プレイヤーイベントは恐怖とともに⑤
「どうも皆様お初にお目にかかります。私ミラと申します。皆様の事はご主人様の中から窺わせていただいておりました。以後、お見知りおきを」
ご主人様って事はやっぱりアリスのペットで間違いねえようだな…。
それよりあの姿に長い牙のような歯…。
あれ…吸血鬼だよな…?
俺らは警戒態勢のままミラと名乗った吸血鬼の攻撃に備える。
「さて、あまり雑談をしている時間もありませんので手っ取り早く仕留めさせていただきます」
ミラは更に高度を上げて、ニヤリと笑みを浮かべて自らの腕を爪で傷付ける。
「無論、周囲に隠れてこちらを伺っている方々もね! 『ブラッドレイン』!」
「っ! 何かやばい! 全員俺の後ろに来いっ! 『キャッスルウォール』!」
ガウルが叫び、咄嗟に盾を掲げ前方への防御スキルを発動させる。
盾の影に隠れたと同時に降り注いだソレは、周りの木々を軽々と貫通していった。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「木まで貫通すんのっぎゃぁぁっ!?」
周囲にいたやつらは咄嗟に木の陰に隠れたようだが、降り注いだモノは軽々と遮蔽物毎プレイヤーも貫いていった。
「何なんだあの攻撃は!?」
「チラッとブラッドと聞こえたから血系統の攻撃かもしれない!」
「血ぃ!? まんま吸血鬼じゃねえか!?」
血で攻撃とかマジやばくねえか!?
ってことは!?
「レオーネ! この周りを火で囲え! 今すぐ!」
「えっ!? わっわかったわ! 『ファイアーサークル』!」
レオーネはショーゴに言われるがままに火の壁を自分たちの周りに展開させた。
そして次の瞬間、降り注いで地面に落ちた場所辺りから槍状の物が突き出してきた。
だが、レオーネの展開した火の壁により、槍はショーゴたちを貫く前に形を保てなくなり霧散していった。
「あっぶねぇ…」
「よく気付いたなショーゴ…」
「ちょっとアニメで吸血鬼が地面から槍を出してくる技を見たことあるからな。もしかしたらって思って言ったが当たっててよかったわ…」
もし気づかなかったらあのままグサリってなってたんだろうな…。
上に注意を集めといて実は下からが本命とかな…。
アリスのペットらしい嫌な手だ…。
するとミラは少し高度を下げて声が届くぐらいの高さまで下がってきた。
「おや、今の攻撃を防ぎましたか。正直初見で防がれるとは思いませんでしたよ。とはいえ、他の方は全滅のようですね。それにしてもこのバフには感謝ですね。おかげで好きなだけ魔法が使えます」
「自動回復のバフとかずりぃことしやがって…俺らも欲しいぞ今畜生が」
「うふふっ。ですがこう封印を解除されるというのは何とも清々しい気分ですね」
「封印を解除…?」
「おや? 知りませんでしたか? まぁあの攻撃を防いだということのご褒美として一つ教えてあげましょう。私とレヴィお兄様はそれぞれ能力の一部を封印されていました。それが今回解除されております。おかげでレヴィお兄様ったら張り切ってしまいまして…うふふふふ」
道理でレヴィが生き生きしてた気がしたわ…。
「ですがこの周囲に残っているのは貴方方だけのようですし、早く倒して次の場所に向かうとしましょう。これでも今の状態では眷属の中でレヴィお兄様の次に強いと自負しておりますので、どうぞご堪能してくださいませ。…まぁ一対一ではですけど…」
そう言うとミラは再び高度を上げて再び攻撃の姿勢を取る。
「させないわ~。『ファイアランス』!」
また自分の腕を傷付けて攻撃しようとしたため、唯一の遠距離攻撃ができるレオーネがミラに向かって攻撃を放つ。
「ふふっ。その程度の攻撃は当たりませんよ」
「やっぱり空を飛んでる相手には当て辛いわねぇ~…」
これが制空権の差っていうやつか。
いくら強力な攻撃手段を持っていても、空を飛んでる敵に対してはこちらも空を飛んで対抗するしかない。
かつての太平洋戦争でミッドウェー以降、制空権を取られた事により日本の誇る連合艦隊が次々に沈められたのはこういった面もあると俺は思う。
それにソ連人民最大の敵とも言われたルーデル閣下も、制空権を確保できてなかったらあんな量の戦車や装甲車を撃破できなかっただろうしな…。
それぐらい制空権と制海権というのは大事なのだ。
「とはいえ、空から攻撃し続けるのも今後の私のためにもなりませんし、数が少ない時ですし降りて戦うとしますか」
てっきりそのまま空から攻撃し続けるものかと思ったのだが、急に降りてきて自身の血から槍を作り出した。
ペットは飼い主に似るっていうし、鍛えられるところは鍛えようっていうスタンスなんだろ…。
これ以上厄介になられても困るんだけどなぁ…。
だが、地上戦になったからにはこちらにも打つ手はある。
「では参ります!」
「はやっ!?」
「シュウ!?」
一瞬でシュウとの間合いを詰め、槍を振ってシュウを吹き飛ばす。
シュウも咄嗟に槍を盾にして防ぐが、さすがに勢いを殺し切れずに後方にあった木に直撃する。
「よそ見をしている場合ですか?」
「ぐっ!」
「うぉぉぉぉ!」
「ふっ!」
「なにっ!?」
俺を攻撃しようとした瞬間、横からガウルが剣を振り降ろすが、ミラはそれを空いていた手で受け止める。
しかも片手にも関わらず押し負けるとかじゃなくて拮抗している。
これが吸血鬼の膂力っていうやつか!?
「『ファイアーランス』!」
「くっ!」
ガウルの剣を防いで動きが止まったところをレオーネが魔法で攻撃する。
だがそれを軽々避けて一度距離を取るが、ミラ自身は悔しがっているようだ。
おそらく今のでほぼ決めたかったんだろう。
「はぁっ!」
「ふっ!」
下手に距離を取られると不味いと考えた俺は体勢を立て直してすぐさま斬りかかる。
ミラも槍の柄で刃を受け止める。
だが動きが止まったなら…!
「俺を忘れてんじゃねえやい!」
「なっ!?」
吹き飛ばされたはずのシュウが復帰して背後からミラに攻撃を仕掛ける。
虚を突かれたミラは咄嗟に槍を捨てるが、シュウの攻撃を避けきれず背中に攻撃を掠ってしまった。
「っち、掠っただけか」
「ナイスだシュウ」
「それにしてもあの子は近接戦はそこまで得意そうじゃねえ感じだな」
「攻撃方法的に広域殲滅型なんだろ。それにまだ戦闘に慣れてる感じじゃなさそうだ」
「空から攻撃され続けたら無理ゲかと思ったけど、それならそこが攻め所ってとこだな」
「流石ご主人様のご友人…手強いですね…」
結構強がってるけど、正直戦闘経験の差で何とかなってる感じはある。
それが今みたいな戦闘を繰り返されたら今はともかくイベント終盤はやべえなぁ…。
するとミラはチラッと目線を反らす。
「残念ですがそろそろ時間ですね…。ご主人様のご友人を倒せば喜ぶと思ったのですがなかなかうまくいきませんね…」
そう言うとミラは羽を羽ばたかせて飛んでこの場から去って行った。
「…助かったのか…?」
ミラを退けたとはいえ、俺らの疲労感はかなりのものだった。
まだまだ経験不足のミラであった。




