百鬼夜行⑫
「一先ずこれぐらい離れれば平気でしょうね」
「ありがと、アリカ」
私はアリカに抱えられて茨木童子からある程度の距離を取ったところで降ろしてもらった。
「にしても流石に魔法も使うと消費が激しいわね。MP回復するまで一旦消えるわね」
そう言ってアリカは消え、私はHPとMPを回復させることに専念する。
それとお腹にもろに突きを喰らったため、打撲の状態異常が出ていた。
私も割とSTRある方だと思ったのだが、その私でこれだ。
ただの魔法職だったら一溜まりもないだろう。
「アリスっ!」
「お姉様っ!」
木に身体を預けて少し休んでいると、ルカと海花が近付いてきた。
「二人とも敵は?」
「半数を殺ったぐらいから集まりだして、陣を作り始めた。だからこっちも迂闊に攻められないから遠距離で削ってるところ」
「それよりも茨木童子と戦ってるってどういうことですか!? 何で一人でそんな無茶を!」
「まぁそれは流れというかなんというか…」
引くに引けなかったからねぇ…。
「それよりも茨木童子の情報を言うね」
私だけじゃ解けないあの能力も、ルカたちなら何か対抗手段を思いつくだろう。
私は知る限りの茨木童子の情報を二人に伝える。
「HP吸収ですか…」
「少なくても何かしらの条件が必要なはず。右手を翳した以外に何か不思議な点は?」
「私がHPを吸収されたのは一回で、攻撃を当てたのは計三回ってところぐらいかなぁ…」
最初のすれ違い際の掠り傷、突っ込んできたところにカウンターで一発、そして攻撃を喰らったところでのアリカの攻撃。
少なくても三回目のアリカの攻撃については、右手を翳す前に私たちが撤退したから吸えなかった可能性は高い。
だけどそれだったら一回目の掠り傷の時はそこまで距離が空いていたわけでもなかった。
でもほんの少しだがダメージは受けた。
にも関わらずHPを吸わなかった。
いや、吸う必要がなかったから?
「今のアリスの説明で考えられるのは三通り。一つ目は喰らったダメージに応じてHPを吸収。二つ目は茨木童子が与えたダメージに応じてHPを吸収。三つ目は茨木童子に接触した回数や面積に応じてHPを吸収」
「その三つ目はどういう意味なの?」
「簡単に言えば、鍔迫り合いも端的に言えば茨木童子自身との接触に入る。その回数や、殴られたとか斬ったとかの茨木童子自身への接触具合によってHPを吸収できる、といったこと」
「でももしその秘密が一つ目の喰らったダメージに応じて吸収だったら倒せないんじゃないかしら?」
確かに喰らったダメージに応じて回復されていたんじゃ倒し切れないだろう。
それがもし現HPの9割までといった事だったらまぁ数を熟せば倒せるかもしれないが、実際私のHPを吸収した時は茨木童子のHPは全快していた。
つまり倒し切れないという事になってしまう。
「んっ。だから何かしらの種があるはず。ミラだってHPを吸収するには対象から直接吸ったりしている。何の条件もなしにそういった事はできないはず。でもここの運営の事、きっと何かしらの伝承が影響しているはず…茨木童子の伝承は…えーっと…」
ルカはぶつぶつと考え始める。
「ですがそうなるとあまり数が多くても逆にHPを吸収されかねませんね。もしくは右手を翳す暇がないぐらい攻め続けるか、といったところですかね?」
「でも大ボス級だからどうしても人数は必要だよね?」
「そうなると精鋭部隊で攻めるのが最善策ですかねぇ…」
精鋭ってなると、私たち三人にトアさん、首狩り教古参組、後は海花のファンの上位陣ってところかな?
「人数はどれぐらい?」
「首狩り教とあたしのファンの中から五人ずつで二PTぐらいがちょうどいいかなと。あまりこちらに人数を割いてしまうと残りの鬼たちの殲滅に支障がでますし」
「わかった。じゃあその旨をトアさんと首狩り教と海花のファンに伝えて」
「わかりました。その間にお姉様は休んでいてください」
私はお言葉に甘えて休ませてもらう。
正直結構疲れた。
しばらくすると、トアさんやファナティクスさん率いる首狩り教とセルトさん率いる海花のファンたちがやってきた。
この十四人でPT編成を行い、先程いなかった人たちに私が知りえた情報を話す。
何故か話している最中に首狩り教が私を絶賛しているのだが…何故だ…。
そして説明を終えると同時に、思考していたルカが少ししょんぼりとしながら謝ってきた。
「アリス、ごめん…。HP吸収の逸話に繋がりそうな話思い出せなかった…」
「そんな落ち込まなくていいのに…」
「ただ茨木童子には腕を斬られた事と、血を飲むのが止められなくなって相手を傷付けてその血を飲むっていうのはあるんだけど、アリスの話からあまり関係ないかなって…」
血を飲む…かぁ…。
動作を見る限りそんな素振りは見えなかったけど…。
となると腕を斬られた方の話に…。
いや、ボス級だから腕斬れないからそこは関係ないか…。
ともかく、右腕を翳したらその正面にいる人は距離を取るようには言っておいたけど、その種がわからないと正直攻め切れなさそうだなぁ…。
「そういう時こそあたしを使えばいいじゃない」
「カルディア?」
すっとルカの後ろから現れたカルディアが私に意見をする。
「ようはその秘密を読み取ればいいんでしょ? 流石に格上から意識してない事は難しいけど、話術でもなんでもいいからその秘密を意識するような事をしてくれればもしかしたら読めるかもしれないわ」
「でもカルディアは耐久力低いから、もし狙われたら…」
「別に死ぬわけでもないし、鬼の頭目クラスが出てきた以上出し惜しみしている場合じゃないでしょ」
ルカがカルディアの心配をするが、カルディアはそんな事より倒す事を優先しろといって聞かない。
かく言う私も心配なのだが、大抵ペットがこう言った時は梃子でも動かない。
本当にペットは頑固なのが多い事で…。
私もチラッとレヴィを見ると、レヴィも顔を反らしてしまう。
うん、心当たりあるもんね。
「でもカルディア、ルカが心配な事はわかってあげてね?」
「そんなの…わかってるわよ…」
カルディアももっとルカの役に立ちたいのだろう。
ただそれを心配する飼い主もいるって事はちゃんとわかってほしいんだ。
「さて、あまり時間を空けて茨木童子が森を突破するとも限らないから行動するとしようか」
私の号令とともに、茨木童子討伐PTが動き出した。
さぁリベンジだ!
この感じ的に数話で締めるの諦めた(白目




