【人魚姫】
「なるほどねぇ。それで人助けをしようってことかい」
「うん。だから色々街を回ってみようかなって」
「とは言っても、あたしもそこまで外を歩き回ったわけじゃないからねぇ…」
「別に街じゃなくても、古い祠とかそういうのでもいいんだけど…知らないかな…?」
「言っちゃ悪いがあたしはそこまで神様ってのを信じちゃいなかったからねぇ。悪いねぇアリス」
ナンサおばあちゃんに何か知っているか訪ねてみたが、あまり知らないようだ。
とは言っても、他に聞けるような人が…。
他に誰かいるかなと考えていると、ナンサおばあちゃんが「あっ」と声を漏らした。
「そういや港街から海に出るといくつも小島があるとか聞いた事あるねぇ」
「小島?」
「あぁ。その小島から香辛料を仕入れているって話だよ」
「ってことは、市場で買ってる香辛料ってその小島の品だったの?」
それは知らなかった。
てっきり街で栽培しているものかと思ったけど、よく考えてみたらそんな様子見られなかったしね。
「どうだい? 小島のやつらなら何かしら困ってる事もあるだろうし、手伝ってやんな」
「うん、ありがと。じゃあ行ってきまーす」
私はナンサおばあちゃんにお礼を言い、港街のハーフェンに向かった。
久しぶりにハーフェンに着くと、以前と違い多くのプレイヤーが見えた。
「そういえばこの時はまだレヴィだけだったよね」
「キュゥ!」
ここでレヴィと一緒にサーペントを倒して、お魚取ってイカグモさんのところに持ってってたりしてたんだよね。
でも急に大きいレヴィの姿を街の人たちに見せるわけにはいかないから、また人気の無いとこに移動しなきゃね。
私は周りを見渡しながら人気の無い場所に行き、こっそりと海へと潜る。
一応人目は気にしなきゃいけないから、少し深く潜ってからレヴィを大きくさせる。
【水術】もレベルが上がっているため、少しぐらいなら潜ったままでいられるからそれぐらいの余裕はある。
十分陸地から距離を取ったのを確認し、レヴィの背に乗って海を渡って小島に向かう。
「んー島はどこだろうねー?」
「ギュゥ!」
流石大海魔と言われたレヴィ。
その移動速度は速く、ぐんぐんと進んでいく。
道中モンスターに出くわしたけど、レヴィの大きな口で一飲みされているのだから哀れというかなんというか…。
しばらく進んでいると、小さな小島が見えてきた。
「レヴィ、あれかな?」
「ギュゥゥ!」
「とりあえず大きなレヴィだと怖がられちゃうかもしれないし、小さくなっとこうか」
「ギュゥ!」
「あらっ? もしかして【首狩り姫】?」
「えっ?」
島に近づいてきたので、レヴィを小さくしようと指示しようとすると、近くで女性の声が聞こえた。
思わずそちらを見てみると、青髪ロングで水色のビキニを着ている長身の女性がいた。
確かディセさんの取材の時に見たような…。
「……」
「ギュッ…ギュゥ…」
大きなレヴィを見られた事で、私とレヴィはつい固まってしまう。
やばいやばいレヴィの事をどう誤魔化したら…。
「あらその子は貴女のペットかしら?」
「えっ…えーっと…」
「そういえばちゃんとした自己紹介がまだだったですね。私はライラック、二つ名としては【人魚姫】って呼ばれてますわ。よろしくね」
「はっはい! 私はアリスです! ディセさんの取材でご一緒させていただきました!」
「ふふっ、そんな緊張しなくていいのよ?」
「はいっ!」
とは言われてもどうしたら…。
「それよりあの島に私以外のプレイヤーが来るなんてね」
「えっと…あの島は一体…」
「あの島はエアストとかに香辛料を輸出している島よ。でも最近はモンスターの関係でちゃんとした輸出ができてないの。それを私がしているってことね」
ほうほう、あそこが例の香辛料の…。
「でもなんで貴女一人で運んでるんですか? もっと大勢でも…」
「あら、そんなの決まってるじゃないですか。人が多くなったら私の儲けが減るじゃないですか」
「……」
ライラックさんはとってもいい笑顔で答えた。
あまりの爽やかな笑顔につい唖然としてしまう。
単に誰も誘わないのは稼ぎが減るからという理由だったのね…。
「でもこれで【首狩り姫】にこの場所を知られてしまいましたね」
「えっと…」
その言い方されると、秘密を知った人が犯人に殺されるようで怖いんですけど…。
「まぁ貴女ならあまり人に言いふらす方でもないですし、そこまで心配しなくてもいいですね」
「ふぅ…。でもライラックさんは船とか使わないでしているんですか?」
「ちゃんと【収納術】も持ってますし、逆に泳いだ方が早いのですよ。まぁ一部のプレイヤーは船を共同で作っているようですけどね」
船かぁ。
やっぱりそういうのも作りたいとかあるよね。
「でも船を作るってなると、木材が基本だと思うんですけど、武装とかはどうなるんですか?」
帆船とかってなると武装って何だっけ…?
大砲は確か戦国時代からはあったような…。
「それなら今合同で大砲を作ってるはずよ。確か個別フィールドを共同で使って色々作ってるっていう話ね」
「大砲ってそんな簡単に作れる物なんですか…?」
「まぁ四百年前には既にあったし、調べながら作ってるんじゃないかしらね? 少なくても火薬の材料である硝石や硫黄は見つかってますからね」
ってことは銃も作ろうしている人とかもいるのかな…?
でも銃のスキルなんてなかったけど…。
もしかしたら銃を手に入れたら解放とかってパターンかな?
「さて、せっかくなので島を案内しますわ。ついてらっしゃい」
「あっはいっ!」
私はレヴィを小さくしてライラックさんの後に続いて島に上陸した。
海で移動=レヴィに乗るが定着しつつあるという




