嫉妬VS神の光④
「じゃあ後はアシュリーさんの指示に従ってください」
「はっ! 使徒様、どうぞご存分に」
ファナティクスさんを始め、揃った首狩り教に後の事を任せることを伝える。
「ですが名誉顧問殿と海花殿に伝えなくて本当によろしいので?」
「伝えると二人の事だから無理矢理にでもついてきちゃいそうだからね」
物見遊山の人たちはとにかく、二人を危険な目に合わせるわけにはいかないからね。
「それと報酬の【切断】スキルの件は戻ってきてから伝えるね」
「お気にせずともよろしいのですよ。我ら首狩り教は使徒様に尽くすことを至上の喜びと思っております。ですのでそのような報酬などなくても使徒様の命ならばどこへでも馳せ参じる所存でございます。とはいえ、使徒様がそういったことを重荷と感じるようであれば、お約束通りに報酬として【切断】スキルについてお聞きいたしましょう」
途中からファナティクスさんたちはすっと片膝をついて頭を下げる。
いくら周りにほとんど人がいないと言っても、警備の人たちはいるのだ。
その人たちは「大の大人を跪かせるあの少女は何者だ!?」といった様子でこっちを見てるし…。
アシュリーさんはアシュリーさんでその後ろでニコニコしてるし…。
「とっとにかく、後の事はお願いします」
「はっ!」
ファナティクスさんたちと別れ、私は一人ミールド山脈へと向かう。
途中何組ものパーティを抜かすが、今は急いでるのだ。
AGIが結構上がってるおかげか、以前よりは早く着くことができた。
周りを見てみると、どのパーティもウリエルを狙っているのは一目瞭然だ。
邪魔されても困るしさっさと山を登るとしよう。
しばらく山を登っていると、途中で見知った顔を見つけた。
私は進路を変えて見知った顔の方へと向かう。
「ショーゴ」
「んっ? あぁ、アリスか」
ちょうど休憩に入ろうとしていたショーゴたちのパーティと、防衛イベントの時に見たのとは違うパーティの人たちが一緒になって休んでいた。
「なんだ、アリスも天使のとこに行くのか?」
「うん」
「なら俺らと一緒に」
「ショーゴ」
私はじっとショーゴの顔を見つめる。
「…どうした?」
「天使のところに行かないでこのまま王都へ戻って」
「ちょっ!? アリスちゃんそれってどういうこと!?」
私のいきなりの発言に反応したシュウを制止するようにショーゴが腕を伸ばす。
シュウもショーゴの動作で動きを止めて口を閉じて私の方を見る。
シュウだけではない。
この場にいる全員が私に注目する。
「理由は?」
「この件は私が片を付けなきゃいけないから」
「俺らと一緒じゃダメなのか?」
「うん」
「そうか…。なら言い方を変える。お前じゃなきゃいけないのか?」
「私とレヴィじゃないといけないの」
私の強調した言葉にショーゴは一瞬反応を見せる。
恐らく察してくれたんだろう。
「という事は全力なんだな?」
「うん、全力だよ。だから巻き込む前に山から出ていって」
ショーゴは溜め息をついて頭を右手でポリポリと搔く。
そして私に背を向け、他の人たちの方を向く。
「仕方ねえ、帰るぞ」
「はぁ!?」
「何言ってんだショーゴ!」
「いくら幼馴染に言われたからってよ!」
ショーゴのパーティ以外の人たちが驚愕したように声を上げる。
まぁ普通ならそういう反応をするだろう。
だがショーゴのパーティのガウルたちは特に何も言わず、立ち上がり休んだ時に付いた埃を払っている。
「もういい! 俺らは行くっ!?」
声を上げた一人が踵を返そうとした瞬間、先に出しておいたアリカが現れ、そのプレイヤーの首元へと脇差を構える。
「一応アンタたちのためを思って忠告しているのよ? それでも行くって言うならそれ相応の痛みを覚悟してきなさい。言っとくけどこっちは他に気を使う余裕なんてないからね」
「アリカ」
私がアリカの名を呼ぶと、一瞬で煙のように消え、再び私の横に現れる。
「まぁ脅すような形になったけど、今言ったようにこっちも余裕なんてないから。それでもいいなら来るといいよ」
「!?」
私の威圧に気圧され、ショーゴ以外のパーティの人たちは一歩後ろへと下がる。
「目からハイライト消えてるアリスちゃんやべー…」
「これは口出ししない方がいいだろうな」
「まぁあの子がここまでになるなんて相当だものね~」
「プレイヤーイベントの時とはまた違った感じですからねー」
「はぁ…」
この状況を見かねたショーゴは間に入ってくる。
「お前らもわかっただろ。今回は素直に引け」
「でっでもよ! もしうまくいったら【首狩り姫】が全部一人占めする事になるじゃねえかよ!」
「アリス、そこんところどうなんだ?」
「んー…正直倒し切るつもり…というかそこまで考える余裕はないけど、たぶん父親が出て来るからそれ次第ってところかな」
「ちっ父親…?」
「あー…つまりあの天使…対とかそういう立ち位置って事でいいんだな?」
「うん」
「そりゃ俺らじゃ手が出せねえわけだ…」
どうやら全てを察したショーゴは深くため息をつく。
「ちなみにレヴィの方はどうなってんだ?」
「向こうが出てきたら出るって」
「マジかよ…」
今度は右手で顔を抑え始めるショーゴ。
「…おいお前ら、急いで逃げるぞ」
「にっ逃げるってどういう事だよ!?」
「怪獣大戦争に巻き込まれる前に逃げるって事だ」
「意味わかんねえよ!」
「あーめんどくせぇ! 下手するとミールド山脈が消えるっつってんだよ!」
「はぁぁぁぁ!?」
「じゃあアリス、頑張れよ」
「うん」
そう言ってショーゴたちは急いで山を下り始めた。
それに続いて他のパーティもショーゴたちを追い掛けて山を下りていく。
「全く…変なところで時間取っちゃったじゃない…」
「まぁここでショーゴに会えたし、注意喚起できたから」
「それはいいけど…。てかMP消費はどんな感じ?」
「うん、アリカもあんまり動いていなかったのもあるしあんまり減ってないよ」
「なら移動してる間に回復はしそうね。じゃあ後は本番で」
「うん」
アリカが消えたのを確認し、私は更に上を目指して登る。
私が目当ての人物を見つけると、その人物はちょうど戦闘中だった。
「あーもう! いい加減うっとおしいわね! これで消えなさい! 『神』」
「ウリエルっ!」
「っ!?」
私の大声に気付き、ウリエルは『神の光』の発動を途中で止める。
「…ようやく来たわね。いい加減有象無象を相手にするのも飽きてきたのよ」
羽を揺らしながら空を飛んでいるウリエルは私を見てニヤリと笑みを浮かべる。
戦っていたプレイヤーたちは、私の存在とウリエルと話している事に気付き、少なからず動揺が起こっていた。
「それじゃあ殺り合うわよ!」
「その前に」
私は左手を伸ばして待ったを掛ける。
「ここじゃ被害が出る。もっと奥の海側で殺ろう」
「…そうね、邪魔をされてもうっとおしいしその提案に乗ってあげるわ。なんなら連れてってあげようかしら?」
「連れてってもらってる間に斬られかねないから自分で行くよ。ってことでミラ、お願いね」
「畏まりました。では失礼して…」
そっとミラが現れ、私のHPの一割程血を吸って大きくなる。
その大きくなったミラに支えてもらい、私たちは移動し始めたウリエルを追い掛ける。
横から現れた私とウリエルのやり取りに唖然としていたプレイヤーたちは慌てて私たちを追い掛けるが、空を飛んで移動しているのと陸を移動しているのとでは移動速度に差が出るのは当たり前で、ぐんぐん距離を離されていく。
山脈を少し越え、海が見えてきたぐらいでちょうどいい平地をウリエルが見つけてそこに降りる。
私たちもウリエルに続いて平地に降り、ミラの解放を解除してHPを回復させる。
「さて、この辺なら邪魔は入らないでしょうね」
「そうだね。でもその前に言っときたい事がある」
「何かしら?」
「ウリエル、大人しく天界に帰るつもりはないの?」
「目の前にいる悪魔を放っておくなんて天使にできるわけないでしょ!」
「そう…。ならっ!」
私はレヴィを呼び出し、すぐさま通常時の最大サイズにさせる。
レヴィが巨大化した瞬間、ウリエルは何かに気付く。
「その蛇は!? じゃあ悪魔の正体って…まさかっ!?」
対価の受理――実行中――加護により対価無し――完了。
契約者の封印――解除中――解除完了。
大海魔 リヴァイアサンの封印が解除されました。
大海魔 リヴァイアサンのスキル修正――完了。
大海魔 リヴァイアサンが本来の姿に戻ります。
大海魔 リヴァイアサンの再封印まで残り――対の天使と対峙――加護により対立が解除されるまで無制限です。
「行くよっレヴィ!」
「GYUUUUUUUUU!」
さぁ勝負だ!
ふぅ何とか戦闘前まで持ってこれた…(達成感




