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Nostalgia world online  作者: naginagi
第五章
279/370

百鬼夜行⑭

 カルディアのおかげで茨木童子の能力はわかった。

 だがその代わりにカルディアが犠牲になってしまった。

 その事でルカは少なくないショックを受けているだろう。

 私だってレヴィがやられてしまった時はかなりショックを受けたし、仕方ない事だと思っている。

 だがルカは…。


「カルディアのおかげで、大体の能力はわかった…」

「大体…? HP吸収以外にも何かあるの?」

「んっ…。いくらカルディアの耐性が低いといっても、一撃で倒しきれるとは思えない。となると、茨木童子が完全カウンター型だとすると、一つその答えが出てくる」

「それは…?」

「ダメージを受けた分を自分の攻撃力や与えるダメージに上乗せする能力。所謂ダメージカウンター」


 ってことは、HP吸収とダメージカウンターの二つのカウンター能力を持っているという事になるのか。

 そしてダメージカウンターを使う場合は右腕に炎を纏う。

 それに注意すれば今まで以上のダメージは喰らわないって事か。


「恐らく条件は、HP吸収同様に一分以内に受けたダメージを回復しないで発動とかが妥当なはず。さっき皆の攻撃でだいぶHPを削ったからそれで威力がかなり高くなったと思う」


 カルディアの事で無茶をするかと思ったけど、冷静に分析しているところを見ると絶対に茨木童子を倒すという事の表れなんだろう。

 実際、ルカの分析に茨木童子も驚いている。


「まさかあの一回でそこまで分析されるとは思っていなかったなぁ…」

「対処法が分かった以上、出血を狙わない攻撃で仕留める…!」


 ルカが弓を構えるのと同時に、私たちも臨戦態勢を取る。

 だが一人、別の方角を見て舌打ちをした人がいた。


「っち…こんな時に余計な事を…」


 トアさんが以前見せたような怒気を少し漏らしていた。

 茨木童子もその様子に疑問を持ったのか、トアさんがよそ見をしていたにも関わらずじっとしていた。


「…お嬢様、申し訳ありません。残りのメンバーの戦況が芳しくないようなのでその援護に行きたいと思うのですが、許可いただけませんか?」

「それは…」


 いくら対処法が分かったとは言え、ここでトアさんが抜けるのは痛い。

 だがトアさんの様子から、対処しなくてはいけない案件なんだろう。

 私は意を決して答える。


「…わかった。ここは私たちで何とかするからお願い」

「畏まりました。早めに戻ります」


 そう言ってトアさんが移動を開始した。


「よかったのか? 彼女を行かせて」

「そう言って見逃したのは貴方でしょ?」

「ふっ…。あんなあからさまな嘘を付く必要がある程の案件なんだろう。だが困るのはそちらだろう? 一人減ってしまったからねぇ」

「お気遣いどうも…っ!」


 茨木童子の発言から、戦況が芳しくないといった事はないだろう。

 となると、緊急な要件がトアさんに伝えられたという事になる。

 一体何が…?



 ---------------------------------------------------------------



 先程リーネさんから連絡が来て驚いた。

 ラグナロクがギルド単位でこちらに向かっているという。

 まさか南西に酒呑童子が現れて、それに勝てないからといって人数が少ないこの北東にやつらが押し寄せてくるとは思わなかった。


「ホントにあいつらは…」


 しかも脳筋のやつらがカウンター型の茨木童子と戦ったところで、HPを吸収されてジリ貧するに決まっている。

 そうなればせっかくお嬢様たちが削ったHPも無駄になってしまう。

 それだけは阻止しなくてはならない。

 邪魔はさせないにしても、せめて他の方角に向かわせないと。


 今も他の方角は激戦を繰り広げているという。

 特に東西南北には星熊童子等の四天王が各方角に来ているというため、人では多いに越した事はないという。

 しかも厄介な能力は持っていないとのことだ。

 だったら脳筋のあいつらが行ったところでそこまで妨害にはならないだろう。

 いや、むしろ盾役になれ。


 しばらく街方面へ向かって森を進んでいると、全身黒塗りの鎧を着けた集団を見つけた。


「止まりなさい」


 私はやつらの先頭の目の前の地面にナイフを投げる。


「何しやがるっ!」

「貴方たちがこの方角のボスと戦っても能力の関係上邪魔にしかならないため、他の方角へ行くようにお願いしに来ました」

「ふざけんなっ!」


 ラグナロクの面々は轟々に声を荒げる。

 正直ストレスが溜まって仕方ない。

 一時とは言え、こんな奴ら(・・・・・)と同じだったかと思うと…。


「もう一度だけ警告します。他の方角へ行ってください」

「んな事知るかっ! おめぇら! あんな女無視していくぞっ!」

「…たくっ…本当に面倒な…」


 私は仕掛けていた魔法を解除させ、先頭の男に複数のナイフが襲い掛かる。

 私に気を取られていた先頭の男はナイフに気付かず、そのままナイフによって針山にされ粒子となって消える。


「なっ…!?」

「言ったでしょう? 警告だと…」

「テメェ! こんな時にPKなんて何考えてやがる!」

「貴方たちが行ってトロールをされるよりはマシです。実際この戦闘には住人の生死が掛かっていますからね。迷惑行為よりも住人の安全性を優先しているだけです」

「住人だぁ? たかがNPCがどうなろうと関係ねえだろ!」

「…はぁ…」


 ホント溜め息しか出ない。

 もし防衛失敗したらこちらに来た時にどこを拠点にしろと言うのだろうか。

 こいつらは目先のイベント報酬にしか目が行っていない。

 だから後の事なんて考えていない。

 レアアイテムを手に入れてウロボロスを見返す、といった事しか考えていないのだろう。

 本当に困ったやつらだ。


「もういいです。貴方たちはそのまま死に戻りして街で大人しくしていなさい」

「はんっ! リーダーは奇襲でやられたが、この人数をお前一人で何とかできるもんかっ! その前に運営に迷惑行為で通報してやるっ!」

「おいおいそんなつれない事言うなよ」

「やっと来ましたか…」


 私の側に数人、黒いローブを被ったプレイヤーが現れた。


「いやーホントにお前の予想通りだったなー」

「当たってほしくはなかったんですけどね…」

「だっ誰だお前らはっ!」

「あぁん?」


 私に声を掛けた男はニヤリと笑みを浮かべ、黒いローブを外す。


「俺はPKギルド『七つの大罪』強欲担当のアワリティアだ。さぁテメェら、楽しい楽しいPKをしようじゃねえかっ!」

「あんまりはしゃがないでください。ですが早いところ終わらせて戻りたいので、こちらもスイッチ入れますが…」

「ハハッ。久々に【冷徹】が本気になるか。これだからPKはやめられねえなぁ」

「無駄口叩くな、殺すぞ」

「っと、もう『入った』か。んじゃ無駄話はやめて殺り合おうかっ!」


 こうして、人知れずにギルド『ラグナロク』とアワリティア率いる『七つの大罪』残党、そして【冷徹】が激突した。

まさかトアさんが件の【冷徹】だったなんて(´・ω・`)(棒読み

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