プレイヤーイベントは恐怖とともに⑪
「…なんでわかったの?」
今までのアリスのような少しのんびりとした雰囲気から打って変わり、少し強気の口調に変わる。
どうやら正解だったようだ。
「アリカ…」
「アリス、貴女は行きなさい。もう時間オーバーしているんだからデバフ入ってるでしょ?」
「そうだけど…」
「あたしは消えようと思えば消えれるから早く行きなさいって」
「うっうん!」
そう言うとアリスはこの場から去って行った。
「さてと、あたしたちの必殺技を防いだご褒美は何がいいかしら? 言っとくけど攻撃を喰らうとかはダメだからね」
「そんなことしようとしたらすぐ消えるんだろ?」
「ええ勿論。それで? どうしてあたしだってわかったの?」
「気付いたのは偶然だな。幻覚なのに汚れとかが一緒だったから有幻覚なのかとは思ったんだが、そん時に有幻覚の使用方法を思い出してな」
「そういう事ね…」
有幻覚の使用方法は簡単に言えば意識を幻覚に移すことだ。
だから有幻覚を操りつつ本体は隠れてるっていう事ができる。
しかも有幻覚は使用者の状態をコピーしたり、自分の能力の範囲内の事なら姿は自分自身じゃなくてもいい。
だが、有幻覚と本体を同時に動かす事は困難だ。
何故なら本体と有幻覚それぞれに意識を分けることができないからだ。
それこそ意識―精神が二つでもないとな。
「だからこそこの世界では精神が二つあるアリス…つまりお前たちならそれが可能なんだ。まぁ理論的にはそうだが、そううまくいくもんではないと思うがな。どうせアリスの事だ。練習していたんだろ?」
「ええそうよ。吸血鬼イベントの時にヒントを得て試してみたのよ。元々あの子があたしを受け入れてくれているからできた事だと思うけどね」
「それにしても普通に考えりゃチートレベルの反則技だぞそれ」
「でもそんなスキルが制限無しに使えると思える?」
「正直思ってねえよ」
まぁそうだろうな。
恐らく何らかの制約とか条件があるんだろうな。
「ショーゴならそう言うと思ったわ。どこから説明すればいいかしらね? とりあえずこの技…というか魔法ね。正式名は『現象―虚構の暗殺者』。あたしを作り出す魔法よ。アリスが【幻魔法】であたしを作り出すことだけに特化した結果、そうなったの」
「特化した結果…?」
どういう事だ?
「その様子だと【幻魔法】の本質を知らないようね。まぁあたしも最近知ったんだけどね」
「本質だと?」
「【幻魔法】は簡単に言えば二通りの効果に分かれるの。一つは現実を歪ませる効果。もう一つは自分自身を歪ませる効果。ルクスリアの【幻魔法】は前者ね。あれは対象者を幻覚世界に閉じ込める事に特化しているからね」
「えっと…?」
「つまり【幻魔法】は他の魔法と違って同じ魔法にはならないのよ。他の魔法って基本的には同じでしょ? まぁ複合魔法は本人のセンスや想像力によるらしいけどね。つまり、【幻魔法】は術者がどんな幻覚を作り出すかによってその効果が異なってくるの。まぁ【幻魔法】は術者の使い方によって全く違うからそういう仕様になってるんでしょうね」
確かに俺の聞いていた【幻魔法】とは少し違う。
聞いていたのは複数の幻覚を作り出したり、有幻覚を作り出して戦わせているうちに仲間がトラップとかを仕掛けたりするといった事だった。
強いて言えばその有幻覚を作り出すってのが近いが、ここまで本体と有幻覚が意思を持って動くなんてことは聞いたことがない。
「これで【幻魔法】についての説明は終わりってところね」
「ならご褒美として条件や制約を教えてもらおうか」
ぶっちゃけ今の説明がご褒美扱いされたらどうしようもねえけどな…。
「まぁサービスという事にしておくわね。あたしを傷物にしたんだから」
「勘違いする言い方はやめろ!」
「冗談よ。ショーゴも気づいてたと思うけど、あたしが喰らったダメージはアリスも喰らうってのがまず一つ。次にあたし自身のステータスはアリスに依存してるけど、バフとかの効果は乗らないの。だから左腕も治ってない。そして最後に、あたしが動くともうMP食いすぎてやばいのよ。全力で動けばそれこそ一分持てばいいってぐらいにね」
「まぁ【幻魔法】っていうぐらいだしな。MPは消費するだろう。でもそんなに消費するのか?」
「ただそこに立っているのと激しく動くのだとエネルギーの消費量は異なるでしょ? つまりそういうことよ。【幻魔法】は干渉すればするほどその消費量は増加していく。でも普通は自分は動かない、相手を動かせない、景色は固定といった具合になるべく消費を減らすように無意識の内に制約を掛けてるのよ。でもアリスはねぇ…」
アリカは右手で頬を押さえて溜息をつく。
「あの子…そこら辺の消費量の事全く考えてないのよ…。そのせいで燃費は悪いしHP共有とかいうデメリットばっかり作って…。自動回復バフが掛かってなかったらこんな長時間戦闘なんてできなかったわよ」
「その割には嬉しそうだな」
「まぁあの子がそれだけあたしを大事に思ってくれてるって事だしね。ちょっと照れくさいけど…」
うっ…。
アリスが照れくさそうに微笑むのってずるいな…。
普段そういうのは見ないからドキっとしちまったぜ…。
「さてっ、ご褒美の説明も終わったしそろそろあたしは撤退しようかな?」
「てか負傷してるアリカ攻撃してもポイントって入るのか?」
「HP共有してるからね。結局はあの子の被弾って形で入るはずよ」
なるほどな。
そういう意味でデメリットって事か。
「まぁ結局はアリスの方に付いているバフでHPとMP自体は回復するんだけど、いつまでも負傷したままじゃいけないからね。早いところ新しく出直さないとあの子の足引っ張っちゃうのよね。ってことでまたねショーゴ」
「あっ!」
今まで逃げる素振りを見せていなかったせいで反応が遅れてしまい、アリカを逃がしてしまった。
「まぁ…捕まえようとしたら消えるからあんまり意味ないんだろうけどな」
ともかくここはアリスとアリカを退けただけでも上出来だろ。
「はー…つっかれたー…」
俺はその場に寝っ転がって休憩する事にした。
ネタ晴らし!




