穢れし奇魂⑥
地揺れと大きな音を立てて倒れた巨大ゴーレム。
斬った部分はまだ燃え続けていたが、次第に全身が砕けて原型を留めなくなると火は消えていった。
どうやら消火活動は必要なさそうだ。
「お疲れ様、お母さん」
「ギュゥ!」
「少し疲れました…」
「皆もお疲れ様」
ミラも成人モードから少女モードに戻り、少し疲れた顔をしている。
結構血を使わせちゃったし、家に戻ったら血を少し吸わせてあげよう。
さてと…。
「くそっ…神たる我が何故こんな…っ!」
瓦礫と化したゴーレムの残骸の中から土地神が這いずり出てきた。
土地神はこの場から離れようと地を這いずりながら私たちのいる位置とは逆に進む。
もちろんそんなのを見逃すわけはない。
私は土地神に当たらないように【紺碧魔法】を放ちつつ近づく。
「何逃げようとしてるのかな?」
「こっ小娘がっ!」
「散々人間を下に見てたくせにその人間に負けた気分はどう?」
「お前らなんぞ我が力を取り戻していればっうごっ!?」
「五月蠅い」
私は地を這っている土地神の頭を踏む。
どこぞのドSだとか思われるかもしれないけど、結構私は怒ってる。
「頼むっ助けてっ!」
「…何を言ってるのかな…?」
「へっ…?」
私は頭を押さえつけてた足をすっと退ける。
土地神は助かったと一瞬安堵した顔をするが、それはすぐさま否定される。
私は土地神の頭をさっきよりも強い力で踏みつける。
「がっ!?」
「そう言っていた村人たちに貴方は何をした?」
村人たちは死ぬ間際助けを求めただろう。
それをこの土地神は笑い飛ばしていた。
そして今度は自分がその立場になったから助けてくれ?
ふざけるな。
自分が殺られる覚悟もないのに村人を殺しておいて、その上人柱となった少女の心までも弄んだ。
そんなやつに慈悲なんて与えてやるわけがない。
私はすっと打刀を鞘から抜く。
「やめろっ! 神殺しになるぞっ!」
「だから…?」
それが何だというの?
こいつを逃がす方がよっぽど罪が重い。
「やめっやめろぉぉぉぉぉっ!」
「地獄で殺した人たちに詫びるんだね」
そのまま私は打刀で一閃する。
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私は霧散していく土地神から後ずさって少女の白骨死体のところに戻る。
「ネウラ、その遺体ってお墓作るまで大丈夫かな?」
「んと、ずっと冷たいところにあったのを急に日に晒しちゃったこともあって少し欠けてる部分もあるけど、たぶん大丈夫だと思う」
「なら村人のお墓も一緒に作っちゃおうか」
「でもお母さん、この土地の生命力が結構無くなっちゃってる感じがするから、年月が経つとお墓参りに来た人が迷っちゃうと思うよ? 仮にも土地神がいたから荒れずに済んだところはあるけど…。せめて精霊か何かがいれば少しは変わると思うけど…」
「ってことはこの土地に生命力が戻らないと荒れ果てるだけって事?」
ネウラは小さく頷く。
とはいえ、土地神に吸われた生命力もどうやって戻せば…。
ある意味土地を復活させるみたいなものだけど…。
土地を復活させるような魔法なんて…。
「あっ…」
もしかしたらいけるかもしれない。
とはいえ、そんなことができるかわからないけどやってみるだけやってみよう。
私は減ったMPをポーションで全て回復させて準備する。
スキルの入れ替えに村の中心部への移動と準備のためにやることは色々あった。
それに土地神が力を吸っていたため急がないと完全に霧散してしまう可能性もあった。
「そういえば…あの子が消える時に残ってた物だし、きっと大切な物なんだよね…」
私はあの少女が霧散した時に残った小さなガラス玉のようなものを、白骨死体の上に置く。
さて、これで準備は終わった。
「じゃあ私はこれから詠唱に入るから、三人は周りの警戒をお願い」
私は頼もしいペットたちにお願いし、呼吸を整える。
「『よみがえる。そう、あなたはよみがえるだろう』」
過去に聞いた事のある交響曲。
曲の内容が少し気に入って一時期かなり聞き入ってたのを思い出しながら続ける。
「『私の塵よ、短い憩いの後で。あなたを呼ばれた方が不死の命を与えてくださるだろう』
一文一文丁寧に、祈るように歌う。
「『あなたは種蒔かれ、ふたたび花咲く。刈り入れの主は歩き、我ら死せる者らのわら束を拾い集める』」
この地で散った魂たちが囚われる事のないように。
ただそれだけでいい。
「『おお、信じるのだ、わが心よ、信じるのだ。何ものもあなたから失われはしない。あなたが憧れたものはあなたのものだ。あなたが愛したもの、争ったものはあなたのものだ』」
人柱となった少女。
自分が何のために生贄になったのかわからず恨み悔やんだ少女。
だからこそあなたに伝えたい。
「『おお、信じよ。あなたは空しく生まれたのではない。空しく生き、苦しんだのではないと』」
どうかあの子に安らぎを。
「『生まれ出たものは、必ず滅びる。滅びたものは、必ずよみがえる。震えおののくのをやめよ。生きることに備えるがよい』っ!」
「!? お母さんっ!」
歌の半分ぐらいが今の私の限界だったのか、私はその場で崩れ落ちそうになる。
そこをなんとかネウラが支えてくれたおかげで倒れずには済んだ。
自分のステータス状況を見てみると、MPは空になっており、HPも半分程減っていた。
しかし減っているということは何かしら効果があったのだろう。
歌っている最中は気づかなかったが、蛍のような小さな光が辺りを照らしていた。
その光は木々や土に吸い込まれ、一瞬光ると何もなかったかのように無反応となった。
「これ…土地に生命力が戻ってる…気がする…」
「じゃあ成功ってことでいいのかな…?」
成功したなら成功したで消耗した甲斐があった。
「ごっご主人様っ!」
気が抜けて後ろに寝っ転がった私にミラが慌てて声を掛ける。
「ミラ、どうしたの?」
「あっあれをっ!」
「あれ?」
私は起き上がってミラの指差した方を見ると、少女の白骨死体を寝かせていた場所に光が集まっていた。
一体何事かと思って焦ったが、小さくなったレヴィが私にすり寄ってきたのを見ると害のあるものではなさそうだ。
七大罪の一角であるレヴィは悪意を感じる事ができるのかもしれない。
そのレヴィが何も感じていないということは大丈夫なのだろう。
しばらくすると、少女のいた場所が大きく発光し、私たちは咄嗟に目を瞑る。
発光が止んだのか、眩しくなくなったのを感じてゆっくりと目を開けると驚くべきことが目の前に広がっていた。
「これはまた…」
「これもお母さんの力…?」
「キュゥ!」
レヴィたちが驚くのも無理はない。
何故なら少女の白骨死体があった場所には、骨ではなく肉体を得た少女が横たわっていたのだから。
「一体これは…」
「んっんぅ…」
私たちが驚いていると、少女がゆっくりと目を開けた。
「ここは…」
少女は顔を傾けてこちらを見る。
「……」
「……」
まだ意識がはっきりとしていないのか、寝たままゆっくりと周りをキョロキョロと見ている。
そして今度は自分の身体を触り始めた。
顔、腕、身体、足といった具合に確かめるように触っている。
「あれ…? 私…なんで…?」
「えっと…」
「!? 貴女は…」
「ごめん私も状況をよくわかってないんだけど…君ってさっきまで私たちと戦ってた…子…だよね?」
「うん…。私の記憶が正しければ…そう…だと思う…」
私たちはお互いの顔を見て、一体何がどうなっているのか理解が追いつかなかった。
いいぜ。ホラーミステリー物がBAD ENDで終わらせるっていうなら、まずはそのふざけた幻想をぶちこr(ry




