑥
「GYUUU!」
「はぁっ!」
レヴィの鱗とウリエルの炎の剣がぶつかり合い、鋭い音が辺りに響き渡る。
「GYUU…」
「はぁ…はぁ…全く…しつこいわねっ!」
時間を確認していないからわからないが、二人の疲労感からかなり時間が経っているはずだ。
レヴィのお父さんに時間制限の解除をしてもらってよかった。
あれがなかったらとっくにこちらは敗北していただろう。
「レヴィ、大丈夫?」
「GYUU!」
どうやらまだやれるようだ。
いくらレヴィに【自動回復】がついていたとしても、疲労までは回復できない。
だがそれはウリエルの【光魔法】の回復でも言える事だ。
当初ウリエルは【忍耐】スキルを活かすためにHPが減ったらそのままにするかと思ったのだが、ウリエルはある程度ダメージを喰らうとHPを回復していた。
恐らくだがウリエル自身はまだ戦闘経験が少ないため、親のように【忍耐】スキルを活かしたギリギリの戦いができないのだろう。
とは言っても、たまたまレヴィが決めた連続攻撃でHPが二割程減った後のウリエルの攻撃はレヴィですら一、二割も削れる程だった。
これが更に威力を上げるのだ。
一撃必殺型と言っても過言ではないだろう。
「っ…まずいわね…」
ウリエルがぼそっと何かを呟いたが、さすがに遠く過ぎて聞き取れなかった。
だがあの苦虫を噛み潰したような表情からすると良くない事なのだろう。
「もう遊びはお仕舞いよ! これで片をつけてあげる!」
そう言ってウリエルは後方に下がり、真上からではなく、射角を斜めにして魔法陣を展開させる。
「まさかその角度で放つつもり!?」
今までは真上からの照射だったため、衝撃波以外の被害はなかっただろう。
だが射角が斜めになったという事は、衝撃波だけではなくその魔法による被害も考えられる。
そして何より私たちのいる後方には王都がある。
恐らくウリエルも頭に血が上って冷静な判断ができていないのだろう。
「レヴィィィィィ!」
「GYUUUUUUUU!」
レヴィの大きな鳴き声と同時に巨大な津波が発生し、そこから水の竜巻がいくつも作り出される。
「悪名高き大罪よ! 神の光によって滅しなさい! 『神の光』!」
「GYUUUU!」
ウリエルの展開した魔法陣から極大の光が降り注ぎ、それと同時にレヴィの作り出した巨大津波と水の竜巻が激突する。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「GYUUUUUU!」
光の壁と水の壁は激しく一進一退を繰り返す。
「ぐぅっ!」
「GYUU!」
衝撃波だけで身体が飛ばされそうだ。
今はネウラの保護触手のおかげで何とかなっているが、これ以上はネウラの触手も耐えられないだろう。
「『アースグレイブ』」
もうダメかと思った瞬間、空から一本の極大の槍が降り注ぎ、光の壁と水の壁を弾き飛ばし、更に水没していた地面の水すら吹き飛ばし大きな衝撃波を生み出して地面に突き刺さる。
「きゃぁっ!?」
「GYUU!」
「お母さんっ!」
「何っ!?」
咄嗟にレヴィとネウラが飛ばされないように守ってくれたおかげで被害らしき被害はなかった。
だが目の前の光景を見て私は驚愕する。
「うそ…でしょ…」
あれだけの規模の魔法がぶつかったのだ。
それを弾き飛ばす程の力を持ったのならば少なからず地面へ刺さった時の被害は計り知れない。
だが辺りを見回しても、地面が陥没したなどの被害が見られず、ただただ極大の土色の槍が地面に刺さっているだけであった。
「こっ…この力は…まさか…」
遠くでウリエルが真っ青な顔をして身を震わせていた。
「『我が娘よ』」
「っ!?」
ぶうんと音を鳴らし、突然私たちとウリエルの間に現れた六枚羽の金髪のショートヘアーをした巨大な男性の天使が目を閉じたまま呟く。
その呟きにウリエルはビクンと反応する。
「『此度の件、我はある程度は見逃すつもりでいた。だが娘よ、お前は我が出なければならない事をした。それが何かはわかっておるな?』」
「はっ…はい…」
ウリエルは巨大な男性の天使の一言一言に青い顔をさせながらビクビクと反応し、小さく返答した。
「『それと我が宿敵よ、お前も出てこい』」
「『っふ、途中からずっと見ていたくせによく言うわ』」
男性の天使が誰かを呼ぶと、海の中からレヴィのお父さんが顔を出す。
「レヴィのお父さん!? いつからそこに!?」
「『ちゃんと言ったではないか、そいつの親父が出てきたら出てきてやると。当然近くで待機しておるわ』」
たっ確かに言ってたけどさ…。
「『そこの【嫉妬】の子の契約者よ。こちらもこれ以上させるつもりはない。武器を収めよ』」
私はチラっとレヴィのお父さんの方を見ると、小さく頷いたのを確認したので大人しく武器を仕舞う。
同時にレヴィも身体を小さくし、私の肩の上へと移動する。
「『我が娘よ、お前も武器を収め降りてこい』」
「はい…」
そう言って二人の天使はゆっくりと地面へと降り立ち、レヴィのお父さんは身体を伸ばして私たちの近くに顔を近付ける。
「『さて、まずは此度の件、我が口を漏らしたのが事の発端であることは確かだ。素直に謝罪しよう』」
そう言ってお父さん(?)天使が小さく頭を下げる。
ただ、それを見てウリエルの顔が更に真っ青になったが…。
「『…娘よ、お前は謝罪せぬのか?』」
「ひっ!? ごっごめんなさい!」
慌ててウリエルがガクガクと震えながら頭を下げる。
何というか…こうなってくるとウリエルが不憫に思えてきた…。
「いえ、こちらももっと穏便にできたかもしれないので…」
「えっ? でもお母さん、最初あっちから話し合いもなく問答無用で攻撃してきたよね?」
「ネウラー! それはしーっ!」
「えっ?」
ネウラの発言を聞き、ウリエルのお父さんのこめかみが一瞬反応する。
それを感じ取ったのか、ウリエルが更に身体を震わせる。
いやもう勘弁してあげてもいいかなーっと思うんだけど…。
確かに王都への被害考えずに撃とうとしたのはダメだけど…。
この後、しばらくウリエルへのお父さんからの説教が行われている間、私たちは何とか穏便に事を済ませれる提案を考えているのであった。
とうとう300話か…(しみじみ




