吸血鬼イベント②
転移させられた私とルカは、気が付くとエアストの街と同様に石やレンガで作られた家や造形物が見られる広場のような場所にいた。
一瞬エアストに飛ばされたのかなとも思ったが、顔を上げると山の上に立っているようなお城が見えた。
所謂山城というお城なのだろう。
周りの風景に見とれていると、ルカが私の袖を引っ張る。
「アリス、情報収集しよ」
「あっ、そうだね」
いけないいけない。
今はイベント中だった。
そういえば今回は期間とか言ってなかったけど、それも含めて調べろってことかな?
さて、情報と言えば酒場だけど…。
「酒場には先に行ってる人もいるだろうし、私たちは街の人に話聞こうか」
「確かに、意外に街の人の方が知ってるかもしれない」
私たちの方針は決まった。
ではどの人に聞くとなる。
酒場以外で情報が集まる場所と言えば…。
「それでここ?」
「うん」
私たちは市場に移動した。
市場は人が多く賑わっており、人の熱気と多さで私とルカは少し酔いそうになる。
だが、ここで疲れていては情報など集められない。
私は気合を入れて、お店を開いている中でお客さんが丁度いなく、手持ち無沙汰なガタイのいいおじさんに声を掛ける。
「すいません」
「おっ、可愛いお嬢ちゃん。何が欲しいんだい? この野菜なんてどうだい? 採れたてで美味しいよ!」
「確かに美味しそうですね。でも私たちおじさんいすこーし聞きたいことがあるんですよ」
「おっなんだい?」
「…吸血鬼について何か話は聞いたことありませんか?」
「おや、お嬢ちゃんたちそっち側か」
どうやら今の一言で、私たちが一般市民ではなく冒険者という事がわかったらしい。
「まぁその手の話を聞いたことがないわけではないな。でも…」
「話を聞きたいなら何か買ってけってことですよね? ではお勧めの物をお願いします」
「察しがいいねぇお嬢ちゃん。じゃあこれでどうだい?」
「とっても美味しそうです。後で食べさせていただきます」
おじさんは私に人参の束を渡す。
私は掛かれていた値段の分お金をおじさんに渡す。
これで交渉成立だ。
「さて、情報だな? お嬢ちゃんが言った通りに、この国は今吸血鬼の襲撃が予見されてる」
うん、これについては社長も言ってたからわかっている。
「でも、この国が吸血鬼に襲われてるってのは、今に始まったことじゃないんだよ。と言っても、ここ百年ぐらいかららしいがな」
「えっ?」
意外な情報に私とルカはキョトンとした表情になる。
「この国に住んでるやつなら知ってる話なんだが、昔この国は吸血鬼に助けてもらったんだよ」
ん? どこかで聞いたことのある話だなぁ…。
「助けてもらった礼にお姫様を要求したんだが、それを昔の王族は拒否して吸血鬼を襲っちまったんだよ。そのせいで一度この国は反乱が起こったんだよ。まぁ、結果的にその王族は倒れて新しい王族が出来たんだけどな」
「それ、ホント? 都合のいいように変えられてない?」
今まで黙っていたルカが、おじさんに疑問を問いかける。
確かにルカの言う通りに、話がねつ造されていないとも言い切れない。
だがおじさんはルカの言葉を否定する。
「確かにその話は嘘だと言うやつもいた。でも証拠が出てきたんだよ」
「証拠?」
「昔の魔法か魔道具かなんかに、映像を記録するやつがあってな。その映像に当時の王族と吸血鬼が契約を交わすところが映ってたんだよ。しかも別のやつには吸血鬼を奇襲で襲うところまでな」
「酷い…」
私は思わず言葉を漏らしていた。
ルカも眉を細めて悲しそうな顔をしている。
そんな証拠があったのならば、反乱が起きてしまったのも納得できる。
「でも新たな王族は吸血鬼を弔ったんだけどなぁー…。それがなんで今になってってところだな」
逃げ延びた吸血鬼が成長したか、力を取り戻したかで戻ってきたのだろう。
それでこの国に復讐を…というところかな?
「それで吸血鬼に襲われてるって、どういうこと?」
「それがな、二~三十年単位か? それ毎にこの国の女王様が変わってるんだよ」
「そんなにコロコロ変わるんですか?」
女王なんてそうそうコロコロ変わる事じゃないし、何かが起こっていることは確かだろう。
「でも女王様が変わったからって、吸血鬼に襲われたことになるの?」
「まぁ噂っていうのは結構広まるもんでな。最初は何か事情があると思われたんだが、何回も起こるとな…」
「それで吸血鬼ということですか」
「まぁな。どっかの誰かが口を滑らせたか知らんが、血を吸われた痕が吸血鬼っぽいだったとか、人間とは思えない力で女王様が殺されたとか、そんな感じの噂が立ってな」
少なくともこのイベント前からプレイヤーがいるわけでもないし、そうなるとプレイヤー以外で力が強い人型と言うと、鬼とかになる。
そして血を吸った痕といったこともあることから、犯人は吸血鬼であろうという予想だろう。
更にこの国は吸血鬼と縁が深い面もある。
そういう思考に行くのも自然な流れだったのだろう。
「貴重な情報ありがとうございます」
「どもです」
「参考になったのならよかったよ。まぁ色々調べるだろうが、気を付けろよ」
「はい」
私とルカはおじさんにお辞儀をして市場を去っていく。
そして私たちは人通りの少ない路地に入り、相談する。
「ルカ、今の話どう思った?」
「嘘は言ってないと思う。矛盾はなかったと思う」
「だよねぇ…」
聞いた限りでは違和感はなかった。
となると、少なくとも伝わっている話は真実味がある。
「じゃあ次どうしよっか」
「アリスの考えている通りにする」
「なんで私が考えてるって思ったの?」
「アリスの事だから、話を聞いたら何かしら考えてそうかなって」
ホントこの子は変なところ勘が良いなぁ…。
確かに、おじさんの話を聞いて次の行き先は考えていた。
「じゃあ行こうか」
「うん」
私たちは路地から出て王城へと向かった。




