穢れし奇魂③
ヒストリアから西の森を移動中、ペカドさんに聞いた話を纏める。
日記の年号を見た限り、廃村になったのはやはり五十年以上前の事だった。
廃村になった原因は、突然虫の大群に襲われ村は壊滅したため。
ペカドさんたち一家は村を離れる準備をしていたため、なんとか無事だった。
そして廃村になる前、人柱として少女が選ばれ、効果がなかったため一家も人柱とされた。
こうなると少女の正体は怨念というのが一番の線なんだけど、それならそれで森にいる時点で襲ってこないのは少しおかしい気がする。
となると正体は他の何かということなのだが、その何かは予想がつかない。
そもそも怨念って虫を操れるものなのだろうか。
テイマーならともかく、ただの少女がそんな多い虫を操れるとは思えない。
そうなると虫を操る能力と少女はまた別なのではないかと考える。
例えばだけど、怨念となった少女が死後近くにいた虫を操れるようになったのが発端とかね。
でも操れるようになったとしても、そこから廃村までの期間が短すぎる。
こちらの人たちはスキルレベルの上昇率は異邦人に比べて渋い。
それが村を壊滅させるほどすぐ上がるものなのかが引っかかる。
もしかして何かが少女の怨念に力を与えた…というのが今のところ考えられることかな?
「っと、そろそろかな?」
廃村の場所から少し離れた場所にそろそろ着く。
ある一定の距離まで近づくと少女が現れるというので、私は木から降りて地面をゆっくり歩く。
「お姉ちゃん、こんなところでどうしたの?」
しばらく歩くと、森の中から目撃情報の栗色の髪をした少女が現れた。
「うん。この先にある廃村に行きたいんだ」
「なら私が案内するよ。ついてきて」
「ありがと」
情報通り少女が私を案内し始めた。
まぁ件の少女なので、私は何の躊躇いもなくついていく。
少女の足に合わせて森を進んでいると、私が何も言わない事が気になるのかチラチラとこちらの様子をうかがっている。
まぁ普通ならなんでこんな森にいるのか聞いてくるところなのに、何も言わずついてくるからね。
しかも襲われるっていう話も広まってるのに、武器を構えていないのを見たら余計に気になるよね。
少女についていくと、森を開いて建物がいくつか建ち並ぶ村に出た。
そして少女は私から距離を取ってこちらを向く。
「…一ついい?」
「何かな?」
「何で武器も構えないでついてきたの?」
少女が私に問う。
今まで出会ってきたプレイヤーたちは、最初は敵対心はなくても武器は構えていたのだろう。
そして少女が村に着くとプレイヤーを襲うという話は既に広まっている。
少女もそれを認識しているのであろう。
だが、私はその話を知っているのだろうにも関わらず、武器を構えずに大人しく少女についていった。
少女にはそれが疑問だったのだろう。
「別に君を倒すためにこの村に来たわけじゃないからかな?」
「えっ…」
「君が村に着いたら私たちを襲うっていう話は知ってるよ。でも、襲うなら森の中の方が姿も見えないし、君自身の安全性を考えたらその方がいい。でも君はしなかった」
少女は私を襲うことなくじっと話を聞いている。
なので私はそのまま話を続ける。
「どうしてだろうって思ったよ。でも君が姿を現すのは何かあるんじゃないかと考えた。まるで村に来てほしいみたいに…ね。最初は村の中だと強くなるって考えたけど、特にそういうのじゃなかった。じゃあなんだと思う?」
「それを私が答えると思うの?」
「そうだよね。答えるわけないよね。でも私は考えた。姿を現す必要がないのに現す。案内する必要がないのに案内する。まるで何かを見つけてほしいみたいに…」
私はチラっと少女の顔を見る。
表情は変わらなかったが、私の話を聞いてから手を強く握っているのが確認できた。
おそらく私の予想は当たっているのだろう。
だから私はその予想を口に出す。
「君は…見つけてほしかったんだよね…君自身を。人柱にされてしまった君自身を…。村のために犠牲になったにも関わらず村は何も好転しなかったため…怨まれ…蔑まれ…怨嗟の声を聞き続けた君はいつしか村人を…」
「うっ…あっ…あ…あぁ…。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
少女は私の言葉を遮り頭を抱えて悲鳴を上げる。
そして少女の背後から無数の虫がこちらに迫ってきた。
「レヴィ! ネウラ!」
「キュゥ!」
「うんっ!」
私はネウラとレヴィを召喚する。
「二人ともあの虫と女の子を足止めして! 女の子は絶対に倒しちゃダメだよ!」
「キュゥ!」
「任せてお母さん!」
レヴィたちは【体形変化】で身体を大きくし、ネウラに至っては蔓が何本も生えている最新形態になった。
まぁ虫相手なら食虫植物と化したネウラは天敵だろうしね…。
「ギュゥゥゥ!」
「さぁ食べられたい子からおいで!」
二人が迫ってくる虫たちを威嚇する。
虫たちも本能から二人のやばさを感じたのか動きを止める。
私はその間に村の中に見えている建物に向かう。
「あの様子からすると、あの子自身を見つければこの異変も何か進展するはず…!」
とはいえ、明かりも何もない建物を一人で見るのは時間的な関係から厳しい。
なので…。
「ミラ、まだ昼間だけどお願い!」
「大丈夫ですよご主人様。でも急いでる今の状況の移動はご主人様に任せます」
昼間だが、暗いところを短時間で見るのにはミラの力が必要だ。
私はミラを呼び出して彼女を抱えて移動する。
私があの子を見つけるまで頼んだよ…レヴィ…ネウラ…っ!
※ホラーを書いているつもりはありません。




