私の飼い主は変わり者
私は覚、心を読む妖怪だ。
今はカルディアと名乗っている。
私の飼い主は凄い変わり者だ。
こんな嫌われ妖怪の私をペットにするなんて、普通あり得ない。
覚は心を読む。
つまり読まれたくない感情すら私に読まれることになる。
嬉しい事だけならまぁいいかもしれない。
でも読まれたくない感情というのは必ずあるものだ。
それを承知で私をペットにする?
これを変わり者と言わないで何というのだろう。
もう一度言う。
私の飼い主は変わり者だ。
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私に姉妹や家族は…たぶんいない。
そもそも覚えていないのだからどうしようもないだろう。
仮に「私は貴女の家族だよ」と言われても、心を読めばそれが嘘かすぐわかる。
心を読まれるとわかってまで嘘をつく者はそうそういない。というか稀だ。
だから私は今まで一人だった。
一人で森の中で過ごしていた。
たまに私に気付いて話し掛けてこようとしてくる変わり者もいたが、私が心を読めることを知ると不気味がって逃げて行った。
そう、これはわかりきっている結末。
誰もが恐れ慄く忌み嫌われた能力。
だからそんな結末になるぐらいなら私は誰とも関わらない。
関わりたくない。
もしかしたらと期待してしまうから。
私を受け入れてくれる人がいるのかと期待してしまうから。
期待した分だけ失望は大きいから。
だから私は一人でいる。
一人がいい。
そう思って森でひっそりと暮らしていた。
だがある日異変が起こった。
人間が暮らしていた国が鬼たちに襲われた。
道は逃げる人たちで一杯で、何人いるのかもわからない。
だが私は人がいればいるほどその心を否応なく読めてしまう。
いや、正確に言えば強い感情を強制的に読んでしまう。
怨み、悲しみ、恐怖、怒りといった様々な負の感情が一気に私に押し寄せてきた。
とても気持ち悪かった。
だが、これが人の本来持つ感情なのだと理解してしまった。
理解せざるを得なかった。
私は今まで住んでいた森を離れる事にした。
鬼と仲がいいわけでもないし、仲間に入れてもらいたいわけでもなかったからだ。
私はこっそりと難民の後をつけていった。
もしかしたら良い新しい住処が見つかるかもしれないと思ったからだ。
それから数日、もしかしたら数十日かもしれない。
難民たちが入った森で変な人間たちを見かけた。
私とは種族は違うが、何匹もの眷属を連れて難民を保護しているようだった。
遠くでも狙いを絞れば心は読めるから、あの人たちが邪な事を考えていない事はすぐわかった。
とはいえ、これ以上近付くと気付かれそうだ。
私はこの場を離れようとすると、一匹の蜘蛛が近寄ってきた。
「…何かしら」
蜘蛛は足を一本挙げて挨拶をする。
今私に敵意がないからといって不用心じゃないかしら。
「いいから早く戻りなさい。いつまで経っても戻らなかったら不審がられるでしょ」
私はしっしっと手を動かす。
蜘蛛は少しの間じっとしていたかと思うと、突然動き出してさっきの人のところへと戻っていった。
全くなんなんだか…。
それから翌日、昨日見た変な人の内の一人がやってきた。
その人間は蜘蛛から教えてもらったのか、私の事を呼んできた。
逃げるのもめんどくさい…というか、心を読む能力に特化しすぎて身体能力はそこまで高くない私がいつまで逃げ続けないといけないかを考えた結果、出て適当に心を読めば勝手にいなくなるだろうという判断であの人間に顔を見せた。
「アレニアから聞いた。貴女が昨日私たちを見てたって」
「だから何?」
「なんで」
「『なんで難民たちを見ていたの?』って言いたいのかしらね」
「っ!?」
まぁ普通驚くよね。
「『貴女は心が読めるの?』って言いたいのかしらね。ええそうよ。私は覚。心を読む妖怪。だから貴女の考えている事は読める」
さて、ここまで言えばさっさとどこか行くでしょう。
だがその人間は違った。
「なんで、わざと嫌われるような事言ってるの?」
「なっ!?」
私がわざと嫌われるような事を言ってるっていうの!?
そんなことない!
私は本心で言ってる!
「貴女は私と一緒。私も人と関わるのは怖い」
「一緒じゃない!」
もう頭に来た!
二度と私に関われないようにトラウマを植え付けてあげるわ!
結果的に言うと私は負けた。
いや、正確に言えば私が根負けしたと言えばいいのだろうか。
彼女のトラウマで攻撃しても彼女は折れなかった。
てか何なのあのトラウマ。
昨日見たもう一人がトラウマの一つなのに一緒にいるってどういう事なの…。
意味が分からない…。
それに…。
「なんで私を抱き締めてるのよ」
「だって離すと逃げるから」
「この周り蜘蛛の糸で覆ってるの読めてるから逃げられないってわかるでしょ!」
「でも、こうして欲しそうだった。私もこうされたいってよく思う」
「そんな事…」
ない…とは言えなかった。
彼女に抱き締められているとなんだか暖かくなってくる。
それに本心で言ってるから嫌な気分じゃない…というかむしろ心地良い。
「ねぇ」
「『私のペットにならない?』って言いたいんでしょ?」
「うん」
「…いいの…? わかってると思うけど私は心を読む嫌われ者妖怪よ? そんなのがペットだって知られたら…」
いや、彼女はそれすら承知で言っている。
彼女の不安はひしひしと伝わってくる。
こんな優しい彼女を私のせいで悲しませたくない。
それでも彼女は私を求めている、求めてくれている。
「怖いのは貴女も私も一緒。でも、きっとアリスなら…」
あのトラウマでもあり、彼女が最も信頼している人間。
彼女がそう言うなら私も信じてみたくなってくる。
「後悔…しない…?」
「貴女を一人にしてしまうよりはずっといい」
「バカな人ね…ホントに…」
そして私はカルディアという名を与えられて彼女のペットとなった。
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「で、この宴会はいつまで続くの?」
「んーお母さんたちが楽しそうだからいいと思うよ?」
「そういう問題じゃないでしょ…」
顔を赤らめて浮かれている面々の心を読んでみるが、もう何を考えているのかさっぱりといったぐらい酔っている。
てか私の飼い主も酔ってるし…。
一応飼い主のペットになった事で色々と知ったけど、あれで二十一歳とか思えないわよ。
どう見ても子供でしょ。
まぁ私も見た目は完全に子供だけどね。
でも、私が受け入れられたのが嬉しかったからあんな風に酔ってるんでしょうね。
ホント、困った飼い主ね。
私はふふっと笑って用意された飲み物を飲む。
もう一度言う。
私の飼い主は本当に変わり者だ。
でもとっても良い飼い主だ。
カルディア回!




