この二人の出会いに祝福を
「おねーちゃん、またね…」
「うん、またね」
先程まで抱き抱えていた女の子に手を振ってばいばいをする。
子供たちの親御さんたちも戻ってきたので、私たちはこの場を離れる事にした。
「もうお姉さん疲れたわぁ~…」
「アハハハハ…」
「こっちが肉体労働してる中求婚されてたしな。そもそも結婚システムとかあるのか?」
「それよりなんで俺には来ねえんだ!? ショーゴもショーゴで子供からはきてたけど!」
「「「「そういうところだろ(でしょ/ですね)」」」」
「ノォォォォォォォォォ!」
ショーゴたちのパーティはいつも楽しそうだ。
「さて、この後どうしよっか?」
「そろそろ夜になりますし、ログアウトも考えないといけませんね」
まぁ明日もあるし、あまり無理しすぎないようにしないとね。
「ただいま」
「あぁルカ、おかえり」
伐採から戻ってきたルカが私に抱き着いてくる。
って、なんかルカの服汚れてない?
「何かあったの?」
「まぁ、色々あった」
「もしかしてその子を連れて来る時にモンスターに襲われたの?」
私はルカの後ろに立っているショートの緑髪少女を指差す。
少女は無地の黒っぽいワンピースを着ており、私の方をじっと見つめている。
「ううん、そういうわけじゃない」
「じゃあ何で?」
もしかしてその子が暴れて…んなわけないか。
「『プレイヤーのルカが女の子一人暴れたぐらいでそんなに服が汚れるわけないもんね』…って言いたいのかしら?」
……。
あれ?
今私口に出してた?
「出してないわ」
って、あれ?
会話が成立している?
「こら、カルディア」
「別にこれぐらいいいでしょ…?」
ルカにカルディアと呼ばれた緑髪の少女は、叱られると拗ねたように顔を背ける。
「えっとルカ…その子は…」
「んっ。私の新しいペットのカルディア。種族は覚」
「えっ…?」
ええええええ!?
一旦落ち着ける場所に移動した私たちは、ルカとカルディアを囲むように座る。
ちなみにファナティクスさんはルカが帰ってきたため、「私の役目は終わりましたので」と言ってそのまま去って行った。
「私は覚のカルディア。一応よろしくと言っておくわ」
カルディアは足を組んだ後、淡々と説明する。
「それにしても見た目は人間の女の子ですね」
「傍から見たらわからないわね~」
「黒花とか銀花とはまた違った人型って感じだね」
「何か妖怪系は人型が割と多いらしい。カルディアがそう言っていた」
まぁ確かに雪女とか鬼とかは基本人型って聞くもんね。
「でもルカ。その子と伐採している時に会ったの?」
「んっ。その時に殺しあっ…話し合ってペットになった」
「ちょっと待って今物騒な事言わなかった!?」
「気のせい」
いやいや気のせいじゃないよね?
まさかペットになるモンスターと殺し合いをするような事なんて…って私もフェイトとある意味殺し合ってた。
やっぱりそういう条件もあるって事なのかな?
「条件なんて知らないわ。個々によってそんなの変わるし」
覚と言われるだけあって、私の考えている事も読めるようだ。
カルディアは私をじっと見つめて話を続ける。
「にしても貴女って本当に不思議ね。私にかかれば心の奥底までとはいかないけど、ある程度は見れるのに、何故か貴女のは読みきれない」
もしかしてアリカが防壁みたいな感じになってるのかな?
「恐らくね。まぁ言う気にもならないし、この世で最も醜いものなんて好きで見たいわけじゃないからね」
カルディアは言いたい事を言うだけ言うと目を閉じて大人しくする。
もしかして気を使ってくれた?
「こんな口調だけど、実は結構心配してる」
「なぁっ!?」
ルカの指摘にカルディアは目を見開いて頬を赤らめる。
「私が誰の心配してるって!?」
「でも森でアリスの話してる時」
「あぁぁぁぁぁぁ!?」
カルディアは顔を真っ赤にしてルカの事をぽんぽんと叩く。
森で一体何があったのか…。
「にしても妖怪の覚がペットになるとはなぁ。こりゃマジでイベントの敵は妖怪系で確定だな」
「つか人型が多いってマジ!? よっしゃぁぁぁぁ!」
「シュウ…あまり期待は持たない方がいいぞ。きっとお前では無理だ」
ガウルの言う通り、私もあんまり下心ある人にはそういうペットは来ないと思うなぁ…。
「しかし、心を読む力というのはいざこざの原因となります。ルカお嬢様、十分お気をつけてください」
確かに誰がどう思っているかなんてわかったら、大きな争いの原因となる。
そこら辺の事ルカはどう考えているんだろ。
「そこについては大丈夫。カルディアは本当に優しい子。人の心を晒すなんてことは絶対にしない。他者に忌み嫌われた力を持つ故に他者から嫌われ、恐れられ、怖がられる。普通だったらその力を悪用してもおかしくない。でも、カルディアはそんな事絶対しない」
「別に庇わなくていい。単に人の前に出ようとしなかっただけだから。…あんな醜い感情なんて見たくなかったから…」
「カルディア…」
ルカはカルディアをぎゅっと抱き締める。
私たちは知らないが、きっと二人の出会いで色々とあったのだろう。
それこそルカがカルディアをペットにできた理由にも繋がっているのだろう。
だったら私たちはルカの言葉を信じるだけだ。
「じゃあカルディアの歓迎会でもしよっか? 場所は私のお店でいいかな?」
「「えっ?」」
「俺らも行っていいのか?」
「うん。となるとショーゴたちにトアさん、私たちとルカたちにサイとリアも含めて十五人ぐらいかな?」
「では私は一足先に戻って支度をしておきます」
「うん。サイとリアにも今日はもうお店閉めていいよって伝えておいて」
「畏まりました」
そう言うとトアさんは一足先にお店へと向かった。
「カルディアは食べたい物とか嫌いな物ってある?」
「いえ…特にはないけど…」
「アリス…?」
「なぁに?」
「カルディアの事とか…聞かないの?」
ルカは不安そうに尋ねてくる。
恐らくカルディアの事で怖がられるのではないかと不安なんだろう。
確かに心を覗きこまれるというのはいい気分ではないだろう。
でも…。
「ルカがカルディアの事信じてるんだもん。そのルカを私が信じなくてどうするの?」
「アリス…」
「それに、例えば人より数倍鼻がいい人がいたからって、数倍匂いに気を使うわけじゃないでしょ? そんなもんだっ…てうわぁ!?」
ルカが突然私に飛びついてきた。
「ルカっ!? どうしたの!?」
「……」
ルカは何も言わず、しがみついたまま私を離さない。
そんなルカの頭を私は優しく撫でてあげる。
小さな嗚咽が聞こえるが、私は何も言わず撫で続ける。
その様子を見てショーゴたちも微笑ましそうに私たちを見つめている。
人の心を読めるが故に人と関わろうとせず心を閉ざしていた少女。
優しいけど人と関わるのが苦手故にほとんど繋がりを作ろうとしない少女。
そんな二人だからこそ、この繋がりができたんじゃないかなって私は思う。
あくまで私の希望的観測だけど、そうだったらいいなぁ…。
この二人の出会いに祝福がありますように。
私は次第に沈む太陽に向かってそう願った。
あれ? 気が付いたら少し話がシリアス方面になってた…?(無意識




