百鬼夜行⑯
他の方角から人が来る前に茨木童子の処遇を決めたいのだが、これといって良い案が浮かばない。
二人で逃げてと言っても、それはできないと聞いてくれないのだ。
うーん困った…。
依然として茨木童子の子供はルカの腕の中で暴れてるし…。
って、茨木童子が降参したんだからこっちの方角にいる人に停戦してくれるように言っといた方がいいよね?
そう思って連絡をお願いしようとしたら、茨木童子が降参した時点で既に連絡済みという…。
手が早いことで。
しばらくすると、生き残った鬼たちが残りのメンバーたちとともにこちらにやってきた。
「兄貴っ!」
「お前らも無事だったか」
「へいっ! だいぶ数は減りやしたがここにいるやつらは無事です!」
「ってことで悪いけどこいつらも見逃してやってくれないかねぇ? けじめは俺一人で付ける」
「あっ兄貴ィ!」
茨木童子の言葉に生き残った鬼たちは全員涙を流す。
その姿にどうしようと私は更に困惑してしまう。
「ルカ…どうしよう…」
「んっ。アリスはこれ以上は嫌なんでしょ?」
「うん…」
「とはいえ、落とし前は何かしら付けないといけない。その内容をどうするかが問題」
そこなんだよねぇ…。
んー…何か平和的に解決できそうな落としどころは…。
茨木童子はじっと目を瞑ったまま静かにしてるし…。
私たちがうーんと悩んでいるとルカに捕まっていた茨木童子の子供が私たちに提案を持ちかける。
「なら僕があんたたちの人質になる! だからととさまを見逃して!」
「えっ?」
「おいっ! 何勝手な事を!」
流石の提案に茨木童子も驚いたのか、目を見開いて子供を見つめる。
「ととさまの子の僕が人質ならその落とし前ってのもつくだろ? だからととさまたちは見逃してよ!」
「馬鹿野郎! んな事をお前は考えなくていいんだ!」
「だって…姫様たちだってととさまたちの言い付け守らないでこっち来ちゃったし…もしかしたら…」
「なっ!? 姫さんもだと!?」
姫様?
もしかして鬼の姫様がこっちに来てるってこと?
…それ割とやばいような…。
せめて銀翼とかそっちの良識ある人のところに行っててくれればもしかしたら無事かもしれないけど…血の気の多いところに行ってたら…あー…考えたくない…。
私は急いでリーネさんに鬼の子供がいたら保護するようにお願いしておく。
理由は後で説明するとは書いておいたが…無事な事を祈るしかない…。
「ところでその姫って誰?」
「姫様は姫様だ。酒呑のおじ様の一人娘だよ」
「…そう…」
ルカの質問の返答に更に私たちは困惑する。
つい先程の情報からその酒呑童子は退治された。
つまり父親が倒されたという事になる。
そして親を倒された娘が大人しくしているはずがない。
「やばい…アリス…これ泥沼になりそうな気がする…」
「それ以上言わないで…私も頭が痛くなってるから…」
私は至急先程の情報修正としてリーネさんに酒呑童子の娘がいる事を伝える。
頼むから間に合ってほしい…。
彼是一時間は待っただろうか。
依然としてリーネさんから酒呑童子の娘を保護したという情報が伝わってこない。
私たちとしても、その娘の情報がわからないと茨木童子たちの処遇を決めかねないのだ。
もしこの戦いに関係のない酒呑童子の娘が亡くなっていた場合、せめて茨木童子親子にはその謝罪を含め解放するしかない。
そんな中、茨木童子の子までこっちが預かりでもしたら鬼との確執は免れないだろう。
「おーい、アリスー」
そんな事を考えていると、何故かこちら側にショーゴたちがやってきた。
「あれ? ショーゴどうしたの?」
「いやー…ちょっと相談したい事があってだな…」
「相談したい事?」
一体なんだろ?
って、ショーゴの後ろに女の子が引っ付いてるけど…。
その子供は凄い着飾った服を着ており、見るからにお嬢様とかそういう身分のような子に見えた。
「その子誰?」
「いやー…えーっとだな…」
「んっ?」
何かはっきりしないなぁ。
仕方ない、あの子から直接聞こう。
「ねぇ、君は何でショーゴと一緒にいるの?」
「妾は…この者に初めてを奪われてしまったのでな…。一緒にいるのじゃ…」
女の子は顔を赤らめ身体をモジモジとさせる。
「……」
「おいっ! 誤解を招くような言い方はやめろ! おいアリス、今のは違うからな…って、うおっ!?」
「ねえショーゴ…その子に何したの? ねえ何したの? 怒らないから早く答えてねえねえねえねえ。後ろめたいことないなら答えられるよねねえ早く答えてよねえ」
私は無意識の内に脇差を抜いてショーゴに向ける。
ショーゴは咄嗟に私の両手を掴んで刃が刺さらないように抑える。
「頼むから話を聞いてくれっ! つか怖ぇよ!」
「初めてってどういう事? ショーゴまさかこんな子供に手を出したの? ねえショーゴどういう事か早く説明してよ」
「おい朱天! さっさと誤解を解いてくれ! マジでアリスに刺される!」
「でも妾の初めてを奪ったのは主様であろう…?」
「顔染めながら発言するな! 余計誤解が加速すんだろ!」
この様子を外野は唖然としながら見つめていた。
「えーっと…お姉様は一体どうしたのかしら?」
「たぶんだけど、子供に手を出した事に対して容赦なく首を刎ねるつもりだったけど、その相手が幼馴染だったから首を刎ねるのはやめて刺そうとしてる感じだと思う。名付けてヤンデレモード」
「まぁあんだけ仲良しだった幼馴染が子供に手を出してたらわからなくもないけど…」
「って、姫様?」
「「えっ?」」
ルカと海花は茨木童子の子供の発言にきょとんとした声をあげる。
「んっ? おぉ、茨木の。ぬしも息災だったか」
「はいっ!」
茨木童子の子供を抱えたままのルカは朱天と呼ばれた女の子の方へと近付く。
「えっと…その子が酒呑童子の娘?」
「そうだよ! 姫様だ! ところで姫様、何でそこの人間と一緒に?」
「うむ。妾は主様の眷属となったのだ。その時に初めてを奪われてのぉ…」
「だから誤解を生む言い方はやめろっつってんだろ! ただペットとして名前付けただけだろって、アリスマジで落ち着けって!」
「一辺アリスに刺されるといい。皆の壁ドンの恨みも含めて」
「意味わかんねえって! 頼むからアリス話を聞いてくれ!」
私は何とか頭を冷やし、ショーゴの話を聞くことにした。
「えーっと、つまりショーゴは南西にいて酒呑童子を討伐した後にその子が現れて、ショーゴのペットになるってなったってこと?」
「まっまぁ大体そういう感じだ…ぜぇ…ぜぇ…」
「父上を倒した者の中で、主様が良いと思ったのでな。眷属にしてと頼んだのじゃ」
「その他の人は何かもらったりしたの?」
「あぁ。一人は酒呑童子から童子切安綱を貰ってたな」
「ってことはたぶんMVP報酬だと思う。そんでその子はたぶん貢献度順で相性かな?」
なるほど。
って事は、茨木童子の子供がこっちに来たのは他の方角に合わせた結果って事かな?
「それで茨木の、ぬしはどうしたのじゃ?」
「ととさまたちを見逃して貰うために僕が人質になりました!」
「おいっ! まだそうするとは決まってねえだろ!」
子の発言を聞き、遠くで茨木童子が異議を唱えている。
「と、答えておるが、実際はどうなのじゃ?」
「まぁ今落としどころを探しているところなんだよね…。でも酒呑童子の娘である君が無事って事もわかったし、条件をある程度下げれるかなって」
「んっ? ならば茨木のも一緒に妾たちとおればよいではないか。主様も含め、異邦人は優しいから心配せずともよいぞ。それにこの者たちの様子から、一緒にいさせてもらえる相手は茨木のに選ばせてもらえるだろうしのぉ」
「たっ確かに僕が人間たちと行くとなれば、より確実にととさまたちは見逃してもらえます!」
「うむ。そうなればぬしが良いと思える者を探すといいぞ」
「はいっ!」
遠くで茨木童子が色々と騒いでいるが…これは大丈夫なのだろうか…?
ルカが茨木童子の子を解放すると、歩き回って私たちをじっと見つめる。
そして「うんっ!」と頷き、ルカの前へと来た。
「この人間がいいです!」
「そうかそうか。なら妾からも頼む、そやつを眷属してやってくれんか? その代わり茨木たちは見逃してやってくれ」
「えーっと…」
流石の展開にルカも困惑しているようだ。
親である茨木童子は姫が言う事だからか、半ば諦めて項垂れていた。
うん…後で励ましておこう…。
しばらく茨木童子の子とルカが話し、ルカが根負けしたのかペットにする事に決めた。
名前は和風にするかアレニアたちと同じようにカタカナにするかかなり迷った結果、ローザとなった。
ルカ曰く、ローザは茨木童子の茨から付けたとの事で、これなら違和感がないだろうという考えらしい。
「と、いうわけで貴方の子供はルカが預かる形になりました…アハハ…」
「姫さんが言ったなら仕方ないからねぇ…。あいつを頼む」
「んっ、任された。ちゃんと可愛がる」
「茨木よ、安心せい。妾もついておるからのぉ」
「…ともかく頼んだからねぇ」
朱天が胸を張るが、茨木童子はそっと顔を反らして私に頭を下げる。
うん、ちゃんと私も面倒見るから。
「そうだ。君にも何か渡しておかないといけないねぇ」
すると茨木童子は袖の中から一本の刀を取り出して私に渡す。
「これは?」
「俺らを襲ってきた人間を返り討ちにした時に手に入れた刀だ。見逃し料とでも思ってくれ」
「はぁ…」
えーっと…これがMVP報酬ということなのだろうか…?
髭切(太刀)【装備品】
ATK+62
追加効果:鬼特攻(大)
名前は…髭切り?
変わった名前の武器だなぁ。
効果は鬼特効って…またまたピンポイントな武器な事で…。
ただ大きい分攻撃力は高いっぽいね。
「では茨木よ、山の事は任せたぞ」
「畏まりましたよっと。んで姫さん、他の方角のやつらはどうなってんだ?」
「うむ。それなら逃げる時はこっちに来いと送っておいたぞ。恐らくそろそろ来る頃であろう」
朱天がそう言うと、ぞろぞろと負傷した鬼がやってきた。
その傷の様子からかなり激しい戦いがあったのだと理解した。
集合した残存戦力の鬼たちは、茨木童子の指示の元、移動を開始した。
元居た山へと帰るらしい。
ただ、指揮官クラスが茨木童子しかいない事から他の鬼たちは全員討ち取られたのだろう。
去り際に私たちを睨みつける鬼たちもいたが、仕方のない事だろう。
とはいえ、太刀の件で茨木童子の話した話を信じるとするならば、先に手を出したのは人間たちという事になる。
ただ、それを返り討ちにした結果、鬼たちが団結して国を落としたという事なのだから恐ろしいものだ。
しかし、その話がどうなのかはその場にいない私たちには探る手段はない。
だが少しだが茨木童子と話したところ、本当に悪い鬼だとは思えなかった。
政治的な問題や色々な問題があったのかもしれないが、どこか歩み寄れたのではないか、と私はふと思った。
まぁ今はそんな事はともかく。
「ふぅ…やっと一息つける…」
私は疲労感からドサッと音を立てて仰向けで地面に寝転がった。
お待たせいたしました。
もう少しだけ締めとして続きます!
古戦場お疲れ様でした。8万位ボーダーですらマジやばくね?(真顔




