都市作りは計画的に
「じゃ、そろそろメンテナンス明けるから戻るね」
「おう。って、内容確認しないのか?」
「後で正悟に教えてもらうから大丈夫」
「いや大丈夫じゃねえだろ…。そんな時間掛かんねえし軽く見てから戻ればいいだろ…」
正悟に呆れられてしまった…。
だってゲームの仕様なら正悟に翻訳してもらってから説明してもらった方がわかりやすいし…。
仕方ない。
私はPCの前で椅子に座ってる正悟の膝の上に座る。
「おいっ!?」
「んっ? だってこの方が見やすいでしょ?」
私の身長的にちょうどいいと思うし。
「ったく…。えーっと何々?」
正悟曰く、今度のイベントは防衛イベントで、準備期間はこちらでの一ヶ月分用意されており、その間に防衛施設とかを設置したりするとのことだ。
「えーっと…どういう事?」
「説明によると、イベントマップには難民NPCが点在してて、彼らを保護すると資材等があると施設を作るのを手伝ってくれるらしい。そしてイベント当日には防衛システムのような結晶だかなんだかが街の中心部となるところにあるらしく、保護した難民も当日はそこに避難しているらしい。だからイベント当日はNPCの被害は気にしないでいいらしい」
「ようは難民保護して一緒に街作れって事?」
「たぶんな。一種のシムシティの防衛バージョンって思えばいいんじゃね? ただしその防衛システムを守るのが今回のイベントの趣旨らしいがな」
それって結構大変なんじゃないかな?
一から街作るんだよね?
資材も難民用の食料も足りないと思うんだけど…。
そう思っていた私に正悟が付け加える。
「あとイベント準備中だと資源や食料については採っても自動でリポップするらしいぞ」
じゃあ平気だね。
となるとあとは人手ってところだね。
「つか防衛施設ってなると俺らは基本難民確保が仕事ってところかー…」
「でもこういうのって海花が手に入れたスキル持ちアイテムとかあるんじゃないかな? あれならスキルなくても資源手に入るんじゃない?」
「あーそういうのもあるのか。ならイベントマップに入ると自動的にそういうのが手に入って、出ると消えるって感じが妥当か」
さすがに難民保護だけだと戦闘職のやる事ないもんね。
たぶん正悟の言ったようなサポートはあると思うけどね。
「さて、ある程度の情報は見たし、そろそろログインするか」
「そうだね。…あっ、正悟ちょっといい?」
「んっ?」
「えーい」
「おわっ!?」
私を降ろして椅子から立ってベッドに寝転ぼうとした正悟に私は飛びつき、一緒にベッドに倒れる。
「今度はどうした!?」
「んー? ちょっとねー…」
教会の件で少し気持ちが沈んじゃったから、正悟で元気分補充ー。
「何かあったのか?」
「色々あったのー…」
「…そっか」
正悟や鈴に撫でてもらえたりするとなんだか気持ちが落ちつくんだよね。
しばらく正悟に頭を撫でてもらってすっきりしたので、私は家に戻り、少し遅れてログインする。
帰り際正悟が何か汗とか気にしてたけど、冷房ついてたから暑くなかったし、別に気にならないからいいのにね。
別に正悟の匂い嫌じゃないし。
さてログインログイン。
「えーっとここかな?」
ログインしてエアストの中心辺りに来ると、イベントマップ移動用の転移ポータルが設置されていた。
というか…。
「人多くない…?」
自分たちで防衛施設を作るって事で生産職がやる気あるのはわかる。
でも見た感じ戦闘職っぽい人も結構数見えるような…。
「アリスー」
人の多さに圧倒されていると、横から声を掛けられて腕に抱き着かれる。
「ルカ」
「んっ。アリスも今からイベントマップ行くの?」
「準備期間があるっていうからね。早めに準備はしといた方がいいかなって」
「公式読んだ感じだと本当に何もない感じがした。とりあえず余ってる木材一杯用意した」
「私は施設とかは作れないし、一先ず難民を探そうかなって」
「現実の一ヶ月だとこっちでは三ヶ月だし、割と大規模なイベントだと思う。食料に施設に罠。いくらあっても足りないと思う。あと開発計画かな? 人によっては防衛施設と言っても城だとしても色んなのあるし」
あー…確かに…。
この前みたいに城壁に囲まれた城下町に山城とかもあるし、平原に作るとなると堀とかも作らないといけないもんね。
「人も減ってきたし行こ」
ルカの言う通り、人が減ってきたので私たちもイベントマップに移動する事にした。
「んっ」
「ここが…って、ルカの予想的中だね…」
「んっ、何もない」
私たちがイベントマップへ飛ぶと、目の前には空へと伸びる虹色の光を出す十メートル四方ぐらいのキューブ以外何もなく、平地が広がっていた。
「これほんとに一から作るわけだね…」
「一応離れた場所に鉱山っぽいところや森とかは見えるけど、本当に何もない。冗談だったのに」
「冗談だったんだ…」
まぁこれは予想していても実際はそうであってほしくなかったよね…。
「おっ! アリスちゃんにルカちゃん! いいところに来たにゃ!」
「リーネさん?」
何やらリーネさんが私たちに気づいて手招きをするため、そちらに向かう。
向かった場所には木製の机が置いてあり、何人ものプレイヤーが話し合っていた。
「だからまずは生産施設優先だろ!」
「途中にモンスターが襲撃してこないとは限らないし! まずは防衛施設からだろ!」
「えーっと…」
何の話し合いだろこれ…。
「アリス。これってある意味リアルタイムストラテジーだから、その方針決めかな?」
「方針?」
「リアルタイムストラテジーをプレイする場合、いくつか戦法がある。まず生産施設を優先にして後半一気に行くタイプ。次に防衛を先に優先するタイプ。最後に攻めを優先するタイプ。でもこの場合、私たちは攻めに転ずる必要はないからそれは除外。で、残る二タイプになるんだけど…」
「どっちを優先するかってことね…」
ルカのおかげで話し合っている理由がわかったが、これをどうしろと…?
「【首狩り姫】もやっぱり生産施設優先だよな!」
「いやいや! 【首狩り姫】は防衛施設優先だよな!」
「えーっと…人も多いですしどっちもじゃ…ダメですか…?」
「「……」」
あれっ…?
変な事言っちゃった…?
「よっしゃー! テメェら生産施設を支給品からどんどんグレードアップさせんぞ!」
「こっちも防衛設備の準備と都市計画考えるぞ!」
二つの派閥に分かれていたプレイヤーたちは突然大声を上げて活動を開始した。
「いやー流石アリスちゃんにゃ。実力者がどっちもって言えばそういう感じになると思ったにゃ」
「いやそれ別に私じゃなくてもよかったんじゃ…。てか何なんですかこの流れ…」
「何というか…お互い引くに引けない感じになっちゃったのにゃ。そこで第三者がどっちもって言った事で上手く切り上げられた感じにゃ。私が言うと…ほら…生産職としてのプライドとかそこら辺になりそうだったし…」
何というか…。
生産職も生産職で色々あるんだなぁ…。
って、支給品?
私は手持ちのアイテムを確認すると、いつの間にか斧とつるはし、更に初心者用と書かれた各種生産設備があった。
「これを使えって事かな?」
「たぶん。アイテム説明に必要アイテムと合成する事で更に良くなる感じで、設置もできる。でも生産設備だけって事は採掘とかは自分取ってないとだめ?」
「えっ? 私のところには斧とつるはしあったよ?」
「ってことは、スキル持ちはそのまま。持ってない人にはサポートスキル付きアイテムが送られるってのはあってた」
「とは言っても生産するにしてもそっちの加工スキルはついてない感じだね」
「そこまで付いてると、こっちで誰でも良い武器とか作れるかもしれないからしてないのかも」
確かに素材さえあれば設備が良くなるって事は、言い換えれば設備さえ良くなれば良い武器を誰でも作れるようになっちゃうってことだもんね。
そういったところは制限入ってる感じだね。
という事は加工は生産職に任せて、建築関連は戦闘職がやるっていう感じかな?
「って事はやっぱり最初に都市計画はした方がいいと思う。街の規模にしても広さとか考えないと」
「おっ、ルカちゃんも気付いたようだにゃ。確かにむやみに広げても後々変な形になって防衛し辛くなる事もあるにゃ。だから一案として、このキューブを中心にして一定距離で円状に外壁を作るにゃ。そしてその一つ目の外壁を作って防衛施設等をある程度揃えたら、また一定距離空けて円状に外壁を作るにゃ。それを期限一杯まで続けるにゃ」
「って事は防衛ラインを円状にどんどん作る感じ?」
「そういう事にゃ。第一、第二と大きささえ決まれば後は通りを作って区画整理をすればそこまで難しい話にはならないはずにゃ。運営のお知らせ的に、今回作った街がイベント後にそのまま使えるようになると思うし、空き地については資材さえ残ってれば後は難民が何かしら作ると思うにゃ」
んっ?
もしリーネさんの話の通りだとしたら…。
「今回のイベントって結構重要なやつじゃ…」
「にゃはは…。正直考えたくなかったにゃ…。責任重すぎるにゃ…」
私たち次第で街が滅びるとかプレッシャーがやばい…。
「しかもゲーム内だと三ヶ月だから少なくても難民は千人…下手すると一万人は考えないといけないにゃ…。難民って言うからにはどこかの国がモンスターに滅ぼされたとかの設定かもしれないからにゃ…。運営絶対鬼にゃ…悪魔にゃ…。こんなの本気にならざるを得ないにゃ!」
「んっ、頑張る」
「ですね! 頑張りましょう!」
どうやら色々気を抜けないイベントになりそうだ。
今年ももうそろそろ終わりか…(しみじみ




