百鬼夜行⑥
「そんで作戦はどうすんだ?」
敵の投石機を破壊するために移動している中、ショーゴが私に問い掛ける。
「少なくても石を飛ばしてるって事は、装置としてはそこまで複雑じゃないと思う。だから石を運ぶ敵と、飛距離を伸ばす敵のどちらかを叩けば少なくとも動きは止まると思う」
「となると、範囲攻撃がいいって事ですかね?」
私に背負われているクルルがしがみつきながら聞いてくる。
「まぁ範囲で攻撃してもいいし、乱戦に持ち込んで撃たせなくするでもいいと思うよ。ただ、こっちは数は少ないから投石機を全部壊したら撤退でいいと思うけどね」
ショーゴたちが援軍に来てくれたけど、数はそこまで多くないからね。
「まぁ俺ら高機動組は初撃で敵を崩せばいいしな」
ショーゴの言う通り、私のように高いAGI組は背負える魔法職を背負って移動しているのだ。
ガウルのような重くてAGIの低いプレイヤーは大きくなったレヴィや、ショーゴと一緒に来た援軍のプレイヤーの大型ペットに乗って移動している。
「アルト! どっちが多く投石機壊せるか勝負だからな!」
「ノイ…少しは空気を読んでください…。そんなんだから貴女は残念美人と言われるんですよ…?」
「何をぉー!」
アルトさんについてきたというノイさんは先程からアルトさんに勝負を挑んでいるが、アルトさんはそんな事に興味がないのか、軽くあしらっている。
いや、あしらっているというより呆れているといった方がいいのだろうか…?
私がアルトさんたちの方を見ていることに気付いたのか、アルトさんが申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「アリスさんすいません…」
「いっいえ…。えーっと…アルトさんとノイさんって仲が…いいんですね…アハハ…」
「もう子供の頃からの付き合いで…。彼女は昔から何かと私と競いたがって…別に私はそういったのはあまり興味がないのでノイの勝ちでいいと言っているのですが…」
「そんな風に勝ちを譲られたって嬉しくないぞっ! 私は実力でアルトに勝ちたいんだ!」
「…とまぁこんな感じで…」
「アハハ…」
大変そうだなぁ…。
リンがノイさんみたいな感じじゃなくてよかった…。
「話してるところ悪いが、だいぶ近付いてきたぞ」
っと、もうそんなに近付いてたんだ。
じゃあ私は奇襲の意味でちょっと別方向から攻めようかな。
「クルル、ちょっとミラ支えててね。その後降ろすからネウラに連れてってもらってね」
「えっ? はいっ!?」
私はミラを呼んで少し血を吸うように指示をする。
ミラも私の考えを読んでくれたのか、ほんの数秒大きくなるぐらいの量を吸って大きくなる。
「じゃ、皆は正面からよろしくね」
「行きますよ、ご主人様ぁっ!」
「へっ? って、はぁっ!?」
私はネウラを呼び出し、クルルのことを頼んで降ろした後、大きくなったミラに思いっきり空中に吹っ飛ばしてもらう。
空中へ飛んだ私は、認識阻害のお面を被り気配を薄くする。
狙いは投石部隊に指示している指揮官!
私は脇差を抜き、魔法を使って位置調整をしてそのまま指揮官目掛けて突撃する。
「何の音っ!?」
正面から向かってきたショーゴたちに気付き、何かしらの反応をしようとした瞬間、上から襲撃してきた私によって指揮官は首を刎ねられる。
「なっなにもっ!?」
敵が驚愕し、固まっている間に近くの何匹かの鬼の首を返す刀で刎ねる。
「初めまして。そしてさようなら」
私はそう言って近くにいる鬼の首を次々に刎ねていった。
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「えーっと…」
「言いたい事はわかりますが、今は敵を倒すのが優先ですね…」
「なっ…!?」
「まぁお嬢様ですから」
「まぁアリスだし」
アリスの指示通り、俺らは正面から敵の投石機を中心に攻撃をしているが、敵の指揮官がいたであろう場所はアリスによって混乱している。
「なんだよあれ!? なんだよあれぇ!」
「ノイ、いいから手を動かしなさい」
「いやいや! おかしいだろっ! なんで一人であんな事できてんだよ!」
「そこはアリスさんだからとしか言えませんよ…」
アルトはノイの発言に溜息をつきながらも剣を高速で動かしつつ移動して敵の無力化を行っている。
少し離れた場所からはクルルやレオーネたちによる魔法で投石機が次々に破壊されている。
この様子だと後続が来る頃にはほぼ破壊し終わるだろう。
「くそっ! あの小娘本当に人間かっ!」
中隊長らしき鬼が混乱している兵をまとめて俺らに当てようとしているが、指揮官がやられたためかあまり統率は取れていないようだ。
なら俺はその中隊長や指揮を取ろうとしているやつを倒すだけだ!
「ふっ!」
「がっ!?」
さすがに俺は切断持ちじゃねえから一撃ってわけにはいかねえが、オーガ程度ならそこまで時間は掛からねえ。
混乱している内に数を減らすっ!
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「がっ…」
ふぅ、これで周辺の指揮官相当の鬼は倒しきったかな?
「アリスー!」
「あっ、ショーゴ」
「レオーネたちが最後の投石機を壊したからさっさと引くぞ!」
「えっ? もう?」
まだそこまで時間経ってないと思うんだけど?
「数としては20もないぐらいだったらしいし、木製だったせいかレオーネの魔法とかで割と壊れやすかったんだよ。つかお前が指揮官潰したおかげで抵抗らしい抵抗がほぼなかったしな」
「そっか。じゃあ引こっか」
「お前以外はもう移動開始してるっての! ほら行くぞ!」
「うんっ!」
私はショーゴの後ろを追いかけて森へと向かう。
途中ネウラとミラを回収し、ネウラに預けていたクルルを背負って移動する。
「てかこれ俺ら必要なかったんじゃね…?」
「何だかアリスさん一人でほぼ事足りてましたね…」
「まっまぁ皆様のおかげで投石機の破壊がスムーズに行えましたので…」
「んっ、私たち三人だけじゃもっと時間掛かってた。その分街に被害出てた」
ルカの言う通り、さすがに私たち三人だけじゃ全く人手が足りなくて時間が掛かってたよね。
「えっと、皆ありがと」
「お、おう…」
「正直お礼を言われる程の働きをしたかというと…」
「【首狩り姫】やべえってやべえって…! 第一陣ってこんなのばっかりなの…!?」
「あー…ノイさん、そう落ち込まなくてもいいと思いますよー…」
何故か驚愕しているノイさんにクルルが声を掛けている。
「そうですよ、ノイ。この程度で驚いていてはアリスさんと一緒にいれませんよ」
「まぁ確かになぁ…」
「ですがそのギャップがいいのです」
「初対面の相手に対してもこれ。さすアリ」
えーっと…これってフォローしてるの?
「いやいやっ! アルトたち絶対感覚麻痺してるって! 普通に考えておかしいだろっ!」
「「まぁアリスだし」」
「「アリスさんですし」」
「お嬢様ですし」
…なんだろうこの一体感は…。
褒められて…ないよね、絶対。
ノイさんなんて口開けて唖然としながら走ってるもん。
「まぁともかく敵投石機は壊したから一先ずは安心だな」
「そうですね。ですが私は少し休みたいです」
「私は運んでもらっているのでそこまで疲れては…」
「私はアリスに抱き着けば回復する」
「いやまぁ抱き着くぐらいいいけどさ…」
ルカの回復方法が本当にわからない…。
てかノイさん今度は黙ったけどどうしたのかな?
「ノイさん?」
「…い…」
「んっ?」
「お前ら絶対おかしいよーっ!」
ノイさんの絶叫とともに、私たちは森へと帰還を果たした。
戦力が足らないとは一体…。




