不思議な気持ち
「無駄に疲れた…」
「特に疲れる要素はなかったはずですが…」
だって!
まるで私がスイッチ入るとやばい人みたいに言うから必死に否定しただけだもん!
「ハッハッハ。使徒様とトア様はお仲がよろしいようですね。私は使徒様はもっと人見知りと聞いていたので少し驚きました」
ファナティクスさんは私たちの様子を見て微笑ましそうに笑う。
確かに人見知りだけど、ルカ程ではないというか…。
まぁルカは本当に人見知り激しいからなぁ…。
「って! そういえばファナティクスさんに聞きたいんですけど、王都の孤児院の事どこで知ったんですか!?」
「あれですかぁ…。いえ、教徒から使徒様が聖女として認知されたという事を聞きまして、是非とも懇意にしていただきたいと思いまして寄付をしただけですよ。余るとは言いませんが、我々もお金の使い先はそう多くはないので首狩り教での総資産の一割程を寄付して外装の修理等にでも使ってもらおうと思いましてねぇ。まぁたったの百万G程度ですので、あれぐらいのお金で使徒様を聖女とする教会と懇意にしていただけるなら安いものです」
待って、何かおかしい。
百万ってあの百万だよね?
百万で一割って総資産一千万って事になるよね?
「もしや金額を心配していらっしゃいますか? ご心配なく。教徒各々の資産も含めればもっとありますので問題ありません」
「いや、そういう事じゃ…」
ダメだ…話が通じていない…。
こんな感じでよくルカと知り合えた…。
ふと普段のルカの事を思い出して右手で頭を抱える。
そうだ…ルカも比較的大人しいだけで割とこんな感じだった…。
ポーションの瓶の時もそうだったし…。
気が合うはずだよ…。
「そういえば使徒様」
「何ですか?」
「掲示板で見たのですが、北東の方で森を作っているというのは本当ですか?」
「あーはい…」
闘技イベントみたいに小さいフィールドじゃないから割と悟りの域でやってるよ…。
「さすがにルカたちも【急激成長】のスキル持ってないから手伝ってもらえないもので…」
ホントあれ何百何千本の苗木を植えなきゃいけないんだか…。
だがファナティクスさんは私の発言に首を傾げる。
「使徒様。首狩り教にお申し付けくだされば全員とは言いませんが、古参の者たちは全員協力できますが?」
「へっ…?」
「とはいえ、植える苗木の種類はわからないのでそこについては教えていただきたいと思います」
「いやいや! 何で当たり前のように【急激成長】取ってるんですか!?」
「ハッハッハ。使徒様何を当たり前のような事をおっしゃっていますか。使徒様を崇め奉っている我々が使徒様の取得しているスキルを取るのは当然であります」
ファナティクスさんはとてもいい笑顔で答える。
やっぱり首狩り教…怖い…。
首狩り教の恐ろしさに若干引きながらも三人で街を歩いていると、見知った顔を見つけた。
「あっショーゴ」
「んっ? アリスか」
ショーゴは一緒に遊んでいたであろう男の子を降ろしてこちらを向く。
「何してんだ?」
「私たちはちょっと街歩いてるだけなんだけど、ショーゴこそ何してるの?」
「まぁ見ての通りだな」
男の子を降ろしたと思ったら、今度は別の男の子や女の子がショーゴの腰にしがみついてきた。
「何か難民助けてたらその子供たちに懐かれちまってな。ちょっと遊んでやってるんだよ」
「へー」
ショーゴの腰にしがみついている子供たちは、顔を覗かせて私たちをチラッと見るがすぐに顔を隠す。
恥ずかしがり屋なのかな?
「って、あれ? ガウルとかレオーネさんたちは?」
「ガウルとシュウは荷物運びとかの手伝いで、クルルは怪我人の手当て、レオーネは…」
私はショーゴが指を差す方を見る。
そこにはレオーネさんを囲むようにして何人もの成人男性の方が詰め寄っていた。
「レオーネさん! どうかお願いします!」
「えーっと…お姉さん異邦人だからそのー…」
「大丈夫です! 愛さえあれば問題ないです!」
「レオーネさん! お金も家もないけどどうか!」
……。
えーっと…。
「何あれ…」
「疲労困憊してたところにレオーネの世話焼きが発動した結果だ…。こっちも状況はよくわからねえけど求婚されてるって感じだ…」
「求婚って…」
弱ってたところを優しくされてって感じかぁ…。
あのレオーネさんが困っているっていうのもレアだけど…。
「んでショーゴは大丈夫だったの?」
「別に俺はイケメンとかっていうわけじゃねえからな。お姉さん方は多少なりともいたが、特にそういう事はなかったな」
「そっかぁ」
…あれ?
何で今ほっとしたんだろ?
「??」
「どうした?」
「ううん、何でもない」
まぁいっか。
「てかそこでさっきからニコニコしてる神父様は誰だ…? 怖えんだけど…」
「えーっとこの人は…」
正直に説明していいのか軽く迷うところだ…。
いや、ショーゴならきっと受け入れてくれるだろうけど、たぶん困惑する。
「お初にお目にかかります、使徒様の幼馴染様。私は首狩り教の教祖を務めさせていただいているファナティクスと申します。以後、お見知りおきを」
「お、おう…よろしく…」
ショーゴはチラッと私の方を向き、「普通そうな人だけどなんかあんのか?」的なアイコンタクトをしてくる。
私は小さく頷いて答える。
「我々も幼馴染様には使徒様のお話を色々とお聞かせいただきたいと思っておりまして、もしよろしければ少しよろしいでしょうか?」
「えっと…今子供たちの相手してるからまた今度って事で…」
「畏まりました。その機会をお待ちしております」
ショーゴも何かを感じたのか、日付をずらす。
てかショーゴにしがみついていた子供たち…めっちゃ震えてるじゃん…。
まぁ身長180以上もあって常にニコニコしている神父様なんて怪しさMAXだもんね…。
怖がる気持ちはわかる。
ショーゴも震えてた子供たちなだめてるし、やっぱりショーゴって面倒見いいよね。
「てかアリスたちは急いでるのか?」
「ううん、そんな事ないよ」
「なら一緒に子供たちの相手してくれ。俺だけじゃちょっと限度があるからな」
「いいよー。トアさんたちもいい?」
「はい、勿論です」
「それが使徒様のお望みならば喜んでご協力させていただきます」
「あ、うん。お願いします」
トアさんはともかく、ファナティクスさんは大丈夫だろうか…?
主に子供たちが…。
ケルフェン討滅戦…止まるんじゃねえぞ…。




