厄介ごとばかり増える
ライラックさんに連れられて一緒に島に上陸すると、ライラックさんの姿を見た島の人たちが次々に集まってきた。
「おやライラックさん、今回は少し早かったねぇ」
「えぇ、ちょっと近くに来たから寄ってみたの。皆さん調子はどうですか?」
「ライラックさんが持ってきてくれた薬とかのおかげで皆元気ですよ。でも数が減ってきたので、またお願いしてもいいですかね?」
「構わないですよ。じゃあ少し多めに持ってきた方がよさそうですね」
「ありがとうございます。船もまだ直ってないから自分たちで行けなくてねぇ…」
「魔物に襲われてしまっては仕方ありませんよ。それよりも大きな怪我が無くてよかったじゃないですか」
「いやいや、困ってたわしらをライラックさんが助けてくれたから島の者もこうして暮らしていけてるんですよ」
置いてきぼりにされてる感じはあるが、話を聞いているとどうやらライラックさんがこの島に援助しているように感じた。
最初は儲けのためとか言っていたが、もしかしたら援助しているのが他の人にばれるのが恥ずかしいとかから隠しているのかもしれない。
「なっ何笑っているんですか…」
「そんなことないですよ」
おっと、つい微笑ましい光景ににやけてしまっていたようだ。
チラッとこっちを見たライラックさんに叱られてしまった。
「それよりもライラックさん…そちらの方は…」
「先ほど近くで出会ったので連れてきたのです。どうやら香辛料がお目当てのようです」
「ということはわざわざ香辛料を購入しにこの島に?」
「えぇ、そのようですよ」
確かに香辛料目当てでこの島を目指してたとは途中で話したけど、そのタイミングでバラすんですか!?
いや別に間違ってないけどさ!
「わざわざ訪ねてきてくださってありがとうございます。香辛料ぐらいしか特産品がありませんが、ゆっくりしていってくださいね」
「はっはいっ!」
「じゃあせっかくですし、村長さん案内してあげたらどうかしら?」
「それもそうですね。ではどうぞこちらへ」
どうやら先程から話していたのは村長のようだ。
私は村長に村を案内してもらい、村の様子や香辛料の栽培の様子を見せてもらえた。
香辛料の栽培はよくわかってなくて、てっきり種を植えればよいと思っていたが、実際はそう簡単なものではなく、挿し木などを使って栽培する物もあるらしい。
細かい事はわからなかったので、この島で購入できる香辛料の栽培方法のメモを取らせてもらった。
栽培についてはとりあえずサイに頼んでみよう…。
農業で困った時はサイに任せるっていうのはいい加減やめた方がいいとは思うんだけど、だってサイが農業方面に関しては万能すぎるんだもん…。
「それにしてもかなりの量の香辛料を育てているんですね」
「いやはや、それぐらいしか特産品として出せる物がありませんからね」
「島ですし魚介類とかは難しいんですか?」
「えぇ…それがですね…」
「?」
「何か問題があるようですね」
村長と話していると、ライラックさんが何か異変を感じたのか私たちに近づいてきた。
「ライラックさんはご存知かと思いますが、この島の周辺にはよく魔物が徘徊するのです…」
「えぇ、確かに魔物の姿は確認しています。ですが、あれは解決したのでは?」
「そうだと思っていたのですが、最近になって別の魔物が現れるようになったのです…」
「つまりその魔物のせいで漁ができていないということですね」
「はい…。幸いこの島でも農業はしているので生活をする分には困っておらず、沖まで出なければ釣りで魚は取れますのですぐさま危険ということではないのですが、どうしても島の者が気になってしまっていますのでどうしたらよいかと頭を抱えていたのです…」
直接な危険はないとしても、島の周りにそんなモンスターが徘徊しているとしたら気になるのは当たり前だろう。
「それでその魔物の正体はわかっているんですか?」
「えぇ…一応は…。その魔物の名はクラーケンと言います…。かつてこの海を支配していた大海魔の配下として暴れ回っていたという話が書物に残っていました…」
大海魔と聞いてビクンと身体が反応してしまった。
幸いライラックさんも村長さんも気づかず、不審に思われなかった。
だが、私は内心でレヴィの先祖は一体どんなことをしでかしたのか気が気でなくなってきた。
「大海魔? 聞いたことがありませんね…。その大海魔についての記述は何か残っているのですか?」
「いえ、大海魔についての資料は残っていませんでした。どうやら大海魔自身はこのような小島など興味がなかったようで、配下に任せていたらしいです」
「ですがクラーケンを配下にするような水棲のモンスターとなると数は限られそうですが…」
ライラックさんはぶつぶつと考え込み始めた。
まぁクラーケンを配下にするぐらいの強い幻獣ってなると限られるだろうし、いずれ気づかれちゃうんじゃないかなぁ…。
でもレヴィがその大海魔の子供ということだけは気づかれないようにしなければ…。
「しかし、この島の周囲を支配するような強力なクラーケンをそう簡単に退治できますかねぇ…」
「それが記載されているクラーケンの大きさよりもだいぶ小さいので、もしかしたら子供なのかもしれません。それでも触手一本の太さが人一人簡単に圧し潰せるぐらいの大きさですが…」
「そうですか。それならまだ対処のしようがありますね。…となると一種のレイドボスと考えればよろしいですかね…。ですがそれを知らせてしまうとこの島のことまで知られてしまいますし、やはりここは…」
ライラックさんは村長の話を聞き、またぶつぶつと考え始めた。
なんだか嫌な予感が…。
後ろに後ずさろうとすると、私の肩にライラックさんの手が乗っかる。
「えっと…」
「アリスさん。もちろん手伝ってくれますよね? アリスさんはお優しい方でしょうし、困っている人の手助けをよくしているとも聞きます」
「…はい…お手伝いさせていただきます…」
「アリスさんありがとうございます。ということで村長さん、そのクラーケンを私たちで退治を試みてみます」
「おぉ本当ですか!? ありがとうございます! ですが報酬として用意できるようなものは…」
「でしたら香辛料をいくつか用意していただければアリスさんも喜ぶと思いますよ。アリスさんもそれでよろしいですか?」
「えぇ…まぁ…それで構いません…」
トントン拍子で話が進んでいるが、ここで拒否できるほど私は冷徹ではない。
だが船がない今、少なくても水中で戦う事になるだろう。
最悪レヴィに乗りながら戦う形かなぁ…。
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