教会のお手伝い⑤
「すみません。つい気がはやってしまって…」
「でもでもシスター! 聖女がいる教会って事でお布施が増えるかもしれないっすよ! いっそのことアリスさん教にしちゃいましょうっす!」
「それだけはやめてください」
今の首狩り教だけでも大変なのに、もし仮にそんなことになったら…。
「ここがアリスを聖女として崇める教会…! すぐに立て直しする!」
「今すぐこの周辺の土地で購入可能な場所の確保を!」
「ここが使徒様を聖女として崇め奉る教会…! すぐに私たちの本部を支部として扱ってもらえるよう交渉の準備を!」
といった具合に暴走するメンツの姿が想像できる…。
いやまぁ首狩り教の方は会ったことないから想像でなんだけどね?
「ともかく、そういった事はやらないようにしてくださいね?」
「なんでっすか? アリスさん可愛いし人気出ていいじゃないっすか」
「割と今のままでもやばいんで…」
「なんか…あったんすか…?」
「まぁ色々と…」
これ以上知名度上がったら街出歩けなくなりそうだし…。
「でもそんな有名人なのになんでこんな報酬もしょっぱいとこに来たんすか?」
「元々はエアストの知り合いの人に頼まれて来たんだけど、正直ここまでボロボロとは思わなかったのもあって…」
「あーあっちの方っすかー。だったらここの状況までは知らないっすよね。たぶん依頼の方も詳しくは伝えてなかったっぽいっすね」
「でも今日ここに来れてよかったと思うよ。エルザさんやアシュリーさんたちに会えたからね」
「おぉ…やっぱりアリスさん聖女っすか…?」
「いやだから違いますって…」
何故すぐ聖女にしたがるのだろうか…。
確かにアシュリーさんの話からエルザさんたちは色々あったんだろうなとは予想できるけど、今は普通そうだからそんな癒しとかがないといけないという風には見えないけど…。
「やっぱりシスター! あたしアリスさんのところに行きたいっす! あんな聖人のところでお世話になり…仕事したいっす!」
癒しが…必要…なのかな…?
…仕方ない、少しガス抜きを手伝ってあげよう。
「エルザさん」
「はいっす。どうしたっすか?」
「ちょっとこっちに来て」
私は近くの横長の椅子に座って膝をパンパンと軽く叩く。
エルザさんは何かわからない様子で私の隣に腰を落とす。
「じゃあそのまま横になって私の膝に頭置いてね」
「えっ!? なっ何が始まるんすか!?」
「んーまぁガス抜きかな?」
エルザさんは私の言われるまま私の膝の上に頭を置いて横になる。
私はエルザさんが横になったのを確認し、膝の上にある頭をゆっくりと撫でる。
「ふぉぉぉぉぉ!? なんすかこれ!? なんすかこれー!?」
「これは膝枕って言うんだよ。どう? 落ち着くかな?」
「頭を太ももに置いて撫でてもらってるだけなのになんすかこれ!? めっちゃ落ち着くっす! つか何か身体がびくびくっと反応するっす!」
おっどうやら気に入ってくれたようだ。
これで少しは落ち着いてくれるかな?
「ふひっ…あへぇ…」
「あっ…あれっ…?」
気が付くとエルザさんは身体中をビクビクっと痙攣したように震わせ、頬を赤くして白目を剥いていた。
私…何か変な事やったっけ…?
「あっあの…アリスさん…」
「はっはいっ!」
「たぶんですが…エルザはアリスさんの行ったような事に慣れていないため、あまりに気持ち良くて今のようになってしまったのでは…?」
「えっ…? いやだってただ撫でてただけで…」
「その撫でられるという事自体に慣れていないのと、アリスさんが撫でるのが上手かったのではと…」
「え…?」
いやいやいや!
今まで誰かを撫でたりしてあげたことはあるけど、誰もエルザさんのようになったことないよ!?
「ともかくこれではしばらくエルザは動けませんね…」
「すっすみません! エルザさんが復帰するまでエルザさんの仕事もやります!」
私はとにかく頭を下げて謝る。
ガス抜きのつもりが活動不能にさせるとは思わなかったが、結果的にエルザさんが動けない状態にしてしまったのだ。
私が代わりにエルザさんの仕事をするしかない。
「そうですねー…食事の用意は既にエルザが済ませてますし…」
アシュリーさんは教会内をキョロキョロと見る。
そして何か思いついたのか、少し表情が柔らかくしてこちらを向く。
「では一つ、お願いしたい事がありますのでついてきてもらえますか?」
「はいっ!」
私は横長の椅子に横になっているエルザさんに毛布を掛けてアシュリーさんの後をついていく。
アシュリーさんは教会から出て、教会の横の土地に入る。
そこにはいくつものお墓が立ててあり、恐らく共同墓地やそういった場所なのだろう。
ここの掃除かなとも思ったのだが、アシュリーさんはどんどん奥へと進んでいく。
そして一番奥と思わしき場所には一際大きい石碑があり、アシュリーさんはその前で止まる。
「えっと、この石碑の掃除ですか?」
「いえ、掃除…ではありませんよ。…『――――――――』」
「っ!?」
アシュリーさんが石碑に手を当てて何かを唱えると石碑がゆっくりと動き、下へと続く階段道が現れた。
「どうぞこちらへ」
アシュリーさんは三段程階段を下りてこちらを向いて手を伸ばす。
私はその手を掴んで一緒に階段を下りる。
「大変暗いので足元には注意してくださいね」
「はい…」
私は日の光が届かなくなる前に簡易的だが松明を作ってそれをアシュリーさんに渡す。
おかげで真っ暗ではなくなったが、かなり深いように感じる。
しばらく階段を降りると、そこには大きな空間が広がっており、その奥には大きな扉が立ち塞がっていた。
「ここは一体…」
「ここはかつての王国の闇。そして死した者たちの怨念によりダンジョンとなってしまった場所です。この場所を知っている者たちはこの場所をこう呼びます。『嘆きの里』と…」
上げて―下げて―また上げる!




