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Nostalgia world online  作者: naginagi
第五章
265/370

百鬼夜行①

 イベントマップにて最終チェックをしていると日は過ぎていき、ついに襲撃当日となった。

 時間は現実でのお昼の十二時スタートという事はわかっているため、その前に参加者はログインして各自配置に着く手筈となっている。

 そのため私もルカや海花たちとともに北東の森で待機している。

 そして襲撃開始の十二時になると、遠くから地響きや唸り声が聞こえてきた。

 それと同時に、生産職が作っていた信号弾が東西南北それぞれに放たれた。

 この信号弾は敵が来る方角に対して放つようにしており、私たちのように視界の悪い場所で待機しているプレイヤーたちへの知らせも兼ねている。


「一先ず私たちの方には向かって来てないっぽいね」


 私たちは木の上に乗っていつでも動けるように待機している。


「情報によると、敵の戦力は小鬼が多数、オーガが大体一割程度。数は各方角およそ1000」


 ルカが本陣から来た情報を伝える。

 プレイヤーの参加者が生産職も入れて大体20000って事を考慮すると、四方合わせて4000は処理できない数ではない。

 むしろ楽に対処できる数だ。

 東西南北は多く来る事を考えておよそ3000程のプレイヤーを配置しているし、北東を除くそれ以外の方角には残りの7000強を戦力差を考えて配置している。

 しかも私たちは死に戻りができる関係上そこまで厳しいイベントではないはず。


「恐らくこの敵は偵察部隊。こっちの戦力を知るための捨て石ってところ」

「ならあたしたちは動くべきではないですね。始まったばかりでこちらの戦力を教えるわけにはいきませんからね」

「なら皆今のうちに休んでおいて。監視は私とルカとトアさんでしておくから」


 私が指示すると、海花たちファンクラブと首狩り教は木の上に作ってある待機拠点へと移動した。

 今回のイベント用に復帰位置を決められるアイテムが各人一つ配られており、それを使用した拠点と認識された座標に死に戻りするようになっている。

 まぁ一々街からこっちに移動するにも時間掛かるもんね。

 ただ、その拠点を破壊されると街の中心に復帰するようになるため、どこに拠点を作るかも重要になっていた。


「アリス」

「ルカ、どうしたの?」

「たぶんまだそんな気を張らなくていいと思う。1000の小鬼にオーガ相手なら掛かっても二時間ぐらいだと思うし、そこから部隊編成をすると考えてまだ少し余裕はあると思う」

「ルカの読みだとこっちに来るのは何時ぐらい?」

「日が暮れてから、って思ってる。ここは森だし、昼間行くより日が落ちてからの方が奇襲しやすいから。向こうも森で構えてるなら逆に夜目は効きにくいし、それに数で押せば問題ないって思ってそう」

「ならルカ、予定通り鳴子の起動準備よろしくね」

「わかった」


 そう言ってルカは一度私たちから離れ、鳴子の起動準備をしに向かった。

 鳴子はこの森の外周に設置するように仕掛けを作っており、入ればその部分のみ音が鳴るように工夫しているらしい。

 そのため起動には少し手間が掛かっているらしく、今のようにこちらにいつ来るかわからない場合のみ起動するように仕掛けたらしい。

 なおこの装置についてはルカしか起動できないらしく、他の人には教えていないとの事だ。

 ルカ曰く、他の人に教えて変にいじられると困るかららしい。


「トアさんも休みたいなら休んでてね」

「いえ、メイドたるもの主より先に休むわけにはいきませんので、このまま見張りを続けます」

「まぁ無理しない程度にね…」

「かしこまりました」


 さて、相手はどう出るかな?

 トアさんに戦況報告をしてもらいつつ、各部隊の頭のファナティクスさんと海花も交えて手筈を確認していく。

 戦況は現在優勢で、時機に各方角の敵は殲滅できるらしい。

 そして次第に日は暮れていき、街の物見も敵の視認が難しくなってきた頃合いである。

 ルカの予測だとそろそろだね。

 休んでた人たちも既に私の近くに待機しており、いつでも動ける態勢となっていた。

 ルカが森に設置している蝋燭に火を付け終わり帰ってきてしばらくすると、ルカの設置した鳴子が大きな音を立てて森の中へと響いていく。

 それも一ヶ所ではなく、広範囲に渡って鳴り響いているようだ。


「ルカ、数は?」

「正確な数はわからない。カルディアの報告待ち。少なくとも1000以上」


 少し経つとカルディアが戻ってきて報告をする。


「お待たせ。数は3000。小鬼が2500にオーガが500。ここを前線基地として利用するつもりよ。それと前線基地が出来次第後続が来る予定よ」


 ふむ、3000か。

 敵はそこまで強くないっぽいし無茶な数ではないけど、こっちの数が数だからちょっと大変かな?


「アリス、こういう時は士気を上げるに限る」

「どうやって?」

「んっ」


 ルカはそっとコピペしてたであろうメッセージを私に送ってきた。

 えーっと何々…?

 ……。


「ルカ、これ言わなきゃだめ?」

「んっ。何ならアリカにお願いしよう」

「アリカも嫌がりそうなんだけど…」

「でもアリスの演説なら士気向上間違いなし」

「全く…」


 アリカ…ごめんね?

 私はアリカに意識を交代する。

 その際ルカに身体を預かってもらう。



「ふぅ…」

「ってことで、お願い」

「全くしかたないわねぇ…」


 ルカがあたしの横で背中で手を組んで控える。


「全員、傾注」


 ルカの発言に他の人たちも気を引き締めて姿勢を整える。


「今ルカとカルディアの報告から敵の数は3000という事がわかったわ。それに対し、あたしたちは100に満たない。普通なら勝ち目が無い戦い。でもあたしにはそうは思えない。あたしの目には勝機しか見えない」


 あたしはわざと溜め息をつく。


「そもそも舐めてるのかしらね? あたしたちに対して高々30倍の兵力で向かってくるなんて愚かにも程がある。あぁ、もしかしたら彼らはこの森にキャンプをしにきたのかもしれないわね」


 あたしの発言にメンバー一同は軽くハハハと声を出して笑う。

 そしてあたしは少し悪い顔をして話を続ける。


「だが、ここでキャンプをさせるほどあたしたちは優しくない。あたしたちはこの森では狩人で、彼らは憐れな子鹿(ジビエ)だ。そんな子鹿が安全かもわからないこの森へ入ろうとしている。これを愚かと言わずに何と言う! 国を落とした故の傲りに他ならない!」


 あたしは声を高らかにして激昂しているように続ける。


「故に国を落として傲っている彼らに思い知らせてやりなさい! あたしたちを! あたしたちという狩人を! あたしたちという敵の存在を!

 首を狩れ! 四肢をもぎ取れ! そして思い出させてやりなさい! 狩られる立場を! 恐怖を! 怖れを! 恐慌を! 狼狽を! 憂虞を! 脅威を! 悲鳴を! 鳴き声を! 叫び声を! 戦慄を! 死を!

 彼らの慟哭が聞こえなくなるまで蹂躙しなさい! 生者がいなくなるまで鏖殺しなさい! 敵にあたしたちの死の音を思い知らせてやりなさい!」


 あたしは一度声を落ち着かせ、ゆっくりと発言する。


「さぁ皆、狩りの時間よ。思う存分楽しみなさい」


 その発言に首狩り教はニヤリと笑みを浮かべ、海花たちは楽しそうに歓喜の声を上げる。

 さて、アリスもたまには暴れていいって言ったし、少しあたしも暴れさせてもらおうかしらね。

あれ?

悪者ってどっちだっけ?(すっとぼけ

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