プレイヤーイベントは恐怖とともに④
少しばかり休憩し、俺らは更に西へと進む。
イベント開始からまだ三十分しか経過していないとは思うが、思ったよりクルルの疲労度がまずい気がする。
「すっすいません…」
「気にすんなって」
クルルに合わせて少し歩くペースを落とすが、これは仕方ないとは思う。
普通の戦闘とは違い、アリスの恐ろしさはよくわかっている。
その分気が張ってしまい、疲労度が増す。
更にアリスは奇襲からの殲滅が得意なため、それを警戒する分更に疲労度が増すといった悪循環に陥る。
しかも歩き辛い森の中だ。
どうしても移動速度は遅くなってしまう。
アリスみたいに木の上を移動だったらいいのだが、俺らの中でそんなことはできるのは俺とシュウぐらいだしな…。
「だがそろそろリタイアの数が増える頃合いだな」
「開始から1/10は経ったしな。ネウラの巨大化の噂からしてもうそろそろ100はリタイアしてるだろうな」
「ホント恐ろしいイベントを考えたよなぁー…」
「まさかペットまで強化されるとは思わなかったわよ~…」
「アリスさんだけでも厄介なのに…」
確かになぁ…。
アリスにレヴィにネウラにあとはよくわからない二匹だしなぁ…。
その二匹がどんなのかはわからねえけど、ネウラであれなんだからレヴィなんてもう怪獣になってんじゃねえか…?
「ホント憂鬱になるわ…」
「まぁそういうなって、さっさとチェックポイント探そ「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」っ!?」
突如遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。
だが土煙は見えない。
ということは小型のペットってことか…。
「全員構えろ! こっちにきたら撃退するぞ!」
この場合下手に動いて陣形を崩すよりは待ち構えた方がいいだろう。
大型に比べて小型のペットなら時間稼ぎは可能だしな。
それに一定時間経てばデバフが掛かるっていうし、撤退してくれるだろう。
悲鳴が聞こえた方を向き、前衛のガウルが盾を構えて前からの攻撃に対して備える。
俺とシュウはその後ろで武器を構え、更にその後ろでレオーネとクルルが杖を構えていつでも攻撃できるように準備している。
俺らは耳を澄ましてまだ見えぬ敵に備える。
「……」
武器を構えつつ左右を見ているが、敵の影がまだ見えない。
それにも関わらず、別の方角から悲鳴が聞こえてくる。
「どうする! 向きを変えるか!?」
「もしかしたら逃げてるやつから狙ってるかもしれねえ。 下手に動かないで咄嗟に動けるようにしといた方がいいだろ」
「わかった。それにしてもさっきから逃げるように悲鳴をあげてる声から消えてる気がする。そうなると下手に音を出して逃げてると思われた方が狙われるかもな」
まだ人が多い内は戦う姿勢のやつより逃げる姿勢のやつを狙うようにしてるのかもしれない。
もしかしたら構えて待っている事から見逃されるかもしれないな。
もう逃げる悲鳴の声も無くなり、しばらく静寂が訪れる。
だがいつ襲い掛かってくるかわからないため、警戒は続ける。
「…もうそろそろ平気か…?」
「風で葉っぱが擦れる音ぐらいしかしないし…大丈夫だろう…」
「そうで…っ!? 危ないっ!」
「うおっ!?」
俺ら四人は突然クルルに背中を押されてガウルを後ろから押し倒すように転んでしまう。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「クルルっ!」
クルルの悲鳴が聞こえてばっと後ろを向くと、青い鱗を身に纏った何かの生物の口に咥えられて遠くへと連れてかれているクルルの姿が見えた。
「待てっ!」
起き上がって慌てて追いかけるが、巨大な尻尾で通った木々を壊されて足止めをされてしまい、見失ってしまった。
「くそっ!」
青い鱗ってことはレヴィか!
だがレヴィは北西にも南西にもいなかったはずだぞ!?
それが何で突然こっち側に!?
「ショーゴ!」
「クルルはどうなった!?」
「…ダメだ…見失った…」
「あの子…お姉さんたちを庇って…」
「ともかく追うぞ! 急げっ!」
クルルを追うために倒された木々を超えようとした時、クルルのHPが全損表示になった。
俺は慌ててクルルにメッセージを送るが、送信エラーになってしまった。
「クルル…」
「どうやらリタイアするとメッセージすら飛ばせないようだ…」
「おそらく情報規制されているんだろう…。リタイアした奴によっては有益な情報を持っているかもしれないからな…」
「それよかあの青いデカイのは何だったんだよ!? あんなのアリスちゃんのペットの中でいたか!?」
「あれはたぶんレヴィだ…。一度巨大化したのは見たことあるが、あの時よりもでかかった…」
おそらくイベント仕様で強化されてたんだろう…。
だがまさか上から襲い掛かってくるとは思わなかった。
しかしたまたま上を見たクルルが上から襲い掛かってきたレヴィに気づいて俺らを押し倒したんだろう。
道理であの巨体が土煙が起きないと思った。
まさか木の上に尻尾を引っかけて捕まえてたなんて思うわけがねえよ。
ペットまでこんな予想外な事するなんて想像つかねえよ…。
「だがこれからどうする。回復役のクルルがリタイアしてしまった以上、今後誰と相対するにしてもジリ貧になる可能性が高いぞ」
「一応ポーションは持ってきてるけど、五時間の中でそんなに連戦できるほど足りるかどうかってなると不安よねぇ~…。お姉さんも回復魔法持ってればよかったんだけど~…」
「てかアリスちゃんのペットってあんなにやべえの!? まだ四時間は残ってんだけど!?」
「…クルルがリタイアしちまったのは仕方ねえ…。だがレヴィがここから去ったって事はこれ以上はこの辺りにはいられないってことだろ。ならこのまま西に進むか」
一定時間を過ぎたか過ぎそうだったためにデバフが入るのを恐れてあのまま逃げたんだろう。
となると、おそらく一エリアにいれる時間は五分から十分の間。
クルルの犠牲でわかったっていうのはあれだが…それで無駄にやられたらそれこそクルルに怒られそうだ…。
「おや? この破壊痕はレヴィお兄様の仕業ですかね?」
「「「「!?」」」」
突然後ろの方から声がしたため振り向くと、黒い羽を羽ばたかせて空中に浮かびつつ赤黒いコートを羽織った金髪赤眼の女性がいた。
あれってたぶんアリスのペットだよな…。
まさかレヴィに続いてアリスのペットと早速連戦する事になるとはな…。
実は西側の方が鬼門だったんじゃねえのかこれ…?
特殊ペットたちがショーゴPTを襲う!(悪夢




