百鬼夜行⑬
茨木童子を探していると、先程戦った場所から動いておらず、隆起させた土壁を適当な高さにして腰を掛けていた。
「おや、やっと戻ってきたか」
私に気付いた茨木童子が声を掛け、腰を上げる。
見たところ、アリカが与えたダメージは回復していないようだ。
「にしても随分増えたねぇ」
茨木童子は周りを見て人数を確認する。
だがその数を確認しても全く動じず、むしろ楽しそうに笑みを浮かべる。
「それに君みたいな子も増えるとはねぇ。まーたやりにくくなっちまうよ」
恐らくルカと海花の事を言っているのだろう。
トアさんは…たぶん茨木童子の中では違うのだろう。
「まぁ俺の部下もだいぶ減ってるし、さっさと片付けて街へと攻め込むとするかぁ!」
「っ! 皆っ! 来るよ!」
私の掛け声とともに、討伐隊は散開する。
茨木童子相手では盾持ちは逆に動きにくくなるため、あえて外してある。
なので主に攻撃を受け止めるのは腕に覚えがある近接職だ。
「くっ!」
初撃は私が受け止め、後は臨機応変に対応してもらう。
正直こういう形でしか対応できないからだ。
「『ポイズンショット』!」
「エィメンっ!」
私が右の突きを刀で受け止めたと同時に、ルカとファナティクスさんが側面から攻撃を行う。
「ぬるいっ!」
だが茨木童子は私を蹴り飛ばした後矢を左手で掴み取り、そのままファナティクスさんを裏拳で殴る。
「ぐぬぅっ!」
「隙ありですわっ!」
ファナティクスさんへの裏拳でできた硬直に海花が鉄線を操って左腕を縛る。
「今ですっ!」
セルトさんの合図で海花のファンたちは魔法で攻撃する。
「ふんっ!」
「えっ嘘っ!? きゃぁっ!」
「海花様っ!」
左腕を鉄線で縛って動きを止めさせていた海花が、茨木童子に引っ張られるように振り回されて魔法の前に持ってこられる。
咄嗟に海花が鉄線を解き、トアさんが海花を助けてくれたので間一髪魔法は海花に当たらずに済んだが、有効打となる魔法は茨木童子には入らなかった。
「なるほど、これは確かに厄介ですね」
「あ…危なかったわ…。トアさんありがとう…」
だがここで手を止めてはいけない。
私が前で出るのと同時にルカが射撃を、首狩り教が一撃離脱で剣を振っていく。
流石に全てに対処できず、二人程の攻撃は掠った。
とはいえ、一度の攻撃で今攻撃した半分近くがカウンターでダメージを喰らってしまう以上、どうにか隙を作らないといけない。
今は魔法による遠距離攻撃で動きを止めるようにしながら少量ずつのダメージを与えているが、いつ前に出てくるかが読めない。
しかし、少量とはいえHPが減ってるにも関わらず茨木童子はHPを吸収しようとしない。
茨木童子による攻撃で言えば首狩り教へのダメージがあるため、ダメージ量に応じた吸収ならしているはずなのだ。
じゃあ攻撃によるダメージ量は関係ない…?
そうなると、ルカの予想したHP吸収の条件の接触にしても、さっきから何度も接触はしている。
となると残りは受けたダメージに応じたHP吸収ということになるが…。
「うっとおしいわっ!」
「っ!?」
突然茨木童子が地面を殴り、衝撃で迫ってきた魔法を弾き飛ばす。
私はここで後衛が崩されてはまずいと思って茨木童子へと斬り込む。
あちらも土煙で私の姿を見失ったのか、一気に接近することができた。
「はぁぁぁぁっ!」
「くそっ!」
身体に一閃入れることができ、刀にいくらか血が付いたが、さっきよりは結構ダメージを与えたのではないだろうか。
「今だっ! 殺れぇ!」
「はっ!」
茨木童子がのけぞった隙を突いて、首狩り教が真上と四方から一斉に斬りかかる。
「がぁぁぁぁっ!」
「ぬぅっ!?」
だが、茨木童子の突然の怒号で衝撃波が発生し、ファナティクスさん以外の首狩り教は吹き飛ばされてしまい、私もその衝撃波に耐えるしかなかった。
「ぬぁぁぁぁぁっ!」
「何ぃっ!?」
茨木童子も全員吹き飛ばせると思ったのか、吹き飛ばずに上から迫ってくるファナティクスさんに驚愕する。
「はぁぁぁっ!」
「ぐっ!」
ファナティクスさんの剣先が茨木童子の左肩に突き刺さる。
そのせいか、ファナティクスさんに返り血がべっとりと付いている。
ファナティクスさんは突き刺した剣を手放して離れ、違う剣を取り出して構える。
「くそがぁぁぁっ!」
茨木童子は激怒し、左肩に刺さった剣を投げ捨てる。
そして右手を私…ではなくファナティクスさんへと向ける。
その瞬間、大きな声がこの一帯に響き渡る。
「そいつのHP吸収の条件がわかったっ! そいつはっ!?」
私たちが声の元であるカルディアへと意識を向けた瞬間と同時に、茨木童子は右腕を炎で包みカルディアの方へと凄い勢いで飛んでいた。
「「カルディアっ!」」
私とルカが反応するも、今からではカルディアを庇う距離にいけない。
だがカルディアは何かを察していたのか、助けを求めるわけでもなく、そのまま言葉を続けた。
「そいつは一分以内に自分の血を浴びた量に応じてHPを吸しゅっ!?」
「覚風情ががなるなっ!」
「がっ…ぁ…」
「カルディアァァァっ!」
ルカの悲鳴とともにカルディアは炎に包まれ、そのまま粒子となって消えた。
茨木童子は右腕の炎を消し、こちらを向く。
「まさか覚が仲間とは思っていなかったな」
ルカは涙目になりながら茨木童子を睨んでいる。
しかし、いくらカルディアの耐久力が低いとしても、まさか一撃とは思ってもいなかった。
となると後衛職はあの炎を纏った攻撃は喰らったらアウトという事だ…。
「ルカ…悔しいのはわかるけど少し落ち着いて…」
「ぐすっ…んっ…わかってる…。カルディアが必死になって手に入れた情報…無駄にしたくない…」
「うん…だから絶対勝とう…!」
「絶対勝つ…っ!」
ここからが正念場だっ!
戦闘シーン難しい…難しくない…?(白目




