弟子入り志願
試験期間も近づきつつあるので、少しゲームの時間を削る必要が出てきた。
正悟はたぶん気にせずにログインするんだろうけどね。
それで試験前に泣きついて来るのはもはやテンプレと化している。
そうなる前に勉強しておけばいいのに…。
とはいえ、丸一日ログインしないわけではなく、休憩としてログインしてサイとリアの様子の確認と在庫とかの調整はしている。
第三陣が来るということで、少し準備をする必要があるからだ。
まぁ私のお店に第三陣が来るとは思えないけど、念のためということで準備する。
第三陣が来るときに店主の私がいないのはちょっとあれなので、その日はログインできるように今の内に勉強しとかないと…。
講義が早く終わったため、夜に勉強会ということで正悟と鈴の三人で集まった際に、鈴に銀翼とかは新しいメンバーを集めるのかを聞いてみた。
「そうね~…団長次第だと思うけど、気に入ったプレイヤーとかがいれば勧誘するんじゃないかしらね~?」
「団長さんが気に入りそうなプレイヤーかぁ…。どんなプレイヤーが当たるのかな?」
「アリサみたいな子とかかしらね~」
「私みたいなプレイヤー?」
それって首切ったりするプレイヤーの事かな?
そんなプレイヤーはそうそういないだろうし、探すのも大変だろうなぁ…。
「盛大に勘違いしているようだけど、何をどうしたら勘違いするんだ?」
「そこがアリサの可愛いところじゃない~」
「えっ? 何?」
「なんでもないわ~。それより正悟、そのプリントの内容覚えたかしら~?」
「うっ…」
正悟は暗記科目が特に苦手だ。
計算するような問題はある程度はできるが、微積やそういった文字式となると…。
ちなみに私は苦手分野も特にあるわけでもないので、そこそこの点数は取れる。
鈴は全体的にできるので、ほとんど高得点を取る。
本当に羨ましいことだ。
「んにしてももう第三陣かぁ…狩場が混んじまうかもなぁ…」
「まぁ第一陣とかはもう古都から王都付近が活動範囲だし、そこらへんの心配は大丈夫よ~」
「私はちょっと人が混むのは嫌かもー…」
「アリサは人見知りだしなー…」
私の活動範囲はエアスト周辺だしなぁ…。
一万人も増えたら人混みに酔いそうだし…。
「それよりも、また新人に絡まれないように気を付けてね~?」
「最初の海花みたいなのは流石にないといいけどなぁ…」
前回みたいな事が起きないように、今回はお店でじっとしているが吉かな?
ゲームと試験勉強を並行していると時間が進むのが早い。
いつの間にか第三陣が参加する日になっていた。
私は第三陣がログインする前にログインし、お店で待機しておく。
リアとサイにも今日の事については既に説明済みなので、たぶん大丈夫だろう。
そして第三陣がログインし始める時間とともに、お店の外が少し騒がしくなったように感じた。
中堅とかはきっと勧誘に必死なんだろうなぁ…。
それにしてもギルドかぁ…。
誘われたりはしたけど、特に考えていないんだよね。
するとお店のドアが開き、誰かが入ってきたので挨拶をする。
「いらっしゃい…ってショーゴか」
「あからさまに残念そうな顔するなよ」
お店に入ってきたのはショーゴといつもの四人だ。
「んで今日はどうしたの?」
「たんにポーション買いに来ただけだ。用っていうほどの事はないな。にしても全く新参来てないようだな」
「まだ始まったばっかりだし、そもそも私のお店知ってる第三陣っているの?」
そんなのは第三陣次第だから知らん。とショーゴは軽く鼻で笑う。
まったく。
そんな態度取ると高くしちゃうぞー。
「アリス、やっほー」
またお店のドアが開いたと思ったら、今度はルカが現れた。
えっ?
何これ私のお店に集まるよう打ち合わせでもしたの?
「ショーゴ?」
「おい冤罪だ。特に声は掛けてねぇよ」
「人が多いから避難しにきた」
いや、私のお店は避難場所じゃないからね?
でもこの流れ、きっとまだ誰か来るな。
「お姉様ー!」
ほら…やっぱり来た…。
私はため息を付いて頭を軽く手で掻く。
「何でそんなに残念そうにしてるんですか!?」
「一応聞くけど、何でお店に来たの?」
「はい! お姉様に会いに来ました!」
「……」
ほんと頭痛い…。
「海花、アリスが困ってる。焼きそばパンでも買ってきて」
「何であたしが買ってこないといけないのよ!」
「海花が一番年下」
「それを言うならあなたが一番背も小さいし、胸も小さいんだからあなたが買ってきなさいよ!」
「あ?」
ちょっと…何二人熱くなってるの…。
てかルカ…ちょっとキレてない…?
仕方ない、この場を収めるためにあれを使おう。
私はリアにケーキの乗ったお皿を持ってもらい、いがみ合っている二人に一緒に近づいてケーキをフォークで一口サイズに切り取り、二人の口に突っ込む。
「「ん~~!?」」
「落ち着いた?」
私が聞くと、二人はロボットのようにゆっくりと顔をこちらに向けた。
「なんですか今のとっても美味しいケーキは!?」
「とっても甘くて美味しかった」
「んで頭冷えた?」
「「…はい…」」
「よろしい」
先ほど二人に食べさせたケーキは、山王鳥の卵を使った試作ケーキだ。
山王鳥の卵は元々がとっても濃厚であり、ただ茹でて食べたとしてもそれだけでいけるほどだった。
なので味の主張が大きい山王鳥の卵は、逆に調理するのが少し難しかった。
色々と試行錯誤した結果、うまくいったのがこの試作ケーキだ。
「てか二人って仲悪かったっけ?」
「いっいえ…そんなことは…」
「むかつくけど、一応信用はできる」
「ちょっと! あたしがお茶を濁したのに直球で言わないでよ!」
「でも事実」
えっと…仲良いのかな…?
なんだろう…無駄に疲れた…。
「ルカも海花もだけど、買い物しないなら他の人が来たら邪魔になっちゃうから、席に座るか手伝うかのどっちかにして」
「手伝うって…あれ着ないとダメ…?」
あれとはメイド服の事を指しているのだろう。
私は無言で頷くと、ルカは少し嫌そうな顔をする。
海花は何のことだろうと首を傾げる。
「とりあえず三人とも、話してるところ悪いが客来てんぞ?」
「「「えっ?」」」
ショーゴに呼ばれてそちらを向くと、サイより少し大きいぐらいの男の子がショーゴたちに囲まれていた。
「こっここが首狩り姫の店なのかっ!?」
「そうだけど…。それで私が一応その首狩り姫って呼ばれてるけど…」
私が首狩り姫だと名乗ると、男の子は私の方に走って近づいてきた。
「頼むっ! 俺を弟子にしてくれっ!」
「…はい…?」
突然の事で私の頭が追いついて来ない。
弟子…?
弟子ってあの弟子?
教え子とかそういう感じの?
って、そうじゃない。
私は男の子に何で弟子になりたいのかを聞いた。
話を聞いてみると、どうやら幼馴染の大人しい女の子が同級生のPTに無理矢理? かよくわからないけど所属させられているらしい。
男の子はその幼馴染を同級生のPTから抜けさせたいが、それには一つ条件があって、来週行われる小規模イベントでその同級生たちに勝てば抜けさせてやるっていう話らしい。
よくわからない条件なことで。
まぁ一種のいじめみたいなものなのかな?
「それでなんで私ってなったの?」
「その…困って下を向きながら歩いてたら、語尾ににゃんとか猫っぽい語尾の人に会って、説明したら首狩り姫にお願いしてみたらもしかしたら何とかなるかもよ、って言われてこの店の場所を案内されて…」
…リーネさん!
あなた厄介事持ち込んで!
…まぁ私ならちゃんと話聞いてくれるだろうし、何か手助けしてくれると思って言ったんだろうけど…。
せめてメッセージで一言欲しかったな…。
また怒られても知らないよ…?
「でもPT抜けさせるぐらい他の方法でもなんとかなるんじゃないの?」
「そいつらなんか第二陣に兄がいて、そのギルドがバックについてるとか言ってたから…。しかもそのギルドに所属している兄も一緒にあいつらといたから…俺…」
第二陣のギルドか…。
ってことはそこまで大きくないと思うけど…。
ふと顔を上げて周りを見ると、なんだか周りがやる気で燃えてるような…。
「ふふふふ…第二陣のギルドでよくそこまで威張れたものですね…」
「女の子を脅すやつに容赦はいらない」
「うふふ~お姉さんも協力するわよ~?」
「えぇ、もちろん手伝いますよ」
「寄ってたかって男一人を虐めるとは男らしくないな」
「何か皆やる気だし、俺もやる気出すかー!」
えっ?
なんで皆そんなやる気出してるの?
今の話のどこにスイッチがあったの?
確かに可哀想だとは思ったけど、そこまで反応するところあった!?
「しょっ…ショーゴ…」
「…お前ら落ち着け」
ふぅ…。
ショーゴは落ち着いてるっぽい。
「やるなら徹底的にやらねえとダメだろ。子供の喧嘩に関係ないやつが口出すことじゃねえ。だが、今回はその関係ないやつを巻き込んだ。ってことは、俺らが手を貸しても問題ねえよなぁ?」
あっ…これダメなやつだ…。
ショーゴに釣られて皆ゲスな笑み浮かべてるし…。
男の子それ見て軽く涙目になってるじゃん。可哀想に…。
てかほんと皆どこが琴線に触れたの…?
琴線に触れたヒント:一人 対集団 女の子 幼馴染 いじめ
さぁ一体どういうことなんですかねぇ?(棒)
活動報告にて、描いていただいたイラストを載せましたで、よかったらどうぞご覧ください。(イラスト②、イラスト③)




