逃げ場はもうない
「ということなんです」
私は先程得た情報をリーネさんたちに伝える。
「さっすがアリスちゃんにゃ。早速有益な情報を得てくるにゃんて。にしても今度の敵は和風系の鬼とはねー」
「こん棒持った鬼となりゃ遠距離型は少ないと思えばいいだろうな」
「いや、あくまで鬼と言っただけで、他のもいるかもしれないぞ。例えばだが天狗もセットで来たりな」
「あとは妖狐とかか。下手すりゃ九尾がボスかもな」
敵が鬼って一つの情報でよくそこまで推測できるなぁ…。
てか何で鬼で妖狐とか天狗も?
「つか鬼で有名ってなると酒呑童子とかそっち方面か?」
「となると茨木童子とかもいるのかもな。だとしたらボス級だろうし戦力分ける必要出てくんな」
「京都系だったら牛鬼とか土蜘蛛とかもいんじゃねえか? 割とやばくねえか?」
「牛鬼って毒吐くよな? あと土蜘蛛ももしかしたらそっち方面…」
「もしそうだったら【病毒姫】とか耐性持ってるやつに任せるしかねえなぁ…」
いやいや、皆詳しすぎない?
てか土蜘蛛ってアレニアがいるし、確実に【病耐性】ないとダメなパターンだよね?
ルカにお願いして耐性スキル手に入れておいた方がいいのかもね…。
「なんか呼ばれた気がした」
「…ルカ…社作りは…?」
「アリスの声あらばいつでも推参」
「ルカは忍者か何かなの?」
私が少し呆れていると、ルカは私にしがみついてくる。
「んー…アリス成分補充…」
「あーうん…」
だから私成分って何なの…。
「それで、どうしたの?」
「あー…実は…」
私はルカにもしかしたら敵に土蜘蛛がいるかもしれないという事を耳打ちする。
ルカはそれで察したのか、私に耳打ちする。
「わかった。じゃあ時間空いてる時に手伝う。症状はコントロールするから大丈夫なはず」
「ありがと。でも私以外にも耐性スキル取らせといた方がいいと思うけど、そうするとルカが大変だよね?」
「知り合いならいい。でも見ず知らずはやだ」
まぁ当然だろう。
となると、ショーゴたちに海花たち、あとは…首狩り教の人がセーフなのかな…?
全部で十数人とかそんなもんだろうけど、耐性スキルを誰もが持ってると対人イベントの時にルカが不利になっちゃうし、仕方ないよね。
「でも敵が鬼って事は、方角も結構関連してくるかも」
「そうなの?」
「んっ、北東の方角の事を鬼門っていう。だからその方角に本隊がいたりする可能性もある」
「確かに文字に鬼って付くもんね」
「だけど敵が鬼とか妖怪だけとは限らないかも」
「どういう事?」
「その鬼の背後に人がいる可能性もある」
「え…?」
ルカが一呼吸入れて私に説明する。
「かつての陰陽師、安倍晴明は鬼神を式神として使役していた。そして今回、国を滅ぼす程の鬼が襲来している。それにこの土地は和風方面。その背後に陰陽師といった敵がいる事も十分考えられる」
「で、でも陰陽師って人を守るためにやってる人たちじゃないの?」
「…道摩法師…」
道摩法師…?
誰だろ…?
「別名、芦屋道満。安倍晴明のライバル。そしてこの芦屋道満は呪術を用いて色々してたっていう説もある。だから一概に陰陽師は味方という事ではない」
「つまりそういった陰陽師が今回のイベントの背後にいる可能性もあるって事?」
「可能性が0とは言えない。でもただ単に鬼が大侵攻してきただけかもしれないから確実な事は言えないけど…」
途中でルカが私に先入観を与えすぎたのかもと気付いて俯くが、私としては参考になったのでルカの頭を撫でてあげる。
「ありがと、参考になったよ」
「ん…」
「まぁそういうのってほとんど表に出ないし、あんまり気にしないでいいよね」
「んっ。一先ず交渉して森か林作るところ決めないと」
「なんで森か林を作るの?」
「なんでって…アリスの陣地作るから?」
いやいやおかしいでしょ。
なんで私の陣地用の土地を確保するの。
「アリス、これは戦略上とっても重要な事」
「一応聞くけど…理由は…?」
「防衛戦の関係上、どうしても攻め出る必要がある場面がある。その時、その動きに呼応して側面や背後から攻撃する部隊が必要」
うん、まぁそれは少し前の説明で何となくわかった。
「そして森という性質上、奇襲にはもってこい」
「うん」
「しかもアリスたちが防衛する森はそうそう占領されることはない」
「お、おう?」
「結果、敵はアリスの籠る森を落とせなくて確実に側面が取れる位置にアリスがいる事になる。つまり、アリスの拠点が必要」
「まず前提条件として、私が勝つ話になっているのは気のせい?」
「そこは大丈夫。私と海花、あと首狩り教がアリスの旗下につく。戦力は十分」
おかしい…。
いつの間にか私の私設部隊的なのができようとしている…。
ルカは一体私をどうしたいのだろうか…。
「平地と違って、森は戦力が少なくても戦いようはいくらでもある。むしろアリスの場合平地で戦うよりもこっちの方が絶対いい」
「まぁ確かにそうだけど…」
「と、いう事で早く相談しよう。できれば防衛陣地と挟撃できるところを確保したい」
「ちょっルカっ!? 計画立てても森作る事になるの私なんだけど!?」
「…そこはアリスのお好みメニューに全部任せる。何なら森作った後木の上に拠点作りに行く」
「本格的すぎない!?」
どうやらルカの提案で、私の防衛戦は大変な事になりそうだ…。
確かに私のスキルは防衛というよりも単騎での戦闘方面なのは確かだけど…。
まさか戦略上重要なところに配置されるとは思わないじゃん!
てか海花も巻き込んでるけど、海花もそんなの嫌っていうに違いない!
急いで連絡しなきゃ!
数分後、私は床に崩れ落ちて項垂れる事となった。
「勿論喜んでお姉様の旗下に入りますわ!」
「流石海花、よくわかってる」
「当然でしょう! お姉様と一緒にいれる絶好の機会ですのよ! 逃すわけないじゃない!」
「首狩り教も既に了承済み。あっちも喜んでた」
私の逃げ場は…もうないのだろうか…?




