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Nostalgia world online  作者: naginagi
第五章
233/370

教会のお手伝い②

 私は複数ある棚の内、その一つの前に止まりそこに置いてある十字架をじっと見る。

 すると突然後ろから大声が教会内に響き渡る。


「そこのおねーちゃん! その棚いじるとシスターに怒られるよー!」


 びっくりして後ろを振り向くと、祭壇の近くにある扉から出てきたであろう男の子が私を指差していた。

 男の子は駆け足で私に近づいてくる。


「前にその棚に悪戯しようとしたらめっちゃ怒られたんだよ」

「そうなんだ…」

「てかおねーちゃん誰? シスターの知り合い?」

「えっとね。私は今日この教会のお手伝いに来たアリスっていうの。よろしくね」


 私は男の子の目線に合わすように少ししゃがむ。

 男の子は私の全身を上から下を眺めるように視線を動かす。


「ふーん。とりあえずその棚なんかシスターたちにとって大切な物っぽいから触んない方がいいよ」

「うん、教えてくれてありがとね」

「ん…。じゃっ俺食堂行ってくるから」


 男の子は少し頬を赤らめた後、ぱっと後ろを向いてそのまま去って行った。

 私何かしちゃったかな?



 待っている間、ネウラやミラやフェイトを呼んで今日のお仕事内容を伝える。

 レヴィも呼ぶには呼ぶけど、子供相手なのでコミュニケーションが取れる事が第一に求められる。

 なので負担が掛かりつつ私と離れて行動する可能性のあるネウラ、ミラ、フェイトの三人には事前に話を付けておく必要がある。

 レヴィは私と一緒に行動するため細かい説明をする必要はないが、一人だけはぶられてる感じになってしまうのはまぁ仕方ない事だ。

 まぁレヴィも大人になったらお父さんみたいに喋れるかもしれないから、それまで我慢だね。

 しばらく待っていると、食事を終えた子供たちがアシュリーさんと一緒に私の元へと歩いてきた。


「ではアリスさん。よろしくお願いします」


 子供たちは私のペットたちを見ると物珍しそうに近づく。


「ねーねーその身体どうなってんのー?」

「その羽って本物―?」

「なんで浮いてんのー?」


 そんな質問を次々と行い、ネウラたちは少し困りながら説明をしている。

 その内聞くだけでは飽きたのか、外へ出て遊ぼうと言ってネウラたちを引っ張って外へと行ってしまった。

 そして教会内には私とレヴィとアシュリーさんと大人しめな子数人だけとなった。


「えっと…とりあえず何か飲み物でも出しましょうか?」

「あー…ではお願いします」


 私はアシュリーさんについていき食事をしていたであろう部屋に入る。


「それにしてもアリスさんは眷属も連れていたのですね」

「はい。この蛇のレヴィが最初の子で、それからアルラウネのネウラ、吸血鬼のミラ、そして精霊のフェイトといった具合ですね」

「精霊様もですか。それはさぞ素敵な出会いだったのでしょうね」

「あー…」


 素敵どころか血生臭い出会いだったなぁ…。


「詳しくは話せませんが、ちょっと特殊な出会い方をしたので素敵とはちょっと言い辛いですね…」

「そうでしたか…。お気を悪くされてしまったのなら申し訳ありません」

「いえいえ大丈夫です! それにフェイトももう吹っ切れてるところもあるので大丈夫ですよ!」


 アシュリーさんは私が言い辛い事だと感じ、素直に頭を下げる。

 その様子を見て私は慌てて頭を上げるように説得する。

 アシュリーさんがそんな畏まった態度を取っちゃうと一緒にいる大人しい子たちが委縮しちゃうからね。

 そんな大人しい子たちの一人が、レヴィを興味深そうにじっと見つめている事に気付いた。


「触ってみる?」

「っ! …いいの…?」

「いいよね、レヴィ?」

「キュゥ!」


 レヴィはすっと私の肩から降りてテーブルの上に着地する。

 そして触りやすいように大人しく頭を伸ばして興味を持った女の子が触るのを待つ。

 女の子はゆっくりと手を伸ばし、レヴィの頭を撫でると嬉しそうに何度か撫でて頭だけでなく身体の方もそっと撫でる。


「わぁ…ぬめっとしてるけどちょっと硬くて面白い…!」

「こ…怖くない…?」

「うんっ! じっとしてるから大丈夫!」


 最初に触った女の子を皮切りに残りの子供たちもゆっくりだがレヴィに触り始めた。

 レヴィも嫌な顔せず、子供たちと接してくれている。


「この子たちがこんなに楽しそうにしてる姿を見るなんて久々です。これもアリスさんのおかげですね」

「いえいえ。私は何もしてませんよ。これはレヴィのおかげですよ」


 実際私は何もしてないしね。


「ですがこんなに子供たちに優しく接してくれるのはアリスさんの育て方が良いからだと思いますよ。飼い主が乱暴ならその眷属も乱暴になりますし、優しければ優しくなります」

「そんな事ないですよ。元々この子たちがいい子なだけですよ」

「いえ。やはり保護者の教えというのは大事です。その保護者の教え次第では善にも悪にもなります。…私たちのように…」

「えっ?」

「いえ、何でもありませんよ。それより昼ご飯と晩御飯の獲物を狩ったシスターが昼前に戻ってくるはずなので後でそのお手伝いもしてもらえませんか?」

「えぇ、構いませんよ」


 うん、もう獲物を狩ったという事は気にしないでおこう。

 きっと昼ご飯と晩御飯の食料を買ったの聞き間違いだ。

 きっとそうに違いない。

 って、あれ?


「あのアシュリーさん」

「はい、何でしょうか?」

「何やら自給自足な生活をしている感じがあるんですが、孤児院って事は国からの寄付とかってないんですか?」

「あー…それはですねー…」


 私が尋ねるとアシュリーさんは苦笑いをして顔を背ける。


「その…教会自体もボロくて…その…孤児院として認められてなくて…」

「…え…?」

「食事とかは他のシスターのおかげで大丈夫なのですが…どうしても壁とかの修繕については材料がなくて…ちゃんと外見が良ければ孤児院として認められて寄付金も入ってくるんじゃないかなーと思いつつも…そんなところにお金使うなら子供たちに使いたいというのがありまして…。そもそもここにいる子供たちは身寄りのない子たちでして、更に奴隷雇用としてのスキルがほぼ皆無でそういう施設に入れなかった子たちを私たちが引き取っている形なので…その…」


 これは…。

 きちんとした孤児院としたいけど、子供たちを優先するあまりそういった修繕ができずお金が溜まらない負のスパイラルに陥っている感じなのか…。


 確かに子供たち全員が奴隷雇用としてのスキルを持っているという事ではないし、そのようにスキルが無ければ雇われる事もない。

 それがプレイヤーなら余計にだ。

 ある程度お金に余裕があるプレイヤーなら雇ってくれる人もいるかもしれないが、普通ならばスキルがある方を選ぶだろう。

 私だって最初はサイとリアを選んだ時にはスキルをって事で探してもらったからだからね。

 サイとリアがスキルを持ってなかったら、最初の呼び出しで出会う事すらなかっただろう。


 ここで私がお金を出してあげるのは簡単だ。

 でもアシュリーさんの態度からしてそんなのは絶対に受け取らないだろう。

 自由に使ってとして無理矢理渡したとしても子供たちを優先してしまうだろうし…。

 きっと頭では修繕を優先させるべきというのは理解しているのだろうが、どうしても子供たちの事となってしまっているのだろうなぁ…。

 でも私がやろうと思っても、そういった修繕スキルはないしアイテムや道具もないからどうしたものか…。

 うーん…難しいなぁ…。

自給自足の孤児院とは一体…(哲学

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