百鬼夜行⑤
「そろそろ深夜一時頃かぁ…」
トアさんにほぼ強制的に休息を取らされた私は、動きがあるであろう深夜一時前に起こしてもらうようお願いした。
一応寝ている間に動きがあったら起こしてとは言っていたが、なかったという事はそういった動きはなかったのだろう。
「お姉様、起きたのですか?」
「そういう海花は?」
「少し気持ちが昂っていまして…あまり寝れませんでした」
「海花たちは特に動いたんだからもう少し休んでていいんだよ?」
実際海花や首狩り教はかなり動いてたからね。
「でっでは…少し抱き締めさせてください…」
「まぁ…いいけど…」
私が許可すると、海花は後ろからそっと抱き着いてきた。
これが疲労回復に役立っているのかはわからないが、何故か海花の息が荒くなっている気がするのは気のせいだろうか。
「…何してんの」
「っち…」
するとルカが現れ、少し不機嫌そうな顔を見せる。
てか海花、今舌打ちした?
「あら起きたの?」
「何でアリスに抱き着いてるの」
「お姉様がいいっていうから抱き着いてるだけよ?」
「なら私も抱き着く。アリス、いい?」
「まぁいいけど…」
私が許可すると、今度はルカが正面から抱き着いてきた。
一体何が何やら…。
「……」
「カルディア?」
「何でもないわ」
ルカと一緒に来たらしいカルディアが私たちをじっと見た後、そのまま私たちの横で周りを眺め始めた。
「貴女も大変ね」
「えっと…それはどういう意味で…?」
「…鈍感」
「えっ? って、カルディア!?」
カルディアは私に一言言うと、そのまま森の中へと入っていった。
てかどういう意味で言ったの!?
ちょっとー!
「ふぅ…」
ようやく二人に解放された私は一人木の上で待機する。
司令部の連絡からもまだ敵の姿は見えていないっていうし、こっちもルカの仕掛けた警報に反応はない。
私の取り越し苦労だったかな?
いやまぁ取り越し苦労だったらいいんだけどね?
「お嬢様」
「トアさん。どうかした?」
「いえ、お嬢様のお姿が見当たらなかったので探しにきただけです」
「ごめんごめん。ちょっと動きたかっただけだから」
「…本当にそれならよいのですが」
「アハハ…」
どうやら私が見張りをしていたのはトアさんにはバレバレだったようだ。
「まぁそういう事にしておきましょう」
トアさんは小さくため息をついてそのまま私の横へと移動する。
「休む前も言いましたが、上はもっとどっしりと構えていてください」
「そう言われてもねぇー…。私としては動く方が性にあってて…」
「そこはわかってますが、そういったのは時と場合を考えてですね…」
トアさんのプチ説教が始まったと思って苦笑していると、空に何か赤く光った物が通り過ぎていった。
そしてしばらくすると、何かに当たったような大きな音が聞こえてきた。
「今のは!?」
「わかりません。ですが敵の攻撃であるのは確実ですね」
すると次々に赤く光った物が私たちの上を通り過ぎていった。
その何かが通り過ぎた後には、必ず大きな音が聞こえてくる。
「…司令部から報告です! どうやらあの赤く光ったものは火を纏った大きな石のようです! それが街の至る箇所に飛ばされてきているようです!」
「石…? ってまさか!?」
「はい…。恐らく敵は投石機を使って攻撃しています!」
投石機なんてもの鬼たちがどこで手に入れ…!
「まさか落とした国から奪った…!?」
「その可能性が高いですね…。現在各方角の防衛部隊が迎撃をしていますが、中にはただの石も混じっていて、この暗さでは暗視持ちで且つ遠距離攻撃ができるプレイヤーでないと対応しきれていないとの事です」
「敵の投石機の場所はどこ!?」
「飛んできている方角から恐らく北東…この森の先だろうとの事です!」
やられた…!
本来は森を制圧してそこから投石機を使う予定だったのだろうが、制圧できないため仕方なく森の外側から使っているのだろう。
後詰めが来なかったと思ったらそういう事だったのか…!
「トアさん、この森の防衛を考えると投石機の破壊に回せる人数はどれぐらい?」
「難しいですね…。少なくても首狩り教は敵を混乱させる上で防衛には必須です。しかし、海花様たちを出してしまうと復帰した際のデスペナルティの関係上、あまり外に出すことは好ましくありません。となると私、お嬢様、ルカお嬢様といった少数精鋭といった形になってしまうかと…」
「そっか…」
人数を少なくした結果故の弊害といったところか。
確かに遊撃部隊としては活動は可能であっただろう。
だが今回の場合、森に敵がまた来る可能性もあり、尚且つ敵部隊を撃破しないといけないため、どちらにもある程度の戦力は必要である。
しかし、その戦力が今の私たちでは足りない…。
「司令部に部隊要請は?」
「していますが…この地点に到着まで少なくても三十分は掛かるとのことです…。少なくても到着した部隊にここを守ってもらい、交代で首狩り教と海花様を動かせば恐らく投石部隊の排除は可能だと思いますが…」
三十分…。
飛んでる数からしてそこまで多くはないと思うのだが、火の付いた石を投げているというがその灯りが遠くの方で薄っすらとしか見えない。
となると、魔法か何かを使ったかなり遠くまで飛ばせる投石機なのだろう。
だがその三十分と移動時間を考えて最短で一時間。
その間にどれだけ街の被害を減らせるか…。
どうするべきか…。
「全く、そういう時は素直に『助けて』って言えばいいんだよ」
私たちが悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声に私は咄嗟に振り向く。
「敵の後詰めが来ないって聞いてな。丑三つ時に合わせて移動してきたんだが、タイミングがよかったようだな」
「しょっ…ショーゴ!」
「よっ。ついでに俺らみたいな少数パーティだが何組か一緒にいるぞ。これでどうだ? 足りるか?」
ショーゴの周りを見ると、私はあまり見覚えはないが何組かのパーティがいた。
人数にして大体5~6人パーティが6程だろうか、三十人程いた。
「ちなみに私もいますよ」
そう言って姿を現したのはアルトさんだった。
「ショーゴさんが嫌な予感がするっていうんでついてきたんですが、正解でしたね。まぁ遠距離攻撃できない私は夜戦には不向きですからね。しばらく離れていても問題ないでしょう。まぁ…ただ一人余計なのまでついてきてしまったのですが…」
「えっ?」
「こらアルトォォォォ! 私を置いてくなぁぁぁぁ!」
アルトさんを追いかけてきたのか、後ろから栗色のポニーテール姿のアルトさんとよく似た防具を付けた女性が現れた。
「ノイ…急ぐから早くと言ったじゃないですか…」
「アルトは第一陣だからAGIが私より高いじゃないか! ずるいぞ!」
「そんなことを言われましても…」
えーっと…。
「って! アルトアルト! あれが噂の【首狩り姫】か!? めっちゃ可愛いじゃん!」
「はぁ…少し静かにしてください…今は一時を争うんですから…」
アルトさんが大きくため息をつくが、ノイと呼ばれた女性は興奮していて全くアルトさんの話を聞いていない。
「まぁ援軍はこんなところだが、戦力は十分だと思うぞ?」
「ショーゴ…」
「ほら呆けてねえで行くぞ。街、守るんだろ?」
「うっうんっ!」
「アリス、準備できてるから行けるよ」
気が付くとルカが近くにいて、その表情はなんだか嬉しそうだった。
「じゃあ出撃します。目標は敵投石機! 一機たりとも残さず破壊するよ!」
「「「「おうっ!」」」」
そうして私たち約三十余名は敵投石機を破壊するために出撃した。




