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Nostalgia world online  作者: naginagi
第五章
283/370

とあるプレイヤーの独白

 どうしてこんなことになった…。

 俺はエアストの広場の隅に座って溜め息をつく。


 いや、原因はわかっている。

 そもそも最初から間違えていたんだ。

 NWOをただのゲームと思って攻略組であるウロボロスに入ったのが間違いだった。

 いくらゲームとは言え、実際に身体を動かすのはまた勝手が違ってくる。

 そして眼前に迫ってくる敵の攻撃に慣れるのには時間が掛かった。

 だが他のウロボロスに所属しているやつらはそのほとんどがすぐに慣れていった。


 案の定俺はついていけず、ウロボロスから脱退した。

 そしてウロボロスから脱退した者たちが集まってできたラグナロクというギルドに所属する事になった。

 正直言えばもう流れで入ったとしか言えない。

 ラグナロクに所属しているやつらは二言目には「ウロボロスを見返してやる」と言う。

 俺も最初はそうだったが、時間も経てば自分たちの立場、実力を冷静になって見つめなおした。

 だがそんなのは少数だ。

 ほとんどのやつらはもうやりたい放題…というよりやけっぱちになっていた。

 ダンジョンの秘匿にアイテムの独占狙い、更には他のプレイヤ―とのいざこざetc。

 次第にラグナロクの立場は悪くなっていった。


 だがギルドを脱退するにも自由に抜けられるわけではない。

 脱退するにはギルドのリーダーの承認か、メンバーの1/3の賛成、もしくはリーダーが現実での一週間承認を放置していた場合でなければ脱退ができない。

 ただそこにハラスメント行為などがあった場合は運営を介して脱退をする事は可能である…らしい。

 俺のように冷静になった少数派の中には脱退をリーダーや他の奴らに粘り強く申請し、何とか脱退して一プレイヤーとして再スタートしたのもいるが、特にやることが決まっていなかった俺はそのままラグナロクに居続けた。


 そして大事件は起こった。

 あまりの横暴さに堪忍袋の緒が切れたのか、家持ちの生産職一同がラグナロクを出禁にしたのだ。

 元々攻略組なんてのは生産をほとんどしない。

 生産なんてしている暇があるならスキルのレベル上げやダンジョンでレアアイテムを探すからだ。

 そしてその活動のための回復アイテムは生産職から購入する。

 つまりラグナロクはNWOでの活動が難しくなったというわけだ。


 いや、まだ家持ちの生産職一同だけならよかった。

 よりにもよって【首狩り姫】に手を出したやつがいやがった。

 そのせいで今まで何とか購入できていた一部生産職からも購入を拒まれる事態となってしまった。

 冷静になっている少数派はもう溜め息しか出なかった。

 さすがの事態に少数派は脱退を申請したが、これ以上人数が減る事を危惧したリーダーたちに却下された。

 俺らは特にハラスメント行為をされていたわけでもないため、運営経由での脱退ができなかったのも痛い。

 俺らはリーダーがログアウトしている内に申請をするという事を繰り返していたが、結局うまくいかず、なし崩し的にラグナロクに所属している結果となった。


 だが俺ら以外にも不満は溜まっていった。

 この状況を他のせいにしてぎゃあぎゃあ喚くやつらが増えたのだ。

 少数派は心の中でお前らの自業自得もあるだろうが…と思ってはいるが口には出さない。

 その結果、ラグナロクの中には三つの派閥ができる事になった。

 リーダーを中心とした派閥。

 そのリーダーに反発したやつらが集まった派閥。

 そして冷静に物事を考えれるようになった俺ら少数派の派閥。

 表面上は一つのギルドだが、内部はもうごたごたのぐちゃぐちゃであった。


 ならばNWOをやめてしまえばいいじゃないかとは思うが、俺ら少数派は実はこのゲームを存外気に入っていたらしい。

 だからやめる選択肢はないのだが、ラグナロクというギルドからは出ていきたい。

 もういっそのこと大きな事件が起こって解散になるぐらいの事が起こってくれないかと少数派はずっと期待してプレイしていた。


 だが、誰が大型イベント戦中にそんな事になると思っただろうか。

 南西の方角で酒呑童子と戦っていたラグナロクは、全く歯が立たない状況から他の方角へと撤退することになった。

 そして選んだ場所はまさかの【首狩り姫】たちがいる北東の方向に行くというのだ。

 しかも理由が人数が少ないからという馬鹿みたいな理由だった。

 俺は正直呆れて物が言えなかった。

 これ以上【首狩り姫】と敵対するような事をしてどうなるか馬鹿でもわかる事だろう。

 少数派はもはやNWOでの生活もこれまでかと覚悟したが、そこに救世主…と言っていいのかわからないがその大きな事件を起こしてくれたプレイヤーが現れた。


 結果、俺らを含めたラグナロクは全員死に戻りして拠点へと戻った。

 リーダーたちはすぐに北東へ戻ろうとしたが、行こうとしたらすぐに黒いローブを着たやつらにPKされて死に戻りを繰り返す羽目になった。

 元々PSで劣っていたのにステータスダウンのデバフが入ってて勝てるわけがない。

 結局ラグナロクはイベント終了時まで大人しくするしかなくなった。

 それが原因で完全に燻っていた火種は激しく燃え、ラグナロクは内部分裂をして事実上崩壊した。

 俺ら少数派も何とかラグナロクを脱退する事ができ、無事心機一転する事となった。

 なったのだが…。


 「今更一人で何しろってところだよなぁ…」


 他の少数派はラグナロクの件であまり戦闘はしたくなくなったという事で生産職へと変わってしまったため、PTを組む相手もいなくなってしまった。

 なので俺はここで一人隅に座って今後の事を考えていた。


 「おや? 貴方は確か…」

 「んっ? …ってあんたは!?」


 突然声を掛けられ顔を見ると、あのイベントの時ラグナロクを襲撃したメイド服を着た女プレイヤーだった。

 まさか引退するまで追いつめるとかそういう事か!?

 俺が身構えていると、メイドは俺をじっと見て何かを納得したように頷く。


 「なるほど、ラグナロクを抜けたようですね」

 「あっあぁ…」

 「確かに貴方はあれらの中でもマシな戦い方でしたし、多少なりとも理性は残っていたのかと感じましたが…。それでこんなところで何を?」

 「あっえっと…一人になったから何をしようかなって考えてて…」


 イベントの時は容赦なかったが、こう話していると普通の女なんだな。


 「俺と一緒に抜けたやつらは皆生産職になっちまったし、今更ギルドに入るとかそんな事できないしな。前どこ入ってたんだとか聞かれたらまずアウトだろうしな。つっても自分でギルド作る気にもならんしなぁ…」

 「あの時の様子から貴方の場合きちんと事情を話せば入れてくれるところはあるかと思いますが。先程あるお店の店主と話していたところ、元ラグナロク所属のプレイヤーが何人か一軒一軒謝罪していたという話を聞きました。その中の一人は貴方では?」

 「まぁ…そうだが…」


 確かに心機一転という意味で迷惑を掛けたであろうところを全部謝罪には行ったが…。

 勿論相手は激怒したり説教したりしたが、こっちが悪かったので甘んじて受け入れた。


 「まぁ私も偉そうに色々と言っていますが、本来はそう言える立場ではないのでとやかく言いません」

 「立場…ねぇ…」


 ならそんなにPSがあるわけもねえのに威張ってばっかりだったラグナロクにいた俺はもっと立場は下だろうな。

 …PSか。


 「そういやプレイヤーによっては戦闘をうまくできないがために仕方なく生産職に行く初心者もいるんだよなぁ…」

 「そうですね。どうしても敵が迫ってくるのが怖いというのもありますからね」

 「俺も最初に入るギルドを間違えたからなぁ。いっその事初心者育成のギルドでもあったらそこに入っときゃよかったわ」

 「ラグナロクに入ってたという事は第一陣辺りですよね? 確かにその頃は初心者育成ギルドなんてなかったですからね。今でこそ少しはありますが、そこまで慣れたプレイヤーが作っているという事ではないですから色々苦労はしていると聞きます」


 そりゃそうだ。

 初心者育成ギルドなんて完全に趣味の世界だ。

 自分の所属しているギルドの初心者を育成ならわかるが、ただただ初心者を育成してはいお仕舞なんてとこはほとんどないだろう。


 「いっそやる事決まってない俺が初心者育成ギルドでも作るかな。なんてな」


 ラグナロクにいた俺が何言ってるんだってこのメイドは笑うだろうな。

 まぁ仕方ねえよな、自業自得だし。

 そう思ったのだが、メイドは特に笑いもせず驚いたような顔で俺を見ていた。


 「なっなんだよ」

 「いえ、正直驚きました。ラグナロクに所属していたのにそんな考えに至る事に」

 「俺だって最初苦労したからそういうのがあればいいかもなーっていう話をしただけだ。実際にやるわけないだろ。つかやれるわけないだろ」


 少なくともラグナロクに所属してた過去があるからな。


 「そうでしょうか?」

 「はっ?」

 「確かに貴方はお店の主人たちにボロクソに叱られていたと思います。ですが主人たちは今後の様子次第では水に流すとも言っていました。それに少なくとも貴方はそこまでダメな人とは思えません。ですがもし自分が許せないようでしたら、罪滅ぼしとまでは言いませんがそれをしてみたらどうですか?」

 「いや…でもよ…」

 「それに貴方も言ってましたよね? 最初の頃苦労したと。それを口にするという事は、片隅に初心者にそういう事で苦労してほしくないと思っているのでは?」

 「……」


 このメイドの言う通り、少しばかりはそういう事を考えたりしたが…。

 だからって俺がやるのはなぁ…。


 「まぁ今すぐ決める必要はないですし、ゆっくり考えていいと思います。何なら私が働いているお店に来て相談してくださっても構いません。一応ギルドは抜けてますし入れるはずです」

 「…あんたのいる店って【首狩り姫】のところだよな?」

 「はい」

 「…考えておく…」

 「わかりました。では私はお店の方に戻りますので失礼します」


 メイドは軽く挨拶をしてそのまま去って行った。


 「…初心者育成ギルドか…」


 少し…考えてみるか…。



 後に初心者育成ギルドが一つ作成される事になったが、他とは一風変わったギルドとして名を売る事となった。

 曰く、戦闘の訓練やモンスターとの闘いに慣れさせるための戦闘をしたりするが、そのための支援は惜しみなく行うのだが、囲うわけでもなくギルドの脱退は本人の自由にさせているという。

 ただただ初心者に戦闘を慣れさせるためだけのギルド。

 その噂から今まで戦闘ができない故に生産職をしていたプレイヤーも教えを請いに来て結果、戦闘職へと変えた者も多く出たという。

 そのおかげかはわからないが、戦闘と生産二つのスタイルを持つプレイヤーの比率が増えたという噂ができていった。

 話によると、その初心者ギルドのリーダーやその仲間はとても良い顔をしていたという。

という感じでラグナロクの結末を書いてみました。



作者血迷いシリーズ(恋愛)第一弾として短編書きました。

良かったら読んでみてください。


騒がしくも寂しげな後輩

https://book1.adouzi.eu.org/n1285et/

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