お城へ潜入?
「はい、お疲れ様」
「まさか一日農作業をさせられるとは思わなかったぜ…」
「だって身体で払ってくれるって言ったでしょ?」
「確かに言ったけどよぉ…」
私はゲーム内での一日中ずっとサイの農作業の手伝いをしてすっかり疲れ果てたアワリティアにお茶を出す。
アワリティアはそれをゆっくりと持って一気に飲み干す。
「まぁあれだけの所業をしておいて、たった一日程度の農作業で済まされるのですから、その事をお嬢様に感謝しなさい」
「…トアさん本音は?」
「いっつも女はべらしてどや顔してるくせに、お嬢様に使われてヒィヒィ言っててざまぁ」
「この野郎…」
うーん…この二人の関係は恋人…という感じではないんだよね?
友達っていう感じなのかな?
「つかあの子供いっつもこんな夜遅くまで作業してるとかマジかよ…」
「んー…農作業自体はそこまで遅くはないね。農作業が終わったらお店の仕分けとかそういうのしてるし。あっ勿論定時終了にしてます」
「サイ様はともかく、リアお嬢様は没頭しやすいですからそこの面倒もですかね?」
「…サイ倒れたりしないかな?」
「少なくとも二人は超ホワイトな環境で働いていますのでそれはないかと」
それならよかったよかった。
実は私のお店はブラック環境とか噂されたら嫌だもんね。
「それで? 馬車馬のように働き終わったのですからさっさと出ていったらどうですか?」
「テメェ…お前の主のために働いたんだから少しは労われよ」
「因果応報です」
「クソが…」
えっと…友達…なんだよね…?
「まぁいい、どうせ夜になるまで暇つぶしはする予定だったんだ。ちょうどいい」
「夜に何かあるの?」
「この男の事ですからどうせ闇に紛れてPKとかそのあたりでしょう」
トアさんは深くため息をついて呆れるような表情をしてそっぽを向く。
「あーいや今日はちげぇ。ちょっくら王都の方に来いって言われてんだよ」
「誰に?」
「姫さんに」
「姫さん…?」
姫さんっていうプレイヤーに呼ばれたのかな?
「姫さんって…まさか貴方!?」
「まぁ俺は強欲だからな。っつっても俺が手を出したのは侍女だから問題ねえだろ」
「問題ありまくりです! はーもうまったくこの男は…いつかやらかすと思ってましたがまさか本当に…」
「??」
全く話がわからないけど、トアさんの慌てようから結構やばい人?
そんな私の様子にアワリティアが気付き、愉快そうに話し掛けてくる。
「そうだそうだ。嬢ちゃんも一緒に来ねえか?」
「へっ?」
「お嬢様を巻き込むつもりですか!」
「いいじゃねえか。王族とのコネなんて作りたくて作れるもんじゃねえぞ?」
「おっ王族…? って事はさっき言ってた姫さんって…」
「あぁ、正真正銘この国のお姫様だ」
えぇぇぇぇぇぇー!?
「一体どういう事なの…」
「いくら女好きでもまさかこの国の姫の侍女に手を出すバカとは思っていなかったのに…はぁ…」
「別にお前はついてこなくてよかったんだがなぁ」
「お嬢様を貴方と二人きりにさせるわけないでしょう!」
私たち三人は今現在王都のお城の抜け道のような石造りの通路を歩いている。
勿論アワリティアの案内でだ。
「まぁいい経験と思えばいいだろ」
「その経験のための経緯が嫌なんですよ…」
「まっまぁまぁトアさん…。でも王都にこんなお城への抜け道のようなところがあるんだね」
「そりゃいざという時の逃走経路だしな。つってもここもその一つらしいがな」
「へぇー」
まぁ一つだけだと知られた時塞がれて大変だもんね。
しばらく進み行き止まりに着くと、アワリティアは低くなった天井の少し大きめの石を外す。
するとそこから薄暗い光が漏れ、更に石を二つほど外して人が通れるぐらいの隙間になるとアワリティアはそこから外へと出た。
私とトアさんもアワリティアの跡を追い外へと出る。
外へ出ると、そこは倉庫のような場所で武器や防具、更には何かの道具など色々と置いてあった。
「よっと」
アワリティアは外した石を空いた穴に嵌るように埋め、傍から見てもそこに道などあったようには見えなくなった。
「お待ちしておりました。アワリティア様」
「おう」
声に反応して振り向くと、そこにはメイド服を着た女性が立っており、アワリティアの名を呼んだ。
「それと二人ほどお増えになっていますが…」
「俺のツレって事で納得してくれ。なんなら後で可愛がってやるからよ」
「それは大変魅力的な事ですが、今は執務の最中故遠慮させていただきます。とはいえ、流石にそれで納得するには私はともかく、姫様相手ではいささか厳しく思います…」
「大丈夫ですよ。その方は信用できます」
「えっ? 何でここに貴女が…?」
アワリティアの名を呼んだメイドさんの後ろからもう一人現れた。
だがその女性はメイド服を着ているのではなく、黒い布地を基本とした忍者服のような服を着ているアシュリーさんだった。
「ふふっ。お久しぶりですアリスさん。それとそちらのメイドさんはアリスさんのお知り合いですか?」
「はっはい。私のお店で働いてもらっています」
「そうですか。それならば心配いりませんね」
「でっですがアシュリー様…貴女と知り合いというだけで…」
「その方には『あの里』を話せる程信用しておりますので心配いりません。それともまだ何か?」
「いっいえ…」
いつも通り目を閉じていておっとりなアシュリーさんから有無を言わせない威圧がメイドさんへと襲い掛かり、メイドさんは何も言えなくなってしまい俯いてしまった。
姫様付きであろうメイドさんを黙らせるって…やっぱりアシュリーさんお城だと有名な人…?
てか有名じゃなかったら『嘆きの里』の事任されないか…。
「…なぁ嬢ちゃん、あの目瞑った美人と知り合いなのか? 割とやべえ雰囲気しかしねえんだが」
「まっまぁ…色々あって…」
「お嬢様の人脈には際限がありませんね…」
そっそこまで言うほどかな…?
でもまぁ大きな問題なくお姫様に会えそうかな…?
「てかアワリティア、いつもの女好きはどこへ行ったんですか」
「流石の俺も手を出しちゃいけねえ相手ってのはわかるわ。つかあれは手を出したら絶対ダメなタイプだ。俺の本能が手を出すなって訴えてる」
「アシュリーさんは…そこまで怖い人では…怖い人では…」
私は教会の事を思い出し、そっと顔を背ける。
「おい嬢ちゃん、そこで黙って顔背けるのはやめてくれ。マジで怖くなんだろ」
「おっ怒らせなければ平気だと思う…」
「おう、その情報だけで十分だ。気を付ける」
…本当に色々と大丈夫だろうか…?
遅くなりました。




